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『猛人間注意 噛みます』

我が家に訪れた『ピンポン連打小僧』の件から、一気にここまで来た。
門扉の取り付けも終わった。あとは、どんなふさわしい文字で、セールスを断るかだ。『セールス不要 ブン殴ります』のステッカーも10日間くらいは貼り付けていた。しかし、これでは要らぬトラブルを我が家に招き入れることにもなる。『ブン殴ります』は剥がした。いまは黒字で、『セールス不要』と、小さな縦書きで『セールスお断りします。インターホンを押すな』だけだ。これだけでは、私には物足りない。セールス者にとっても、同様だろう。セールス者には、一瞬たじろいでもらわないといけない。

『猛人間注意 セールス不要 噛みます』
私はこれを玄関に貼るつもりだ。『セールス不要』は生かそう。ひとり暮らしだったら『猛人間注意 噛みます』にしただろう。けれど、老齢の両親のこともある。ぎりぎりの線がこれだった。
犬を狩っていれば、『猛犬注意』でよかった。しかし、いい大人が嘘をついてはいけない。当然、『猛人間』とは私のことになるだろう。

当初『噛みつきます』も候補にあがってはいた。
『噛みつきます』は前のめり過ぎるのではないかとの疑問がわいた。自ら進んで噛みにいく印象を与えかねない。これが、日本語の難しさと面白さだ。
だから『噛みます』とした。
「なにもなければ噛みませんよ。なにかあったら噛みますけれどね」、そんなかんじで『噛みます』とした。

『ユーモアっ気』と『パンクっ気』を混淆させて、センスで包み込むのは難しいものだ。
今回は成功だろう。私は力を尽くした。勿論、そこには、サッカーウルグアイ代表のスアレスへのリスペクトがある。スアレスは試合中に相手を噛んだ実績がある。マイクタイソンのように両手がグローブで塞がっていたわけではない。五体は自由だった。そのなかからスアレスが選んだのが『噛む』だ。どうしてなのだ。わからない。スアレスにしかわからない。本能だ。偉大なサッカー選手はときに突飛な行動を起こす。ジダンの頭突きもそうだ。

私はこれを面白がる。相手とのどんな差別的なやり取りや挑発、侮辱があったにせよ。相手の足をへし折るとか、殴るとかではない。相手の選手生命を奪う暴力行為だってできたはずなのだ。そう考えると、彼らが紳士に思えてくるではないか。本能的な暴力から、『噛む』『頭突き』を選んだ両者が好きなのだ。チャーミングではないか。私からすれば、頭に血が上った作為的な『足裏タックル』のほうが遙かに、野蛮なのだ。足裏タックルは選手生命に関わる極めて悪質なものだからだ。『噛む』『頭突き』には愛嬌しかない。

ということで、我が家の玄関には3㎝角のまあまあのサイズの文字が貼り付けられることになる。その為にプラスチッックの板まで買ったのだ。
『猛人間注意 セールス不要 噛みます』だ。


これでいい。『猛人間注意』『噛みます』が、赤字の柔らかめの『丸ゴシック体』なのがいい。これで黒字の『セールス不要』が際立つ。私の計算どうりだ。後はおとなしめで控えめな私が『猛人間』に変身できるかどうかにかかっている。

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