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怪人二十面相 THE-LAST-MYSTERY


プロローグ

今から約60年前、この国を騒がせた盗賊がいた。
そいつは、とびきり変装の天才であり、声色も自由に変えることが出来る。どんなに明るい場所で、どんなに近寄ってながめても、少しも変装とはわからない、まるで違った人に見え、老人にも若者にも、富豪にも乞食にも、学者にも無頼漢にも、イヤ女にさえも、まったくその人になりきってしまうことが出来た。
幸い、盗賊は刑務所に入れられ、終身刑を言い渡された。
しかしまたソイツの名を名乗る大盗賊が現れた。

その名は二十面相

戦い再び

「小林先生!」
書生の大木が囁いた。
小林少年...いや小林氏はゆっくりとシワだらけの顔を上げた。
「ん。なんだ?大木くん。」
細い体にスーツとソフト帽、黒縁メガネをかけている。
「着きましたよ。」

ここは日本一監視レベルが高い刑務所(永鎖特殊犯罪者刑務所)。ここにかつて日本中を騒がせた盗賊、二十面相が収容されている。

まず大木が先に降り小林氏がドアから出るのを手伝った。
もう73歳だ。杖をつかないと歩けない体になってしまった。
だが彼の推理力は衰えていなかった。
黄金の怪獣事件以来、小林氏は自分で探偵事務所を立ち上げ、さまざまな怪事件を解決していった。
そんな彼に二十面相が会いたいと言っているのだ。

永鎖特殊犯罪者刑務所は地下深くにあり、そこは金庫といっても良いぐらい頑丈で外部との接触は1年に1回ぐらい。囚人は全員、二十面相の様な奇抜な考えを持つ犯罪者だ。

所長の許可を得て大木書生と小林氏は飾り気の無い小部屋に通された。部屋の真ん中にガラス張りの仕切りがあり、二個の椅子が寂しく置かれている。
そのガラス張りの仕切りの向こうにも椅子が置かれており、そこに囚人服を身にまとった老人が腰を下ろしていた。
顔はシワだらけで白髪だが腰は曲がっておらず、元気そうだった。

この老人こそが二十面相なのだ。

小林氏がまず椅子に座り、大木書生もその横の椅子に腰を下ろした。
二十面相は側にある小さな机の上置いてある受話器を手に取った。
「久しぶりだね。小林くん。」
91歳の老人でも声ははっきりと聞き取れた。
今度は小林氏が受話器を取り答えを返した。
「こちらこそ。遠藤・平吉老人。」
「おいおい。オレの名は二十面相だぜ。獄中でも二十面相で呼んで欲しいな。」
「分かった。二十面相。」
小林氏がこう呼ぶと二十面相はニヤリと笑った。
大木書生はこの様子が不思議でたまらなかった。目の前にいるのは元明智小五郎の助手であり名探偵の小林・芳雄、向こうにいるのは日本中を騒がせた怪人二十面相。
(なんで小林先生は平然としていられるのだろうか?)大木書生は自分に問いかけた。答えは無かった。

「ところで二十面相、話したい事とは何だ。」
小林氏の声で大木書生は我に帰った。

「近頃、君はオレと同じような大怪盗の捜査に手こずっているらしいね。」
この事に小林氏はビックリしてしまった。

「な...なぜそんな事を知っているんだ?!」

「日本中には未だにオレの部下がいるからね。まあ話を聞け。」
と二十面相は言い椅子にもたれた。

大木書生は学生服のポケットに手を突っ込んだ。中にはコルトM1911拳銃の冷たいグリップがあった。(これで何があっても小林先生を守れる。)大木書生は自分に言い聞かせた。

「さて。ついさっきも言ったように君が今捜査している事件のヒントを伝えたいんだよ。」

「ヒント?!」

また小林氏はビックリした。怪人二十面相がヒントをくれるなんて今まで一度も無かったのだ。

「そうさヒントだよ。ただし一度しか言わないぜ。よく聞いとけ。”お前の捜査している怪人は赤の他人ではない。お前と面識がある。奴は月に一度夜更かしで宴会を開く。最後にソイツはオレの夢を実現しようとしている。” 以上だ。」

(面識?二十面相の夢...つまり美術館を実現しようとしている....、夜更かしで宴会?)小林氏の頭では手当たり次第に記憶を掘り起こしていった。(見つからない。掴んだような気がするが何かが抜けている。これがあればハキリ掴める。これが無いと...)

「フフフ。ハッキリと思い出せないようだね。んじゃ、大ヒントをあげよう。」受話器から声がした。

ネコ娘

その途端、小林氏の記憶がハッキリした。
(面会、夜更かしで宴会を開く、ネコ娘、)
一つの景色が目の前に浮かんできた。
うっそうとした森の中にポツンとあるネコだらけの家。黄金豹!

「まさか!!」
小林氏が突然、椅子から乗り出したので大木書生は身構えた。

「どうしました!?先生?!」

「イヤ。何でも無い....。つい興奮してしまった。」

ガコン!と何処かで重い音がしてドアが開き、制服の警官が入って来た。

「面会時間が過ぎましたからお引き取り申し上げます。」
警官が言った。

「分かった。大木くん、ちょっと肩を持ってくれないかね。」
「はい。」
大木書生は小林氏の肩を持つとゆっくりとドアの方に歩き出した。
最後に後ろを振り向くと、二十面相が、なんと今まで見向きもしなかった大木書生にニヤリと笑いかけた。

予告状

「イヤーそれにしても二十面相は凄いですね。僕はアイツの放つ異様な空気のせいで、話に付いて行けませんでしたよ。」

セダンを運転しながら、大木書生が言った。
後部座席には小林氏が座っているが、まるで石像になったように一言も喋らないのだ。

(考えにふけってるのだろうか。)
大木書生はだんだんと心配になって来た。
いつもなら返事を返してくれるのに、ムッツリ黙ったままだ。

しばらくするとコンクリートの塀が並ぶ寂しい街並みの中に二階建ての白い建物が見えて来た。これこそが小林探偵事務所なのである。

大木書生はその建物の横にセダンを止めた。
「着きました。」

異様な空気を和らげるように言ってみたが、返事がない。
後ろを向くと杖にもたれ掛けて眠っている小林氏の姿があった。

「着きましたよ。」

体を揺さぶると老人はゆっくりと顔を上げた。

「オオオ....すまないね、大木くん。ちと眠くなったから寝てしまったよ。」

「支えますか?」
「イヤ。大丈夫だ。私も
体を動かさないと行けないからな...」

小林氏はこう言い、玄関口の方まで消えていった。
(まったく....ムリしなくてもいいのにな...)
その時スマホがなった。出てみると、何やら加工したような声が聞こえて来た。

「コバヤシカ?」

「いいえ。僕は小林さんの書生の大木・千日です。何かご用件ですか?。」

「フフフ。コバヤシノショセイカ。ワタシハ、カイジン二十面相ダ。」

大木書生はビックリした。つい先ほど監獄船で会った怪人がもう脱獄しているなんて!

「アッハハハ。キミ、オドロイテイルネ。ダイジョウブ。ワタシハ、ムカシノ二十面相デハナイ。アタラシイ二十面相ダヨ。」

大木書生は危うくスマホを落とすところだった。二代目の二十面相が直々に電話を掛けてきたのだ。

「どっ...何処から電話しているんだ!言わなくてもこっちで特定できるんだぜ!」

「ムダムダ。フフフフ。コッチハ、コウシュウデンワデ、カケテイルンダカラ。」

「何!??」

「トコロデ、ワタシガデンワシテイルノハ、タダノオシャベリデハナイ。キミノトモダチ羽柴・多四郎ノオヤ、羽柴・十四郎ガモツロマノフケノダイヤヲフタタビチョウダイスルコトニシタ。クワシイニチジハノチノチツタエルカラ、ズイブントヨウジンスルガイイ。」

ここでプッツリと途切れた。
(どうする?....小林先生に伝えなければ!)
大木書生は玄関口に風のように入ると。
二階まで駆け上がり、小林氏の書斎をノックした。

「大木くんかね?」
「はい!、僕です。今二十面相から予告状が....」

そこまで言いかけた時、ドアが勢いよく開き、ガウン姿にスリッパを履いた小林氏が出て来た。
顔はまだ眠そうだ。
「小林先生!予告状が...」

「待て待て。そうゆう時は落ち着くことが一番だよ。相手はこちらが焦るのを目的にしているんだ。それより中に入りたまえ。」

BDバッチと七つの道具

大木書生は小林氏の書斎の中に入るのは初めてだった。
壁には木製の本棚がいくつもあり、古い本のいい臭いが当たりに漂っていた。真ん中には良く磨かれた書斎机が置かれていて、上には色々な本や紙が散らばっている。

「まあ手じかな所に座りたまえ。」

小林氏に勧められて大木書生は安楽椅子に腰を下ろし、小林氏は書斎机の後ろにある立派な皮で出来た椅子に腰を下ろした。
安楽椅子の布も皮製だったが、その擦り減ったクッションが何十人もの依頼者が座って来たことを物語っていた。

「君が座っている安楽椅子は、明智先生の家から持って来たものだよ。」
小林氏が話し始めた。

「明智先生は物凄い人だった。数々の事件を解決し、更に難しい難事件に挑戦しに行った人だ。私もそれに憧れて助手になった。色々なものを教えてくれたよ。車の運転にピストルの撃ち方、後は変装などを実演で教えてくれた....。」

「……」

「さて。どうやらこの事件は、君に任した方がいいね。」

「へ?ぼ...僕にですか?」

「そうだ..君はまだ若いし高校一年生だ。まだ動きも鈍く無い。だから新たな二十面相と知恵比べをしてみたらいいんじゃないか?」

(こんなチャンス、一生に一度しか無いぞ。)

大木書生の頭の中では二つの考えが座を取り合っていた。

(だけど、取り逃したらどうする?)
(今はそうゆうのは関係ない!何でもまずは試してみないと!)

「はい!やってみます!」
「おお!やってくれるのかね。ならちょっと待ってなさい。」

小林氏は椅子から立ち上がった。だがその立ち上がり方は少し若返ったように見えた。

そのまま本棚の奥に手を突っ込んで、ホコリを被った木箱を取り出した。
フタの上に微かに黒い文字でBDと書いてある。

「これだ。」

そう言い、小林氏はうやうやしく木箱のフタを外した。
中には綿がギッシリ詰め込まれており、小さな皮袋と大きな風呂敷包みがあった。
小林氏は風呂敷包みを取り出すと書斎机の上に置き、結び目を解き始めた。

「こっちに来なさい。」

結び目を解きながら小林氏が言った。
大木書生は安楽椅子から立ち上がり、机の近くに近づいた。

(中には何が入っているのかな。)

大木書生は心の中で考えた。

(本かな。それとも何か歴史的な物かな。)
風呂敷包みを広げ終えると、そこには、色々な物が置いてあった。

ペンライトに万能ナイフ、途中に結び目がある縄、万年筆のように見える望遠鏡、棒形磁石、小さな鉛筆と手帳、小型ピストル、折り畳み式の写真機、粉の入った入れ物と刷毛、鍵束、呼子笛、何かの棒....。

「これは....」
「七つの道具だよ。」

「でも合計で12個もありますよ。」

「そりゃそうさ。任務によって選ばなくてはならないからな。」

そう言いながら、小林氏は古い、これまた革製のウエストポーチを机の引き出しから引っ張り出した。

「このカバンに道具が七つ入る。だから七つの道具と言うんだ。」

「え.....?ちょっと待ってください。まさか僕にくれるんですか?」

「そうだ。二十面相には七つの道具が無いと立ち向かえない。だから持って行きなさい。」

言われるがままに大木書生は風呂敷包みを取ると部屋を出て行こうとした。

「大木くん。」

振り返ると小林氏があの小さな皮袋を渡して来た。

「お守りだ。」

少年探偵団

自分の部屋に戻ると大木書生は早速、皮袋を開けてみた。
何か金属製の物がジャラジャラ入っている。
一つ取り出してみると、それはバッジだった。

銀色のの表面に緑色の塗装でBDと書いてありその下に1936と数字が彫られている。皮袋の中にはコレと同じバッジがザクザク入っているのだ。

(何だろうこれ....)

そう思いながらも胸に付けてみる。

(そういえば、早く多四郎の親に知らせなくちゃ!)

窓の外を見ると少しずつ夕闇が迫っていた。
階段を転げる様におり、ガレージの中に停めてあった自転車に跨ると、立ち乗りで漕ぎ始めた。

角をいくつも曲がると大きな屋敷が見えてきた。夕焼けを背景に佇む館は、まるで怪物の様に見えた。これが羽柴邸なのである。

自転車を降りて鉄の門まで行くと偶然、親友の羽柴・多四郎が庭いじりをしていた。

「おーい。多四郎!」

門越しに囁くと多四郎は面倒くさそうに振り向いた。

「何だ。千日か。今何時だと思っているんだよ。」

「イヤイヤ。そんな場合じゃねーんだよ。ついさっき二十面相から予告状が...」

「マジか!!んで何を狙っているんだ?」

「お前の親父の持つロマノフ家の六つのダイヤ....」

「エエ!!現金ならまだしも、ダイヤだって!?とにかく中に入って説明してくれよ。」

そう言うと多四郎は鉄の門を開けた。
そのまま玄関口まで案内され、応接間に通された。

応接間は二つのソファーが置いてあり近くの棚には軍艦の模型がいくつも飾られ、おまけに高級そうなカーペットまで敷かれているが、部屋の入り口は襖で窓の外は日本庭園だ。

(洋風と和風をごっちゃにしたみたいだ。)
辺りを見回しながら大木書生は思った。

ガラガラガラ!!

襖が開き和服を着た立派な紳士が入って来た。

この紳士が実業界の大物、羽柴・十四郎なのだ。
実業界の大物だけでなく体型も大物で襖の淵に頭が当たりそうだった。
その巨体の後ろから多四郎がコーラの瓶を2本持ちながら現れた。
大木書生と反対側に2人は腰を下ろした。

「キミが千日君かね。」

物凄く太い声だった。こんな声で説教されたらひとたまりもない。

「はい....」

「ワッハッハ!キミの事はウチの息子から聞いているよ。小林さんの書生になったって?僕の祖父さんもお世話になったよ。ところで本題は?」

説明し終えると十四郎氏はソファーに深く持たれて考え込んだ。多四郎の方に目を向けると栓抜きを忘れたのか、素手でコーラの王冠を開けるのに苦戦していた。

「千日。」

「ん?」

「何か栓抜きとか持っていない?」

大木書生は七つの道具の中の十特ナイフを思い出した。
ウエストポーチに手を突っ込むと十特ナイフを取り出し多四郎に渡した。

「そういやあ、千日。そのバッチ何だ?」
十特ナイフから栓抜きの部分を引き伸ばしながら、多四郎が聞いた。

「コレか?何か知らんけど小林先生がくれたわ。」

「うわー!、うらやましい!だけど名探偵がくれたんだから、なんか意味があるんじゃね?」

多四郎の言う通りだ。バッチを取り外してじっくりと見てみる。
鉛製なので意外と重い。よく見ると裏側にナイフで彫ったのか窪みが出来ている。よく見ると漢字だった
内容はこうだ。

少年探偵団
BOYS DETECTIVE
Established in 1936
KOBAYASHI・YOSHIO

「少年探偵団?」

大木書生が言った。

「少年探偵団か〜.....どっかで聞いたような.....そうだ!!思い出た!!!」
そう叫び声で十四郎氏は我に帰った。

多四郎は自分のポケットからスマホを取り出すと何か入力したが、すぐ画面を大木書生と十四郎氏の前に見せた。

「少年探偵団は明智小五郎探偵の右手と言われ犯罪者達が恐れた探偵団だ。七つの道具とBDバッチを使いさまざまな手段で事件を解決していった。かの有名な怪盗、怪人二十面相も敵わなかったと言う。」と多四郎が読み上げた。

「今、千日が持っているのはBDバッチと言って少年探偵団の団員徽章だってさ。」

「すると....」大木書生が聞いた。

「小林先生は僕を少年探偵団の団員と認めたわけ?」

「そうかもしれないな〜....」

「2人とも、いい作戦が浮かんだぞ!」十四郎氏が叫んだ。

「耳を貸してくれ。」ゴニョゴニョ

「ちょっとそれは失敗すると危険じゃ無いですか?」

「いや。失敗はしない。ウチの日本庭園を見てみたまえ。」
そう言うと十四郎氏はカーテンをめくって見せた。暗闇で何かが行ったり来たりしている。

「あれは....」

「刑事さん達だよ。私の親友、中村・河内警部に頼んだんだ。三人がこの家の周りを見張っているからね。さてこっちは作戦の準備をしよう。」
そう言うと十四郎氏は部屋を出て行った。

「まったく。オヤジったら張り切りやがって。」多四郎が呆れたように言った。

「そういえば、二十面相が予告して来た時に再びちょうだいするって言っていたけど...」

「ああ、それな。オヤジから聞いた事によると、オレの曾祖父さんの時にも二十面相に盗まれているらしいよ。」

「マジか!。」

しばらくすると再び襖が開き、頑丈そうな金庫と何やら半円の輪を抱えながら十四郎氏が戻って来た。
金庫をコーヒーテーブルの上に置くと日本庭園の窓を開け、半円の輪を広げ始めた。

「歴史は繰り返す」十四郎氏が言った。

「やっこさん、この罠に掛かればいいんだけどな〜..」

半円の輪は何とトラバサミだった。それを十四郎氏は窓の前の地面に仕掛けたのだ。

テロン!

大木書生のスマホの着信音が突然鳴った。
知らない番号だ。
内容はこうだった。

千日へ
待ち切れないので今日の18:45キッカリにロマノフ家のダイヤをちょうだいに参上する。
ずいぶんと用心するがいい
怪人二十面相より\(^_^)/。

「OMG」多四郎が読み上げた。

「18:45って....あと20分じゃ無いか!!」

「イヤ、大丈夫だ。二十面相はダイヤを奪えないよ。」十四郎氏が落ち着き払って言った。

「この金庫は私が持っているカギがないと開けれない。」そう言いながらカギを見せた。

「あとは、刑事さん達が守ってくれるし、トラバサミもある。こんな密室から盗み出すなんて不可能だよ。ワッハッハ!!」

そう言うと十四郎氏はまるで無敵の城の中にいる殿様の様に笑った。

鉄の罠

「あと5分!」多四郎が腕時計を見ながら言った。

「本当に二十面相は来るのでしょうか?」コルト・ガバメントを手で遊びながら大木書生が聞いた。

「さあ..どうかな。何しろ抜け目のないヤツだからね。」

「あと4分!」大木書生がマガジンをピストルに入れ始めた。

「あと3分!」全員の視線が金庫の方に集中する。

「あと2ふ…」バチン!!辺りが真っ暗になった。

「なんだ?!!停電か?!」十四郎氏の憤怒の声が暗闇から聞こえる。

「クソ!辺りが見えない!」多四郎のパニックになりかけた声も聞こえる。

突然、外がボオッと明るくなった。ロウソクで照らした様な微かな光だ。何か丸い物が庭園の中を行ったり来たりしている。その丸い物がいきなり窓ガラスの前に近づいて来た。

「ワア!!」

部屋の三人は思わず声を上げた。
何とそれは人間の頭だったのだ。それがボンヤリと光っているのだ。
その人魂は、三人の呆然とした顔を見ると満足そうにケラケラ笑い、頭を逆さにしたりガラスに顔をくっつけたりと、まるで部屋の三人をからかうような事を始めた。

人魂の奇妙なサーカスを見ていると、ふと大木書生は空気が動いたのを感じた。
襖の方に目をやると、なんと襖が開いていた。
次に金庫の方を見ると、何か真っ黒い物がゴソゴソと動いている。

(敵か味方か。)

大木書生は思った。

(そう言えば羽柴家はネコを飼っているのだ。ネコかもしれない....ん?)

人魂の微かな光がソイツのシルエットをとらえた。人間だ。真っ黒なタイツを着てバラクラバを被った奴が金庫の前で黒い風呂敷に何かを包んでいるのだ。そっと多四郎を肘でこずく。

「何だよ。」「シー」そう言って黒タイツの人影を指差す。

「いいか。オレが飛び掛かるから、お前は手と足を組み伏せてくれ。」

「だけど....」

「柔道五段が自慢なんだろ!それじゃあ、いくぞ.....3、2、1!」

バッとまず大木書生が黒タイツに飛び掛かる。その後、すぐに多四郎が手を組み伏せようとするが…

バン!!

とゲンコツで多四郎が跳ね飛ばされ、大木書生は平手打ちを喰らわされ、十四郎氏も止めようと飛びかかったが、ドスッと背負い投げでノックアウトされた。

「ワッハッハ!そんな事でギブアップ?ちょろいねー、大木くん。」黒タイツが笑った。覆面をしているからなのか、声がこもっている。

「んじゃ。ワタシはダイヤをもらったから、失敬するよ。あばよ。」

そう言いながら窓の外へ駆け出し、庭の方に出たが......

バチーン!!

「ギャーーーー!!!」

(イヤ、ダッサ.....)あんなに決めセリフ言っていたのにまんまと鉄の罠に引っかかったのだ。

「追いかけろ!」K.Oされた十四郎氏の苦しそうな声。

大木書生はウエストポーチから、ペンライトと呼び子笛を取り出すと、縁側の草履を引っ掛けて追いかけ始めた。

「ピリリリリリ〜!!」

呼び子笛を鳴らすと、懐中電灯の光が茂みの中を駆けてくるのが見えた。

(刑事さん達だ)大木書生は思った。

次にペンライトで逃げた方向を照らすと、白い円の中にケンケンをしながら逃げていく風呂敷包みを抱えた黒タイツが見えた。

「刑事さん!アイツです、二十面相です!」
多四郎が殴られた腹を摩りながら叫んだ。

大木書生は肩掛けホルスターからコルト・ガバメントを取り出すと黒タイツに構え、引き金を引いた。

「あれ?弾が出ない!」
後で分かったのだが、二十面相は大木書生のマガジンから弾を抜いていたのだ。

「待て〜!」2人の刑事が追跡に加わった。

だが距離はどんどん離れていく。

突然、二十面相がピョイッと近くのカシのキに飛び移ると、スルスルとてっぺんまで登り始めた。

大木書生達が木の下に来た時には、完全に見えなくなってしまった。

「長い棒を使ってアイツを突っついたらどうだ。」
1人の刑事が提案した。
すぐにもう1人の刑事が竹竿を持って来て、カシノキのてっぺんを突っつき始めた。
だが反応は無かった。怪人二十面相はかき消すように木のてっぺんから消えたのだ。

「チクショウ!」後で追いかけて来た多四郎が悔しそうな声で言った。

「アイツ、合鍵を持っていたんだ。」

なるほど。二十面相は何処かで金庫の鍵の型を粘土を使ってとり、その型にシリコンを流して合鍵を作ったのだ。

「あとオレ、実は柔道三段だった。」「今は、そんな事は重要じゃ無い。」

「うーむ...だけど、どうやってカシノキのてっぺんから姿を消したんだ?」

「不思議だ。不思議」そう言いながら、大木書生達は邸宅にしぶしぶ戻って行った。

邸宅への帰り道、大木書生は、チラッと腕時計を見た
丁度、18:45だった。

二十面相は、約束を果たしたのだ。

だが不思議なことに、あの人魂も二十面相が逃亡する時に、何処かに隠れてしまったのだ。

半グレコング

「ピーピーッピーピーッ」目覚ましの音が悪魔の笑い声に聞こえる。そう思いながらも大木書生は起き始めた。
昨日の夜はドッと疲れがが出たので、泥のように眠ってしまった。

(今日は.....やばっ!月曜日だ!)

急いで着替えて制服の間に肩掛けホルスターと腰にはあのウエストポーチを巻きつけて、階段を降りてキッチンに行った。

急いでトーストとコーヒーを同時に口の中へ詰め込むと、自転車に飛び乗った。
空がオレンジ色になり始めていた。

(このままじゃ、卓球部の朝練に間に合わないな。)立ち漕ぎをしながら思った。

路地をいくつも曲がり、まだ通勤で混んでいない駅前を通り過ぎ、高校の誰もいない校庭でドリフトしながら止まった。

体育館の大きな頑丈そうなドアを開けると、辺りには沢山のピンポン球の跳ね返る音が響き渡っていた。

「おはようごぜーます」まず江奇先生に挨拶する。

石原・江奇先生は、体育担当で背が高く、ヤクザの様な目つきだ。左手の小指が無いのは、指詰めで切り取られたと噂されているが、実はバイクの事故で失ったそうだ。

「おはよう」ぶっきらぼうに答えた。「1分遅刻だぞ。」いつもこうだ。

「チェッ…」心の中で言ったつもりが、声に出てしまった。

「ん?なんか言ったか?」怒った時だけ、江奇先生は猫なで声になる。

「アー…ちょっと歯になんか詰まっちゃて..」すかさず回避。

「そうか、分かった。んで今日のお前のパートナーは....」

パートナーとは朝練の対戦相手の事だ。

「花崎だ。向こうの卓球台にいるぞ。」

(やった!!)心の中で大木書生は、ガッツポーズをした。

(久しぶりにユミカ姉ちゃんが対戦相手になった!)

花崎・由美香は大木書生と1歳年上だが、幼なじみだ。

「おはよー、ユミカ姉ちゃん。」

「おっ!おはよー、千日。」

(何で全校美人コンテストに応募しなかったんだ…。もったいない.....。)
めちゃくちゃ眩しいユミカの笑顔を見ながら大木書生は、思った。

バム!!

突然、体育館の扉が勢いよく開いた。江奇先生の顔が引き攣った。

入って来た奴は、とんでもない格好をしていた。

身長は大木書生と同じぐらいで、短パン、靴は、スニーカー。制服はこれ以上無いほどだらしなく着て、髪の毛はモジャモジャ。そして頭髪検査に明らかに引っかかりそうな色だった。

そんな半グレが松葉杖を突きながら入って来たのだ。

「コラアアアアアアアアア!!!」

江奇先生のヤクザのような怒鳴り声が体育館に反響した。

「おまえは、体育館をなんだと思ってるんだ!!!」

ただ半グレは、そんな事は気にせずに自己紹介をした。

「ボクの名前は中山・翔だ。」
半グレには、似合わない言葉だ。

「これから、お世話になるのでどうぞよろしく。」

(うわー...)大木書生は、思った。

(イケメンだ...)

確かに翔はイケメンだった。いわゆる女子吸引機だ。

その時、ユミカが大木書生の考えを悟ったのか、耳元に囁いた。
「だいじょうぶだよ。アイツ、タイプじゃない。」
少しホッとした。

すると、江奇先生がツカツカと翔に近づいて行った。目の下がピクピク、痙攣している。

「お前という奴は....」ガッと翔の肩を掴む。

「ブッ飛ばすぞ!!」

「やめて下さい。」やはり半グレには似合わない返事をした。

その直後に翔の右手がグッと江奇先生の左手を掴み、背負い投げを喰らわした。

ドシン!

「…へ?…」呆然とする江奇先生。
卓球部の全員も呆然とした。

何と翔は足にギプスをやったまま、江奇先生を投げ飛ばしたのだ。

「だからやめて下さいと言ったんだ。」

「ヒエ....」

アタフタと逃げていく江奇先生を見送ると、松葉杖を拾い、大木書生に近づいて来た。

そして何かを囁いた。

「放課後、屋上に来い。」

屋上の奇術師

その日は何とも無く過ぎた。

一つ大木書生が驚いた事は、ユミカが少年探偵団を知っているという事だ。

「ユミカ姉ちゃんは、二十面相って知っている?」

「ん?ああ。知っているよ。」

「え?!」

「ウチの婆ちゃんが、元少年探偵団の団員だったのよ。」

「へー。」

「塔上の奇術師事件でだいぶ、お世話になったらしいからな。」

「フーン。」

「小林団長もよくウチの婆ちゃんに女装したらしいよ。」

「??!。ちょっと待って。今、小林先生が女装していたって言った?」

「おん。」

(マジかよ....)大木書生は、少しショックを受けた。

放課後.....

暗い階段を登って行くと、ドアが見えて来た。ここを抜ければ屋上だ。

ドアには、鍵は掛かっていなかった。

思いっきり押すと、ビュウと冷たい風が入って来た。

屋上はガラーンとして、柵でぐるりと囲まれていた。

その一角にアイツが腰を下ろしていた。

モジャモジャの頭髪検査に引っかかりそうな髪。だらしなく着た制服。

翔だ。

「おい。」大木書生は、わざと大きな声で叫んだ。

大声に気付いたのか、ゆっくりと、松葉杖を使いながら立ち上がった。

「こんな時間に屋上に呼び出しなんて....カツアゲか?翔。」

「いや。カツアゲじゃない。」

大木書生はオヤっと思った。
昼間と声が違うのだ。

「あとワタシの名は、中山・翔ではない。」

「??」

「フッフッ、ワタシにこんな怪我をさした超本人が、覚えてないという事か。」

ますます意味が分からなくなってきた。

「まあ、そりゃ同じ人間に見えないよねー。だってワタシは、二十の顔を持つ者だからね。」

大木書生は、やっと意味が分かった。

急に目の前の高校生が恐ろしい怪物に見えてきた。

「つまり....お前は....。」

「そうだよ。二十面相だよん。」

反射的に大木書生は、肩掛けホルスターから、コルト・ガバメントを素早く取り出すと、翔....いや、怪人二十面相に構えた。

弾は入っている。

「おっと、ピストルならワタシも持っているぜ。」
そう言うと二十面相は、制服のポケットからトカレフ拳銃を取り出して大木書生の方に狙いを定めた。

しばらく静粛が続いた。

「援助者は、誰だ。」
突然、大木書生が二十面相のトカレフ拳銃を見ながら言った。

「ヤクザか?」

「残念ながら、ワタシは人殺しする連中は、嫌いでね。」二十面相は、松葉杖を、柵に立てかけながら言った。だが自分では、バランスが取れないらしく、ヨロヨロとした立ち方だ。
「だけど大木くんが、そのピストルをぶっ放すなら....。」

「………チェ、分かった。手荒な事はやめよう。」

チクショウと思いながらもピストルをホルスターに戻す。

「さて。実を言うと今日ここに来たのは、君にワタシの計画の一部を伝えたいからだよ。」

「それは、何だ?」こう大木書生が答えると、二十面相は、まっていましたと言わんばかりに話し始めた。

「一週間後に、東京国立博物館に寄贈されている全ての国宝をちょうだいするから、用心しときな。」

「??」

呆然としている大木書生を見ると、二十面相は、満足そうに笑った。
「フフフ。だいじょうぶだ。ちゃんとカウントダウンで教えるからね。んじゃ、ワタシは、失敬するよ。」そう言うと二十面相は、ヒョイっと屋上の手すりを乗り越えた。

「そうそう、言い忘れていた。」大木書生に向き直りながら二十面相が言った。

「このトカレフ拳銃は、君にやるよ。」

ポイっとトカレフ拳銃を大木書生の方に投げた。大木書生が、すかさずキャッチすると、見た目の割に妙に軽い。

「それ、東京マルイのモデルガンだよ。大切にしろよ。じゃ、アバよ。」そう言い捨てて二十面相は、大木書生に背を向けると...

なんと屋上から飛び降りたのだ。

「アッ!!」大木書生は、慌てて手すりの方に駆け寄った。恐る恐る身を乗り出して、下を見ると....誰もいないのだ。それどころか落ちた跡が無いのだ。

(どういう事?!)大木書生は、考えた。

(ここは5階だから落ちたら即死.....もしやこの下の教室にうまく滑り込んだのか?)

そう。大木書生のクラスは、丁度この屋上の下にあるのだ。

階段を三段飛ばしで降り、クラス室の前まで走ると、勢いよく引き戸を開けた。

「キャーーー!!」

「うわっ!!ゴメン!!」

慌てて、引き戸を閉める。中では、女子が着替えをしていたのだ。多分水泳部だろう。

(でも…)混乱する頭の中を整理しながら大木書生は、考えた。

(いくらイケメンでも、女子が着替えている部屋に飛び込むと袋叩きにされるからな…。だとしたら、どうやって逃げたんだ?)

考えれば考えるほど難しい謎になってきた。(とにかく、帰って計画をねろう。)


その頃、美術部では…

「やあ、すごい出来だな。」美術担当の矢井圖・隼人先生が言った。

「これは、文化祭に出すモノかな?」

「はい…まあ多分…。」一人の部員があいまいに答えた。

「多分ってどういう事だね?」ハヤト先生が首を傾げた。

「こんなに素晴らしい作品を応募しないなんて、もったいじゃ無いか。」

「それが…。」また違う部員が答えた。
「部長に応募するのか聞いても、答えないんですよ。」

「うむ。明日、部長に聞いて見るとしよう。それにしても凄いな。」ハヤト先生が関心した声で言った。

彼の目の前にあるのは、なんと東京国立博物館に寄贈されている国宝、菩薩立像(ぼさつりゅうぞう)の精密なレプリカなのだ。全て木と新聞紙で出来ている。
その後ろには、これまた国宝の短剣 銘行光(めいゆきみつ)のレプリカが置いてある。こちらは、3Dプリンターで作ったプラスチックの短刀に金属の様な色を塗って作った。

この様に美術室は、国宝のレプリカで溢れ返っているのだ。

「これは、実際に博物館の展示ケースに入っていても誰も気づかないな。」ハヤト先生が冗談を言った。

部員の全員が爆笑した。

6日前

「ただいまー。」大木書生が、言った。

返事は、無かった。その代わり、話し声が聞こえて来た。どうやら話し声は、小林氏の書斎から聞こえてくるらしい。
そっとドアを開けると、パイプをふかしている小林氏の姿があった。

「おお、おかえり大木君。」小林氏が答えた。
「ついさっきまで、依頼人と中村警部で話をしていたんだ。」

向かいの安楽椅子には、一人の中年紳士が腰掛けていた。
どうもクセの強い人物のようだ。黒いビロードのような物を着て、琥珀色のメガネをかけ、ピンッとした口髭を生やしていた。

反対方向には、本棚にもたれて話を聞いている、もう一人の人物がいた。
こちらは、鼠色のスーツに赤ネクタイだった。

「紹介しよう。」小林氏が言った。
「こちらが東京国立博物館の館長を務める宮藤・淳館長だ。」
ビロード姿の紳士は、丁寧にお辞儀をした。

「そして、向こうにいるのが警察庁対特殊犯罪捜査部の中村・善野舎警部だ。」
鼠色のスーツを身に纏った人物もお辞儀をした。

ここで警察庁対特殊犯罪捜査部とは、何なのかについて。
警察庁対特殊犯罪捜査部とは、1962年に設立された二十面相のような奇抜な考えを持つ犯罪者の逮捕を目的とする組織である。

「この子は、あなたの孫ですか?」淳館長が小林氏に聞いた。

「イヤ。孫では、ありません。」小林氏が答えた。「大木・千日。私の助手ですよ。」

大木書生は、「助手」と呼ばれて少し、嬉しくなった。

「つまり、明智探偵の助手の助手という事ですか。」淳館長が関心したように言った。

「二十面相の部下では、無いですよね。」
中村警部が初めて口を開いた。警戒しているようだ。

「大木君は、信用出来ますよ。」

「ふむ....。」

「さて、もう一回要件を詳しく説明していただけませんか?」小林氏が話を打ち切ったように言った。

「喜んで。」淳館長は、話し始めた。
「今朝の事です。私が館長室に入ると、ゴトリと変な音がしたのですよ。部屋の隅をみると何がいたと思います?人ですよ。黒い明治時代頃のドレスを着ていて、頭から目出し帽のようなものをかぶって、黄金の仮面を付けていました。(ドウモ)その仮面が言ったんですよ。声が何と言うのでしょうか.....そうそう、初音ミクのような感じの声でした。」

(黒いドレスで黄金仮面だけど、初音ミクボイスだって?)大木書生は、想像した。
妙な感じだ。

「そいつが、カードを渡してきたんです。」
そう言いながら淳館長は、ポケットからカードを取り出した。
「これを小林さんに見せろと....。その後ソイツは、かき消すように消えてしまいました。」手に取ってみるとプラスチック製だった。

大きさは、ポケモンカードぐらいで、黒い字でこう印刷してあった。

大木くんと小林さんへ

やっと知恵比べが出来ますね。
今から一週間後に全ての国宝を盗むので、たいそう用心するように。
追伸
大木くんへ
お前のせいで、足つったわ。

二十面相より

「ホウ.....。」小林氏が言った。「しばらく考えさせてください。」

「大木君は、書生なのかい?」淳館長は、大木書生の方に興味があるようだ。

「はい.....まあ、書生ですね。」

「お父さん、お母さんは?」

「二人とも飛行機事故で亡くなりました。」

「何で小林さんの書生になったんだ?」

「長い話になりますね。花崎家とは、親戚で僕は、そこへ預けられていたんです。そして12歳になった時くらいに、小林先生が僕を一目見て(この子を、私に預けてくれないか。)と聞いたんですよ。んで今のようになっているんですよ。」

「その胸の膨らみは、何だね。」今度は中村警部が、聞いた。

「コルト・ガバメント拳銃ですよ。」大木書生は、丁寧に答えた。だが内心では、(なんでこんな事聞くんだ。)と思っていた。
「僕は、射撃は、もちろんのこと。システマも出来ますし、車の運転も出来ます。」

「16歳で?!」淳館長が、驚いたように言った。

「なら小林先生は、13歳でピストルの射撃や自動車の運転。さらには、女装まで習っていたんですよ。」大木書生は、少し怒り気味に答えてみた。

「大木君。」突然、小林氏が声をかけた。
「君を二代目少年探偵団とチンピラ別動隊の団長に任命する。」

「へ......?」あまりにも突然のことだった。
「何で僕なんですか?てか、チンピラ別動隊って何ですか?」

「二十面相に立ち向かうためには、子供の柔らかい思考回路と元気な洞察力がいる。だから、大木君。少年探偵団とチンピラ別動隊を再建して明智先生と二十面相の戦いに決着をつけてくれ。」

「…?あっ.....はい!ありがとうございます!」
名探偵は、何と高校一年生の、思春期真っ盛りの、書生に全てを託したのだ。

「ところでチンピラ別動隊って何ですか?」

「私の若い頃は、上野公園の戦争孤児を集めて作ったな〜。いわゆる、スパイ活動をしていたんだ。1番優秀だったのは、ポケット小僧.....。あー、ポケット小僧!何で私は、アイツの名前を聞かなかったのか。今でも後悔しているよ。」

(戦争孤児!?東京にそんなの.....てか大体、日本に居ないじゃないか!)

「とにかく、メンバーを集めて来ます。」大木書生は、そう言うと部屋を出て行った。

次の日の夕方.......と言っても、夕立が見える時間帯.....

「んじゃ、千日。説明してくれよ。」一人の少年が言った。
「その、二十面相とか言うヤツの事。」彼の名は、井上・純大。大木書生の同級生だ。

ここは、ユミカの住むアパートの部屋。五条ぐらいの広さで、タタミが敷かれている。
この部屋には、ジュンダイの他にも人がいた。大木書生、ユミカ、野呂・和大、淡谷・霧鮫、羽柴・多四郎、この六人だった。

「あーしは、少年探偵団なんかに興味ないのよ。」淡谷・霧鮫が言った。
キリサメは、ユミカの同級生で大木書生とは面識もある。
「まあまあ、みんな落ち着いて。」ユミカが宥めた。

「そもそも、少年探偵団なんかに何でオレ達が関与するんだ?」カズヒロが質問を投げかけた。「オレとジュンダイは、水と油だぜ。」

「音楽の中でわな。」とキリサメが付け足した。
「どーせ、Ado派かYOASOBI派か争っているだけだろ?やめろやめろ。今は、スイカゲームの時代だ。」

「キリちゃん、ちょっと黙って。」ユミカが今度は、少し切れ気味に言った。

「はーい、チューモーク!!」大木書生は、たまりかねたように叫んだ。
「ワタ....オレわね、ちゃんとした根拠があって、君達を読んだんだよん。」

次の瞬間、部屋の全員の目線が、大木書生の方に集中した。物音一つしない。

短い間、沈黙が続いた。数秒間の事だったが、一気に一万年が過ぎたように思えた。

「.....お前...千日じゃないだろ。」多四郎が突然、言った。

「フフフ、正解。」大木書生(?)が、薄気味悪く笑った。「ワタシわね.....」

ガチャ!!

次の瞬間、玄関が勢いよく開き、何者かが猛スピードで部屋に入って来た。

何とソイツは、大木書生だった。

全員が、質問を投げかける前に大木書生は、大木書生(?)に向かってコルトガバメント拳銃を発砲した。

ガッシャーン!!

ガラスが割れる音がした。
その後に2発の発砲音。
急に電灯が消えた。多分大木書生の弾が当たったのだろう。部屋の中は、真っ暗になった。

「待て!!二十面相!!」大木書生が叫んだ。「お前の事を挽肉にしてやる!!」

パッと部屋の中が光った。キリサメがスマホの懐中電灯をつけたらしい。

部屋の真ん中の卓袱台は、ひっくり返っている。
ニセ大木書生の姿は、どこかに消えていたが、本物の大木書生は、部屋の隅っこに吹っ飛ばされていた。
「チクショー....。」大木書生が、唸った。
「あの二十面相のヤロー.....。きったねー事しやがって。」

「何があったんだ?」ジュンダイが、聞いた。

「分かった。話すよ。」っと大木書生は、話始めた。

10分前......

ユミカのアパートに、自転車で向かっている途中の大木書生の姿があった。
夕立が迫っている。辺りは、コンクリートの塀がズーと続いている寂しい通りだ。
次の角を曲がると、向こうの方の曲がり角から、トラックが現れた。
広告用の物なのだろう。デカデカと「月界映画館」と書かれていた。
こちらに来るのかと思いきや、まるで大木書生の行手を塞ぐように止まったのだ。
(何だ......?)大木書生は、驚いた。
(広告か....?)

ブロロロロ

後ろからもエンジンの音が聞こえた。
慌てて振り返ると、もう一台のトラックがやって来た。
このトラックも反対側を塞いだ。

こちらのトラックは、大きなスクリーンがコンテナの横に付いている。

突然、スクリーントラックの運転席のドアが開き、パッと何かが飛び出した。
何とそれは、虎だった。そう、虎だ。

その虎が、飛び降りたと思うと、二本の足で立ったのだ。
大木書生が呆気に取られていると、その虎は、こう叫び始めた。

「移動映画館の月界映画館だよー!!今日は、大人も子供も無料!!サー、いらっしゃい!いらっしゃい!」
シワがれたお爺さんの声だった。

大木書生は、少しホッとした。どうやら虎は着ぐるみで、中に人が入っているのだ。
(だけど何でこんな所で移動映画館なんてやるんだ?)大木書生は、不審に思った。
(下校時間は、とっくに過ぎているぞ。そしてあの爺さん、何を叫んでるんだ?認知症か??)

「ちょっとそこの兄ちゃん!映画、見ていかないのかい?!」

「へ.....アアッ、オレですか?今はちょっと……。」

パスッ!!

軽い破裂音がしたかと思うと、急に大木書生の足元がふらついた。

「フフフ、愉快だねー。」虎が笑った。
あの聞き覚えのある、心の中まで見られているような声だ。

その虎の手には、BBQ-901麻酔銃が握られていた。
「この野郎。」大木書生が、眠そうな声を出した。「二十面相め......。」

「正解だよん。いやー、それにしても大木くんってすごいねー。麻酔弾を1発喰らっても寝ないんだから。」

大木書生は、そのままバランスが取れずに倒れてしまった。

「アララー。」二十面相は、煽るように言った。

「さすがにもう寝たら?大木くん。」

「バカ..ヤロー。」大木書生が、歯向かった。だがその声は、寝ぼけた感じだった。

「お前...の顔を見るまでは....絶対に....あきら..める..ものか....。」

「顔を見たいだって?」二十面相が、聞き返した。
「しょーがないなー。後でドッキリをしようと思ったのになー。まあ、良いや……..ほれ。」
そう言うと二十面相は、虎の頭の部分をまるでフードのように後ろの方に跳ね除けた。

何とそこには、大木書生の顔があったのだ。
「....き...たない......ま..ねを、....しやが....って.....。」

「ワタシは、二十の顔を持っているからねー。そろそろ寝た方が良さそうだねー。それじゃVete a dormir bebe!!」
そう言うと二十面相は、麻酔銃をぶっ放した。


しばらくして大木書生の意識がハッキリしてきた。
何と道端の空のゴミ箱の中に押し込まれていたのだ。
素早くゴミ箱から出るとユミカのアパートに向かって走り出した。

(オレに変装しているなら、二十面相の行く所は、一箇所しかない。)大木書生は、思った。

「それで案の定、アパートに来てみりゃあ、二十面相が居たじゃないか。だから発砲したんだよ。」っと大木書生は、締めくくった。

「ふーん..」ユミカとキリサメは、不思議そうに顔を見合わせた。

「おい、これ何だ?」突然ジュンダイが、叫んだ。

部屋の隅に、黄色いカードが落ちているのだ。
その上には、6と黒々と書かれていた。

怪人二十面相とのゲームは、始まったのだ。

その頃.....

偽大木書生は、暗闇で大木書生を張っ倒すと窓の外にあらかじめ用意してあったワイヤーを滑り降りた。

着地すると、結び目の部分を持ってクンッとワイヤーを引っ張る。
するとアパートの方のワイヤーの部分が外れた。
偽大木書生は、それを束にまとめ始めた。

ちょうどその時、トラックがこちらに向かって来た。
あの月界映画館のものだ。

「遅いぞー!もうちょっと早く来てよん!」
偽....いや、二十面相が怒鳴った。

「カシラ、ごめんなせー。」トラックの窓から40才ぐらいの男が顔を出しながら言った。

「警察の検問にあったもんで....。」

「検問!?」二十面相が叫んだ。
「れ…例のモノは?!!」

「大丈夫でさ。」男が答えた。
「ゴローが近くのアパートからサツを、狙撃しましたんで。あと、モノも無事でさ。」

「狙撃?!」二十面相は、また叫んだ。「つまり...。」

「いや麻酔弾を撃っただけでさ。」男が言った。「それにしてもカシラ。どっからダン・インジェクトのモデル JMエアライフルなんて、手に入れたんすか?」

「フフフフ、それは秘密だよん。」二十面相が、助手席に乗り込みながら言った。
「さて、アジトまでひとっ走りだよん。」

10分後.....

トラックは、新宿区歌舞伎町の一角にあるカラオケ屋の前に止まっていた。
カラオケ屋の上には、ネオン看板で(カラオケの城 奇面城)と書かれていた。

「この名前の意味は、今となっては誰も知らないだろうね〜。」二十面相がネオン看板を得意げに見上げながら呟いた。

「そんな事よりカシラ、早く中に入った方がいいと思いますがね。」

トラックの男が忠告した。

「サツが俺たちのことを嗅ぎつける前に中に入った方が、いいと思いまずぜ。」

「だいじょうぶだよん。」

二十面相が冷静に言った。

「ワタシは、この辺りのトー横キッズや数人の立ちんぼを、哨戒用に雇っているのだよん。それにワタシ達には、武器もあるよん。」

「へへへへッ、そうでしたか。歌舞伎町は、もはやカシラの物でっからね。」

「それより早く中に入れ。」二十面相が命令した。

カラオケ屋の中は、学生やサラリーマンがたむろしていた。
二十面相と男は、カウンターの従業員に声をかけた。

「おい、ゴロー。」

二十面相が、言った。

「狙撃、ご苦労だったよん。」

「おやおや、カシラにニタカじゃないか。ご苦労さま。」

「今すぐアジトに入りてーんだが。」

ニタカが言った。

「部屋は、あいているか?」

「もちろんだ。」

ゴローが答えた。

「客が入らないうちに行け。」

カラオケ部屋に入るとニタカは、ドアの鍵をかけた。

二十面相は、マイクを持つと何かをキーボードに入力した。

突然、「合言葉は?」とスピーカーから声が流れた。古い無線機から聞こえてくるような声だ。

「1+1は?」

スピーカーが、言った。

「味噌スープ」

二十面相が、答えた。

その直後、カラオケ部屋が激しく揺れた。まるで巨人がカラオケ部屋を掴んで、無茶苦茶に振り回したようだ。

ガクン!!

大きな音がしたかと思うと、揺れが収まった。
ニタカは、慣れた手つきでドアの鍵を開けると二十面相を通した。

ここから先は、秘密。
なぜかって?読者諸君が後の方を面白く読めなくなってしまうだろう?

さて大木書生の方に戻ろう。

5日前:調査

大木書生、ユミカ、小林氏、中村警部がいる所は、薄暗い広いコンクリート部屋だった。
正確には、東京地方検察庁の地下倉庫なのだが、なぜ大木書生達はここにいるのだろう。

「なんで検察署の地下に来たんだ?」ユミカが、聞いた。

「それは、もちろん二十面相のことを知らなきゃ勝負にならないじゃん。」大木書生が答えた。

五人の検察官がファイルや段ボール,何かのケースを大量に運んできた。
「さて、これが」中村警部が不機嫌そうな声で言った。「二十面相の資料とか証拠品だ。」
もう一人の検察官が机を何処からか持ってくると、ファイルや段ボール類は、その上に置かれた。
証拠品が置かれると大木書生は、手始めに(犯罪歴)と書かれた本を開いた。

せっかくなので読者諸君にも読んでもらおう。


怪人二十面相 特殊犯罪
昭和11年1月〜昭和37年1月
本名:遠藤・平吉
着ぐるみなどを使った奇術や、優れた技術力を持つ。
児童虐待、銃刀法違反、窃盗、殺人未遂が主な罪となる。
昭和37年に黄金の怪獣事件で終身刑になった。

報告書 東京地検特捜部 昭和48年
昭和48年12月10日に発生した三億円事件に二十面相が関係している可能性がある。
事件前日に、銀行に予告状が届いていたなど
二十面相に類似する点がいくつも見られた。
引き続き極秘で捜査を続行する。

報告書 東京地検特捜部 昭和49年
元部下の証言で、二十面相の後継者がいる可能性が浮上。
以下の人物が取り調べを受ける事になる。

草上・妖麗 45才

草上・千夜 12才

報告書 東京地検特捜部 昭和49年
取り調べの結果、草上・妖麗は、大金塊事件の実行犯であり脱獄後、行方不明になっていた人物、小島・優里だった事が判明。
なお小島・優里は、大金塊事件の後に奇面城事件や黄金豹事件などで、二十面相の部下として働いていた事も判明した。


報告書 東京地検特捜部 昭和49年
調査の結果、小島・優里の娘草上・千夜は、小島・優里と遠藤・平吉の子供だということが判明。
名前不明。
裁判の結果、小島・優里は懲役5年、草上・千夜は孤児院に預けることとなった。


報告書 東京地検特捜部 昭和50年
11月27日小島・優里が脱獄した。
その同じ日に草上・千夜が行方不明になった。
東京中に非常線を張ったが、反応なし。
全国指名手配とし捜査を続行する。

報告書 東京地検特捜部 平成24年
長野県大町市の住宅にて女性の遺体を発見。孤独死の可能性あり。
DNA鑑定の結果、小島・優里だった事がわかった。だが草上・千夜の発見には、至っていない。
捜査を続行する。

報告書 東京地検特捜部 平成25年
大阪府池田市で女性の殺傷死体が発見される。原因は、同居していた夫との家庭内トラブル。
DNA鑑定の結果、草上・千夜と判明。
井流舞・ウリという偽名を使っていた。
なお井流舞・ウリの履歴書で平成16年に子を出産している事がわかった。名前不明、性別不明。
捜査を続行する。

報告書 東京地検特捜部 令和4年
静岡県伊豆市の美術館の観音像が盗まれる。
事前に送られてきた予告状に二十面相と記載されていた。
後継者の可能性がかなり高い。
宛先は、東京都新宿区と判明。
新宿区を中心に捜査を続行する。

「スゲ〜.......」ユミカが呟いた。
そんな事より大木書生の目線は、平成25年の報告書に釘付けになっていた。
「小林先生.......。」大木書生が、言った。
「この2004年産まれって....。」

「そうだ。今、君が戦っている新たな二十面相だよ。」小林氏は、小さな声で答えた。

「....つまり僕と、同い年なんですよね?」

「そうだ。」

「.....僕の手に終えるでしょうか......。」

「ダイジョーブだよ。」ユミカが大木書生の背中をバンバン叩いた。
「千日は、強いしイケメンだし!!」

「よせやい!!」大木書生が笑いながら言った。

「そうそう、中村くん。ちょっと聞きたい事があるのだが....。」
小林氏は、小さな声で聞いた。
「ここの証拠品の何個かを二十面相捕縛に使っていいかね。」

「もちろん、ダメです!!」中村警部が、怒鳴った。「ここの証拠品は......。」

「私のもあるんだぞ!!」小林氏の反撃。「あそこの箱の中を見たまえ!!」

指差した箱の中は、古いピストルがいっぱいに入っていた。
小林氏は、その一つのコルト・ベスト・ポケットを取ると、中村警部の鼻先に突きつけた。

「これは私が、二十面相に地下に監禁された時に飯の代わりとして、取り上げられた物!」

今度は、FN ブローニングM1910を取り上げた。

「こいつは、黄金豹事件でネコ娘に取られた物だ!!まだ分からないのか?中村君!!私は.....。」

「黙って下さい!!」中村警部も反撃を開始した。
「ここの物は、二十面相に関する貴重なしry..。」

「だからこそ、必要なんだ!!」小林氏が、ついにブチ切れた。

「二十面相に関する証拠品なんて、そう簡単には無い!!だから、いくつか貸してくれ!!今回二十面相を捕縛するのは、大木君なんだ!!いや、彼しか二十面相を捕まえれない!!頼む!彼に協力してくれ!!!」

大木書生は、呆然と見ているしかできなかった。こんなに必死にせがむ小林氏を見た事は、これまで見た事無かった。

(そうか.....)大木書生は、思った。(小林先生は......やっぱり..俺の事を信用していたんだ..。)

一瞬、小林氏の姿が12才の少年の姿に見えた。

「...........分かった。ただし破損は、許されないぞ。」中村警部がついに折れた。

「あ.....ありがとう!」小林氏は、半泣きで礼を言った。

「だいじょうぶですか?小林さん?」
ユミカがやっと口を開いた。

「ん?ああ、だいじょうぶだよ。」小林氏が答えた。「さて、いくつか持っていくぞ。大木君もユミちゃんも手伝ってくれ。」

突然、ゴトリと音がした。
すると天井から紙がヒラヒラと落ちて来たのだ。

その上には、5と書かれていた。

4日前:アイツが二十面相だ。

翌日の休み時間は、とある噂で持ちきりだった。
そう、美術部の文化祭の出展品だ。

「めちゃハイクオリティーらしいぜ。」ジュンダイが言った。
「本物とそっくりなんだ。」

「へーーー。」大木書生と多四郎が生返事をした。教室の机の上で弁当を食べてる途中だった。「んで、何がそんなハイクオリティーなんだ?」

「それがすごいんだよ。」ジュンダイは、興奮しているようだ。「東京国立博物館に寄贈されている全部の国宝のレプリカを作っちゃったんだ。やっぱ、部長すげーよ。」

これを聞くと大木書生と多四郎は、同時に立ち上がった。

「その美術部って誰でも入れる?」多四郎は、焦ってるようだ。

「まあ.....見学ぐらいなら自由に出入りしていいらしいよ。」ジュンダイが答えた。

だが、ジュンダイが視線を戻した時には、大木書生達は消えていた。


大木書生と多四郎は、教室を飛び出すと美術室に向かって走り出した。

美術室の前の廊下には、乾かしているのであろう国宝のレプリカが新聞紙の上に乗っけてあった。

「......やっぱりだ。」大木書生が唸った。

「...美術部の部長....アイツが二十面相だ。」

「だけどよ、二十面相がこんな高校に潜んでいるか?!もうちょっと安全な所に隠れると思うぜ。」多四郎が反論した。

「お前達、何やってんの?」聞き覚えのある声が廊下から聞こえて来た。

声の主は、キリサメだった。塗装用エアガンを片手に持ってエプロンをしている。

「キリサメ姉ちゃん!」大木書生は、安心したような慌てた様な声を上げた。

「いや、ちょっと美術部の見学したいから....。」

「アア、オケ。中に入りな。」キリサメは、あっさりと大木書生と多四郎を美術室の中に入れた。

美術室の中は、大半が国宝のレプリカで埋め尽くされていた。

人気は全く無く、キリサメだけが教室内にいる様だった。

「へー、すごいな。」大木書生は、感心してしまった。
「ここの部長は、誰なの?」

「あーしは、応援に駆り出された奴だから、知らん。」
キリサメが答えた。

「そもそもあーしは、剣道部だから。」

「他の部員は?」

「みんな、学食に行っちまった。」

「つまり、一人で......」

「んまあ、そうなるな。」

ちょうどその時、一人の部員が入って来た。

「おーい、ちょっと!!」大木書生が叫んだ。「ここの部長の名前知っている?」

「あっ??」男の声だった。「オレが、部長の矢井・晴人だ。」

(??!。コイツが部長??二十面相??)
大木書生と多四郎の頭をこの考えが同時に、横切った。

晴人は、まず多四郎を見て、次にキリサメ、その次に大木書生を見た。

「用か何かアンのか?」

「あの...食事に誘おうと思って...。」キリサメが咄嗟に普段より丁寧に言った。

「ファミレスでも行くんか?」

「はい。」

「チェッ。分かった今日の18:00時だ。」

美術室を出て廊下を曲がると大木書生は、キリサメに囁いた。

「何であんな、変な約束したんだよ!」

「いや、考えてみろよ。二十面相は、あーしが自分に惚れていると勘違いしている。だから今晩、ファミレスを警察で包囲して捕えるんだ。」

「ああ〜、なるほど。」大木書生は、やっと腑に落ちたらしい。
「つまり、誘い出して...。」

「そういう事。追いかけるより、閉じ込めた方が捕まえるの、楽じゃん!」

「確かに!」

「だけど、その前にアイツが二十面相か、確かめなくちゃいけないぜ。」多四郎がもっともらしい意見を言った。

「おけ。それじゃ、千日と多四郎は晴人を尾行して。あーしは、美術部にいないと!」

案外、晴人は早く美術室から出て来た。

大木書生と多四郎は、何げもない様に振る舞っている。
晴人は、どんどん歩いて行き体育館の更衣室に入って行った。もちろん男の方だ。

「アイツのカバンの中を調べるぞ。」大木書生は、ドアの影に隠れながら囁いた。

「そうだな。てか、晴人のやつ遅いな。」


10分経過

更衣室から、人影が出て来た。

「晴人か?!」

「いや、違う。ハチワレのヤツだ。」
天宮・甌和礼は、大木書生のクラスの学級委員長だ。

「てか、アイツどこから出て来た?」


「明らかに男子更衣室から出て来たぜ。」


「まさか晴人と.....。」


「待て待て。二十面相は、女子にも変装できるんだ。つまりハチワレも二十面相かもしれない。」


人が見ていない隙に二人は、更衣室に滑り込んだ。

案の定、中はガランとしていて学生カバンがポツンと置いてあった。
中を開けると、とんでもない物ばかり出て来た。

大木書生の高校の制服 男女一着ずつ

隣町の高校の制服 男女一着ずつ

警察の制服 一着

一般人の服 五着

化粧用の丸いコンパクト 一個

つけまつ毛、つけホクロ、つけニキビ

カツラ 三個

万能ナイフ

スマホ 三個

ガラケー 一個

メモ帳 一個

「どうゆう趣味なんだ?」
多四郎がスマホをつまみながら言った。

「武器はないな。」
大木書生が、呟いた。

「あったりまえだよ。高校に銃何か持ってくるヤツ....。」

「俺は?」

「千日、お前は特別だよ。」

「まあ良いや、ずらかるぞ!」

二十面相捕縛作戦

その夜、大木書生と晴人はファミレスにいた。
二人とも一言も喋らずお互いを見つめていた。
大木書生は、緊張していた。二十面相をこんなに長時間見るのは、初めてだからだ。
(くそっ!!アイツの目を見ていると引き摺り込まれそうになる!!)

「……………………………さて、千日とか言ったっけな。何のようだ?」

「いや...その....まずは、飲み物でも頼もうか?」慌てて回避。

「...........................................ねえ〜〜大木くん、勘づいている事は分かってているんだよん。」
一瞬、大木書生はビクッとした。
トーンが全く違うのだ。

(やっぱり、そうだ。二十面相だ!)

大木書生は、満足した気持ちと怖い気持ちが同時に込み上げていた。

「しばらくだね。二十面相。」

「フフフ、そうだね〜。大木くん。そういえば今日はコルトを持っていない様だね〜。」

大木書生は心の中では、物凄く驚いていた。
(何で知っているんだ!??)
だがここで弱みを見せると、二十面相が優位になってしまう。
大木書生は、しばらく観察する事にした。

「それにしても、最近どう〜?カウントダウンちゃんと見ている〜?」

「もちろん、見ているよ。」

「アハハハハ!それは、良かったよん!そういえば、前は手荒な事してごめんね〜。」

「べつにいいよ。もうちょっとやっても良かったけどね。」

「アッハッハッハ!!大木くんは、冗談が上手だね〜!!」
二十面相は、爆笑した。
それも、ファミレス中に聞こえるボリュームでだ。

実際、ファミレス中の客が二十面相の声を聞いた。
だが今日の客はどうもおかしい。
全員が帽子を目深に被り、ある者はポケットに、ある者はコートの中に手を入れたままだった。
実はファミレスの全員の客は、刑事達なのだ。二十面相を逮捕するために十五人の刑事が動員された。
もちろん全員、実弾の入ったニューナンブM60を携帯している。
ちなみに店員は、情報を漏らさない為に本物の店員を使っている。

「あれれれ〜〜?」二十面相が言った。
「今日はお客さんが妙に少ないよん?」

「お前を逮捕するためだよ!!」

大木書生の叫び声と共に刑事達は、立ち上がりピストルを二十面相に構えた。

「二十面相!!貴様を逮捕する!」一人の刑事が叫んだ。

だが二十面相は冷静だ。
「まあまあ、刑事さん。ちょっと落ち着くんだよん。」二十面相がニヤリと笑った。あの何か裏がありそうな笑いだ。

「これは、見覚えある〜?」
そう言うと二十面相は、何処からかビニール袋を出すと、高々と掲げた。

「よーく、中を見るよん。」

刑事達がアッと声を上げた。

何とビニール袋の中には、ピストルに入れたはずの実弾が、ジャラジャラ入っていたのだ。

「もう一度、確認してみた方がいいよん。」

刑事達は心配になったのか全員、ピストルの中を確認し出した。
「アッ!!弾がない!!」一人の刑事が叫んだ。
「ボクもだ!!」他の刑事が言った。
どうやら二十面相は、弾を全て抜き取っていたらしい。

「だが、手錠を掛ければ.....。」一人の刑事が手錠を片手に走り寄った。

「おっと、刑事さ〜ん。近づかない方がいいよん。」

二十面相がこう言った瞬間、奇妙な事が起こった。
今まで静かにしていた従業員達が一斉に武器を刑事や大木書生に構えたのだ。
イングラムM10を持っている者やM16ライフル、さらにはMP40を構えている部下もいた。

「フフフ、ワタシは人殺しは嫌いだよん。」
二十面相が満足げに言った。
「だけどね〜、いざとなったら自分も守らなくちゃいけないからね〜。」

「何処からM16ライフルなんて.....。」
大木書生が呟いた。
「コピー品か?」

「違うよん。メイド・イン・USAだよん。」
二十面相が得意げに答えた。
「アメリカなんてチョロいもんよん。お金を払えば何でもしてくれるからね〜。」

「MP40は?」

「旧二十面相が残していたものだよん。戦時中に遣独潜水艦作戦によって日本に持ち込まれたものだよん。」

大木書生は、冷や汗をかいていた。

(二十面相さえ逮捕すれば....。だけどそもそも俺の得意分野の射撃が出来ないか.....射撃......。)
突然、大木書生の頭にとんでもない考えが浮かんだ。本当にぶっ飛んだ考えだ。

(どうしようか................一か八かやってみるか!!)

素早く制服の下のウエストポーチに手を伸ばすと、七つの道具の一つ 小型ピストル コルト・ベスト・ポケットを取り出し、二十面相に向けた。

「オイッ!!!部下ども!!俺を撃ったら、親分に風穴が開くぜ!!!」

流石の二十面相も七つの道具には、気付かなかったらしい。
一瞬、戸惑った表情を見せた。だが次の瞬間にはニヤリと笑みを浮かべていた。

「大木く〜ん。そんなに興奮しない方がいいよん。」

「ジョーダンじゃねえ!!お前を逮捕するまでは、火の中でも追いかけてやる。」

「フ〜ン。なら、コレどう?」
二十面相は、指パッチンをした。

すると、どうだろう。ファミレスの椅子の下からモクモクと煙が出始めたのだ。

「これは、催涙ガスだよん。」
大木書生が視線を二十面相に戻すと、二十面相はガスマスクをつけていた。

「クソが!!!」

「んじゃ、大木くん。アバよ。」
二十面相が後ろを向き、催涙ガスの霧の中に歩き出した途端、大木書生は小型ピストルを発砲した。

バーーン!!

二十面相は、これには驚いたようだ。咄嗟に走り出した。
(くそ!!小型ピストルじゃ届かねえ!!)
染みる目で大木書生は、近くの二十面相の部下を殴り倒すと、手に持っていたS&WM27を奪い取った。

(リボルバーか........無いよりマシだ!!)

霧の中をよくみると、二十面相が今にも店の戸口から逃げ出そうとしていた。

「動くな!!二十面相!!」大木書生が叫んだ。
どうやら二十面相は、そこまでは予想してなかったらしい。
M27の銃口を見ると、うろたえた表情になった。

「チェッ。大木く〜ん、ワタシをあまり怒らすと......。」

二十面相は、サッと素早く何処からか、ベレッタ92を取り出した。

「怖いよ!!!」

バーン!!!

何と二十面相は、ベレッタ92を容赦なく大木書生の足元に発砲したのだ。

「ハアッ??!」大木書生は、咄嗟に避けた。
その隙に、二十面相は表戸から飛び出したようだ。
大木書生も表へ出るが、もう遅い。
二十面相は、近くに止めてあった車に飛び乗ると、急発進して逃げてしまった。

大木書生は、すかさずM27を打ったが、命中はしなかった。
ふと、車が駐車していた所にカードが落ちていた。
上には大きく4と書かれていた。

ちょうどその時、パトカーのサイレンが聞こえて来た。

3日前:チンピラ別動隊

「だけどよ。」カズヒロが言った。
「何でこんな所で会議するんだ?」

彼らが今いるのは、大木書生の自動車の中だ。
大木書生,ユミカ,キリサメ,多四郎,カズヒロが車内にいた。
「もちろん二十面相に計画を知られないようにさ。」
大木書生は、ハンドルを握りながら答えた。
「アイツは、何処でも追いかけてくるんだ。だけど車の中とか、密室だと逃げ道が無いから、来ないと思うんだよ。」

「もし来たら?」ユミカが聞いた。

「もし来たら......。」大木書生は、コルトM1911を取り出した。
「昨日の借りを返す。」

「んで本題は?あーしは、こんな事に付き合っている暇、無いんやけど。」


「本題は、いわゆる潜入調査員の事だ。」大木書生は、何処かにしまってあ
った地図を取り出した。新宿区歌舞伎町の地図だ。

「昨日の夜、警察によって捜査が行われたんだよ。そしたら二十面相の車は、歌舞伎町の繁華街に入って行ったらしいんだ。」

大木書生が、地図に示してある赤い丸を指差した。

「だけど、車は忽然と消えた。だから警察は、消えた場所しか絞れなかったんだ。そんで、俺が予想しているのは、この消えた場所の何処かに二十面相のアジトがあるんじゃ無いかということ。」

「へー、だけど繁華街は広いぜ。」多四郎が止めた。

「しかも治安が悪い。」ジュンダイが付け足した。

「それだから、潜入調査員が必要なんだ。」大木書生が答えた。

「ここを良く知っていて、目立たないヤツ。チンピラ別動隊が必要なんだ。」

全員が深く考え込んだ。

「..........アッ!あーし、いい奴知っているよ!」突然、キリサメが叫んだ。

「誰?」大木書生は、危うくハンドルが狂う所だった。

「繁華街の方に飛ばして!そしたら分かる!」

5分後.....

一同は、繁華街の所にある和食屋の前にいた。

「アーーッ!ここね!!」ユミカも何か腑に落ちたらしい。

「んじゃ、中に入ろか。」キリサメがノレンをくぐって入って行った。

中は、意外と人が多かった。外国人も混ざっているようだ。時々、英語やドイツ語が聞こえてくる。

ユミカとキリサメは、カウンターの方に行き、大声で名を叫んだ。

「カグラ先輩!!」

「ン〜〜〜?」

奥から出て来た人物は、何ともいえない格好だった。
金髪で左目は、髪の毛がたれていて見えない。服装はというと、ヘソ出しTシャツにダブダブのジーンズ、紺のモッズコートと言うクセありの格好だった。

「カグラって誰だ?」大木書生がジュンダイに耳打ちした。

「お前知らないのか!?カグラの事?!」

森下・神楽坂は、大木書生達の高校で伝説と化している卒業生だ。
バイクで登校したり、髪の毛を染めたり、体育館を自分のシマとして卒業まで牛耳っていたが、一度も留年しなかったと言う伝説を持つ。
ユミカとキリサメの先輩だった為、二人に(特にキリサメに)影響を残している。

「オッ!ユミカにキリサメじゃねーか!」

「ウイース。」

「久しぶりー。バイトどう?」

「見ての通り大繁盛さ。そういえば、アイツら誰だ?」

「千日と多四郎、ユミカの後輩だ。」

「へー。んで何の用で来たんだ?」

ユミカは、何かカグラに耳打ちした。

「フーン........。」
カグラは、考え込んでいるようだ。

「オケ、手伝ってやる。ワテについて来な。」

「ユミカ姉ちゃん、何を聞いたんだ?」カグラについて行く途中に大木書生は、ユミカに聞いた。

「スパイ活動が得意な奴いるか?って聞いたんだよ。カグラ先輩はココら辺の事は詳しいからね。」

電車の高架下に来るとカグラは、足を止めて暗闇を指差した。

見ると12歳ぐらいの子供達がいた。あるものは寝転がり、あるものは座ってボーっとしていた。

そこから少し離れた所には数人の立ちんぼがいた。

「トー横キッズだ。」カグラが囁いた。

「気を付けろ。何人かは、オーバードーズしているからな。」

大木書生は、二度見してしまった。
チンピラ別動隊にはピッタリなのだが、どうやってコミュニュケーションを取ればいいのだろう。

大木書生が考え込んでいるとパッと、数人のトー横キッズや立ちんぼが大木書生達の周りを取り囲ったのだ。

それぞれの手には、金属バットや鉄パイプ、FP-45を持っていた。

「なあ。」多四郎が言った。「ヤバくね?」

キッ!!

突然、金属が擦り切れる音がした。その直後に大木書生はコルトM1911を取り出すと音のした方に発射した。

パーーンッ!!!カーン!!

見ると一人のトー横キッズがピストルの射撃姿勢のまま震えていた。
だがピストルは手の中には握られていなかった。
彼のFP-45は、肩割れに転がっていて、それには弾痕があった。

何と大木書生は、早撃ちで相手のピストルを弾き飛ばしたのだ。

「お前らが俺に早撃ちで勝つのには1000年早い。」大木書生が叫んだ。

「言え!!何処のどいつが、裏についている!!」

答えの代わりに全員のFP-45が火を噴いた。

「ふせろ!!!」ジュンダイの声が聞こえた。

だが大木書生は、戦わなければいけなかった。自分が唯一の戦える状態なのだ。
数人のFP-45をコルトM1911で弾き飛ばすと、鉄パイプを避け、殴って来たやつを締め技で気絶させる。
金属バットを持っているヤツを締め付け、背後からの奇襲には威嚇射撃、立ちんぼは全員喉突きで気絶した。

大木書生は、締め技,射撃,喉突きでチンピラを一人で制圧したのだ。

「なーに、簡単な事だよ。」呆気に取られているユミカ達に大木書生は言った。

「さて、コイツらから襲って来た理由を聞かなきゃな。まあ大体、見当が付いているけどね。」
そう言うと大木書生はコルトM1911からマガジンを取り出すとポケットにしまい、近くのグッタリしている小柄のトー横キッズに銃口を向けた。

「オイッ!!」大木書生が大声を出した。

そのトー横キッズは、薄く目を開けると銃口見ての驚いたようだ。
「ヒイッ!」と小さな悲鳴を上げてうずくまった。
「命だけは勘弁して.........。」

「俺の質問に答えろ。」大木書生は厳しい声で言った。「さも無いと.........。」

「千日、待って。」ユミカが言った。
「この子ケガしている。」

そう言うとユミカは、小柄なトー横キッズの袖を捲ってみせた。見ると腕にはアザがいっぱい付いていた。

「キリちゃん、氷水。」

「あいよ。」

「君、名前は何て言うの?」
ユミカは、まるで迷子の子に質問をする様に聞いた。

「..........光太郎....。」

「何才なの?」

「...........................12歳.......。」

「お父さん、お母さんは?」

「.......................................................。」

「オイ。」突然カグラが口を聞いた。
「顔色が良くねーぞ。メシ、マトモに食っているか?」

光太郎は、何も言わずに首を横に振った。

「...........フーッ、わかった。まずは、メシを食ってから質問に答えろよ。」そう言うとカグラは、他のトー横キッズや立ちんぼを起こし始めた。

作戦会議

和食レストランの座敷は、すぐに満員になった。
「ホレ、ジャンジャン食え。」カグラが進めた。
トー横キッズや立ちんぼは、無言で食べ続けている。
大木書生は座敷の隅に座って焼き鳥にかぶりついていた。片手にはコルトM1911を握っている。ジュンダイと多四郎は、トー横キッズ達と一緒に食べるのに夢中だった。
唯一この部屋で緊張しているのは、大木書生とユミカ,キリサメだった。

二人は、大木書生のちょうど反対側に座り、キリサメは竹刀、ユミカは、木刀を持っていた。

「さて。」キリサメが言った。「質問タイムだ。」
全員が黙った。

「んじゃ、質問第一。お前らの雇い主は誰だ。」大木書生が聞いた。
誰も答えない。

「....................オレたちは............。」
やっと光太郎が口を開いた。
「オレたちは....雇い主の顔を....見た事ないんだ......。」

「????」

「どーゆー事?」

「.......週に一回、命令が書かれた紙が届くんだ......そして命令通りにやれば...弁当をくれるんだ。逆らうと.......。」

「逆らうと?」

「........分からない。」

「分からない?」

「今まで逆らったことなんて無かったから.......。」

沈黙が続いた。

「.......なあ、光太郎。俺たちに協力しないか?」大木書生が突然、提案を下した。

「んへ?」

「こんな事やっていたら、一生ロクな目に遭わないぜ。」

「..............................…!!.....................................。」

「...........俺たちに協力してくれるか?」

光太郎はしばらく髪の毛を掻き回していたが、最後にこう言った。

「..................わかった。んで、何をすればいいんだ?」

「仲間になってくれるのか?」

「もちろんですよ、兄貴。」

ちょうどその時、座敷の襖が開いて一人の店員が入って来た。

「メジロ、どうした?」カグラが聞いた。

「お客様の一人が紙を渡してきて....。」

そう言うと店員は、大木書生に紙を渡した。
上には大きく3と書かれていた。

2日前:下調べ

「もうすぐだ。」小林氏が言った。
大木書生はハンドルをギュッと握った。
しばらくすると大きな石の建物が見えて来た。

これこそが東京国立美術館なのである。
駐車場で車を降りると、一人の男がこちらに駆けてきた。

「おはようございます。」その男は丁寧にお辞儀をした。
大木書生と小林氏も同時にお辞儀をした。

「私は国立美術館の責任者、辻野という者です。あなたが、小林さんですね?」

「そうです。」

辻野氏は、ニコニコしていた。

「そして、あなたが助手の大木君ですね?」

「はい。」

「颯斗館長がお待ちしているので、こちらへどうぞ。」

館内はシーンと静まりかえっていた。

「この一週間は、休館しているんです。」
辻野氏が説明した。
頑丈な鉄の扉の前で立ち止まると辻野氏はIDカードを近くにあったスキャナーにかざした。

「この中が国宝館です。」

国宝館は、眩い光を放つ国宝でいっぱいだった。

「ガラスケースには、触らない様に。センサーが作動してしまうので。」

「スゲーな。」大木書生はつぶやいた。

「まだあるのですよ。」辻野氏は説明した。

「空調設備の人が入れそうな所には、センサーを入れときました。」

「いやはや。」小林氏は感心したようだ。「時代は、変わりましたな。私の場合は観音像にならなければならなかったんでね。」

「ハハハハハッ。それはそれは。」

ガタッ!!

何処かで変な音がした。見ると壁の一部がドアのように開いたのだ。

「小林さん、ようこそお越し下さいました。」颯斗館長の声だ。「こちらへ、どうぞ。」

壁の中の部屋は、小さな警備室のようだった。モニターが沢山あり、三つの安楽イスが置いてあった。
その一つに颯斗館長が腰掛けていた。
「ここは、警備室ですよ。マア、掛けてください。」
小林氏と大木書生は、安楽椅子に腰を下ろした。
「さて、お茶でもどうですか?」

「いや、いらないです。それより私たちは、下調べをしに来たのですよ。」

「下調べ?」

「先代の二十面相は、どのようにして国宝全てを盗んだと思います?」

「さあ.......。」

「アイツは、工事の作業員に部下を変装さして、偽物とすり替えていたんですよ。」

「ホウ。つまりあなたが言いたいのは、国宝を見せてくれと.....。」

「そうです。」

「わかりました。直ぐに確かめましょう。」

小林氏と颯斗館長は、秘密のドアを開けると外に出て行った。

ガタッ、ゴトゴト

しばらくすると、小林氏は不安気な表情を浮かべながら戻ってきた。

「どうでしたか?先生。」

「いや、大木君。特に異常は無かったが.............どうも胸騒ぎがするんだ。」

「...........?」

「ヤツは、国を敵にまわした....いや、世界中を敵にまわした事もあるからな。」

「.........どうゆう事ですか?」

「大木君。」小林氏が真剣な声を出した。
「二十面相というヤツは、その物を盗むにはどんな事をしたって止まらない。下手したら人を殺すかもしれん。だが大木君、これだけは、覚えておいてくれ。どんなに紳士な者が人殺しをしないと言っていても、決して信用してはいけない。わかったかね?」

「はい!」

「よし。それじゃあ、明後日に向けて頑張ってくれたまえ。」

テロンッ!!

大木書生のスマホが鳴った。
二十面相からメールが来ていた。
そこには、2と書いていた。

1日前:二十面相は?

そこは、まるでアパートのような部屋だった。電灯のオレンジ色の光に照らされた部屋の中には、布団に包まった人が寝ていた。
突然、誰かがドアをノックした。

コンコンコン

「カシラ、いますか?」

「ムニャッ..........んー、小島か?」

「はい、そうです。」

「就寝時間だよん。こんな時間に起こすなんて、ソウトーな緊急事態か〜?」

「いやその........緊急事態じゃないですけど.......お知らせがありまして.....。」

「何じゃよん。」

「例のモノが全て届きました.....。」

二十面相は、ガバッと勢いよく起き上がった。

「本当か??」

「本当ですよ。」

「今直ぐ見せてよん!」

二十面相と小島は、部屋の外に出た。
何とそこは、同じようなドアが連なってる廊下なのだ。
その廊下をズンズン進んで行くとガレージのような所に出た。
このガレージには、所狭しと物が置かれ、まるで芝居の楽屋のようだった。
二十面相は、その中で1番大きな物の歩み寄った。

カバーを外すと、ソレはタービンに鉄板を貼り付けたような物だった。

「これか..........。」二十面相は、誇らしげに言った。「コイツで先代の二十面相を超えてやるよん。」

「だけど警備は先代の時よりも遥かに厳重ですよ!」小島が言った。

「その警備を掻い潜るためにワタシはこれをアメリカから買ったんだよん。貯金の引き出しも大変だったんだからね〜。」

「まあ確かに、スイス銀行ですからね.....。」

「だけど、スイス銀行のおかげでワタシ達は、特捜部に場所を特定されないじゃない!あとこの世にはVPNという物があるんだよん。あんな素晴らしい発明は見た事ないよん!あー!!スッゴイ、ワクワクして来たよん!!16才でこんな経験できるなんて生きててホントよかったよん!!」

「カシラ、あとは僕たちが準備するので、そろそろ寝たらどうですか?」

「ファワーッ......そうするよん。おやすみ、小島。」

二十面相は、ガレージを出ると自分の部屋に戻って鍵をかけた。
だが二十面相は眠らなかった。ひたすら机に向かって書き物を書き始めた。

「ヒエーッ。」二十面相が独り言を言った。
「四つの高校の宿題がまだ終わっていないよん...........。」

当日

「千日君。起きな。」小林氏の声が聞こえた。
大木書生は、眠そうに目を開けた。
天井を背にして小林氏がコーヒーを片手に覗き込んでいた。

「なんですか?先生。」

「今日はBIGDAYだ。」小林氏がニヤリとイタズラっぽく笑った。
「君VS二十面相の日だよ。」

ソレを聞くや否や大木書生は、ベッドから飛び上がった。
「しまった!!」

「だいじょうぶだ。寝坊はしていない。」

5分後...

大木書生が台所に降りで行くと、プウンッと何かが焼ける匂いがした。
慌てて見ると、小林氏が焼きそばを作っていた。
「ホレッ、食べていきな。」
その日の朝ご飯は珍しく、大木書生と小林氏が一緒にとった。

「...........小林先生、質問があるんですけど.....。」

「ん?なんじゃ?」

「......ユミカ姉ちゃんに、聞いたんですけど...女装していたんですか?」

「......................................まあ、そうじゃな。」

「!?」

「...........趣味ではないぞ!」

「わかっていますよ。」

「マユミに言われたからやったのだよ。」

「マユミってユミカ姉ちゃんの...。」

「そう、ユミちゃんの婆さんだ。」

「へー。」

「まあ、大木君もうすぐ時間だ。行く準備をしてくれ。」

10分後....

大木書生、ユミカ、キリサメ、多四郎、ジュンダイ、カズヒロは颯斗館長の警備室に座っていた。
「すまんね。」颯斗館長は何本かのタピオカを持って来た。「君達も大変だろうに.....。」

「だいじょうぶですよ。」カズヒロが口を開いた。「外には、警察がいますし。」

「小林さんは?」

「小林先生は、中村警部と話し合いしています。」キリサメが口を挟んだ。

「本当にだいじょうぶか?」ジュンダイは、心配なようだ。

「だいじょうぶだよ。小林先生に教えてもらったんだけど、警備システムは全てオンにしてあるから、物が一つでも動けば警報が鳴るよ。」大木書生が答えた。

突然、館内の放送用スピーカーから声が聞こえた。
「アーアー、テスト、テスト。えーっ、警察と小林さん、大木くんにお知らせがあるよん。」
二十面相だ。声は少し加工しているようだ。
「今日の夜9時に全ての国宝を頂戴するよん。ずいぶんと用心した方が良いよん。」
そう言い終わると放送はプッツリ切れた。
皆が呆然としていた。

夜8:55 国立美術館付近

「そろそろだよん。」二十面相がトランシーバーに言った。
二十面相は、今トラックのコンテナの中で座り込んでいた。
横には例のタービンに鉄板を付けたような機械が置いてあった。
「カシラ、皆準備OKです。」トランシーバーから返事があった。
「ラジャー。それじゃ皆頑張ってくれ。」

一方....

大木書生は全神経を集中さしていた。
物音一つしない。
突然、大木書生のスマホが鳴った。
内容は、奇妙な物だった。

「問題です。
Q:電化製品を無効化出来るモノは、何でしょう?」

大木書生は首を傾げた。

「ヒント:アメリカの警察が研究しているモノ。」

ますます、分からない。

「分からん。」
これが大木書生の回答だった。
返事は直ぐに帰って来た。

A:電磁パルスだよん。

その途端、スマホの画面が真っ黒になった。
警備室の電気も監視テレビの電源も消え、
あたりは真の闇になった。
「..........まさか。」小林氏の声が暗闇から聞こえた。いつものしっかりとした声が今は、震えている。
「電磁波か!!」

そう。何と二十面相は電磁パルスを使って警備システムを全て無効化したのだ。

「ヤベーー!!」多四郎が叫び声を上げた。

「まずいぞ!この警備室の隠し戸は、電動なんだ!」颯斗館長が言った。

大木書生は手探りで隠し戸の前に行くと、思いっきり蹴った。びくともしない。

「その隠し戸は特殊合金で出来ているんだ。」

「クソが!!」

一方、二十面相は.........

「爆破!!」

ドガンッ!!

二十面相の部下達は空調設備の蓋を爆破させると、空調ダクトの中を通って展示ケースの中に辿り着いた。
「急げ!!警察が来るまでは10分しかねえ!!」

大木書生達は.........

ドンッ!

天井の上で何やら鈍い音がした。

「アレは、空調設備の方からですね。」
颯斗館長が絶望的な声を出した。

「ん?ちょっと待てよ。あのダクトで出られるんじゃね?」突然、キリサメが名案を出した。
「なるほど!それは賢いぞ!」
小林氏が言った。
「大木君、七つの道具の一つに棒があったはずだ。ソレを貸してくれ。」
大木書生は、手探りで棒を取り出すと小林氏に渡した。
小林氏はその棒を手に取ると宙に向かって一振りした。
すると、どうだろう。棒が少し伸びたではないか!
もう一振りするとまた伸び、ついには天井までの高さになった。
「手品師が使う棒だよ。明智先生はツァウバーシュタウブと呼んだいたがね。」
小林氏は器用に棒の先をダクトの換気口に向けるとトンッと押した。

ガタンッ!

物凄い音がして鉄板が吹き飛んだ。
「大木君、君のウエストポーチの中に縄梯子があるはずだ。ソレを使ってダクトへ登れる。」
その縄梯子の先端には鉄の鉤爪が付いていた。
大木書生は思いっきり縄梯子の先端を換気口の方に投げた。

ガチッ

上手く引っかかったようだ。縄の結び目を使って登って行くと、ダクトの中に着いた。
大木書生の次にユミカ、多四郎、ジュンダイ、カズヒロ、キリサメが続いた。
「小林先生は来るんですか?」

「いや、私はやめておく。君達、武器は持っただろうね?」

「はい。」

「なら、行ってらっしゃい。」

ダクトの中は肌寒かった。

「どっちに行ったら良いんだ?」

「シッ!」
ジュンダイが言った。
「聞こえた?」

確かに何処からか何かが擦れ合う音が聞こえて来た。

「あっちからじゃないか?」

「ヨシッ。ジュンダイ自衛用にこれ持っとけ。」
そう言うと大木書生はコルト・ベストポケットをジュンダイに渡した。

「ん?ちょっと待て。千日、お前まさか...........。」

「そうだ。お前がオトリになる。」

これを聞いてジュンダイは、飛び上がった。

「なっ何で俺が!??」

「隠キャっぽいからじゃね?」キリサメが追い風をかけた。
「てか、ジュンダイ以外やりたいヤツいるか?」

誰も答えない。

「ヨシッ、ジュンダイ行って来い。」

「ハアッ??!だから何で......。」

「行けつっているだろ!!」
そう言うとキリサメは竹刀でジュンダイを叩こうとした。

「わかったよ!行くよ!行きゃあいいんでしょ!」

換気口から覗くと暗い展示室の中は、懐中電灯の光が行き来していた。

「んじゃ、行くぞ。」

「ヒエーッ。」

「3、2、1.....GO!」

まずジュンダイが降りだった。

「ホヘッ?!!何だ?誰だ?!!」

「人だ!人だぞ!!」
二十面相の部下達は驚いたようだ。

その隙に大木書生が飛び降りて威嚇射撃。
その次にユミカとキリサメが木刀と竹刀を振り回しながら着地した。

大木書生は得意の指突き、ユミカとキリサメは竹刀と木刀でドンドン部下をKOして行った。

「撤退!撤退!」部下の悲鳴が聞こえた。
二十面相の部下達は慌ててダクトに逃げ込んだ。

「アイツら何にも武器持っていなかったなぁ。」キリサメが呟いた。

「国宝は?」ジュンダイが聞いた。

「まだあるぞ。」多四郎が答えた。

「ん?ちょっと待って、何だこの匂い?」
大木書生が深刻そうな声を出した。

確かに化学薬品の匂いが、部屋中に充満している。

「火薬じゃね?お前、威嚇射撃していたし。」

「何かこの匂い覚えがあるんだけどなー..............。」大木書生は首を傾げた。

「木工用ボンドの匂いだ。」キリサメが言った。

この言葉を聞いた瞬間、大木書生は飛び上がった。
「マズいぞ!!この展示品は全部ダミーだ!!本物は二十面相の部下が持って行ったんだ!早く追いかけるぞ!!!」

「小林さん達は?」

「しょーがねー、ジュンダイとカズヒロはここに残って小林先生を救出しろ。俺達はアイツらを追いかける。」

「わかった。」

ダクトを伝って外へ出ると何とそこは屋上だった。

ブロロロロ

何処からか車のエンジン音が聞こえる。
見るとバンが駐車場を出ようとしているところだ。
「あのバンだ!!」多四郎が叫んだ。
大木書生はすかさずコルトM1911を撃ったが
命中しなかった。

「クソッ!!今回も逃したか!!」
ユミカが悔しがった。

「イヤ、逃してはいないよ。」大木書生が言った。「今日、俺達はアイツを逮捕出来る。必ずだ。」

ポケット小僧の冒険 (1)

さて、時間を巻き戻そう。
ちょうど大木書生達がダクトから這い上がって屋上を目指している時、二十面相のバンは、部下達を待っていた。そのすぐ横、暗がりの中に一人の少年がうずくまっていた。

あまりにも汚いせいか、それとも体が小さいからなのか、バンの中の連中も気付いていないようだ。
コイツの名は尾川・光太郎、別名ポケット小僧だ。読者諸君も馴染み深いと思うので、これからはポケット小僧と呼ぼう。
さて、ポケット小僧は暗がりのうずくまりながらバンの様子をうかがっていた。
突然、バンのエンジンがかかり、ポケット小僧はバンの後ろの方に飛び乗った。
むろん、ポケット小僧は身軽ですばしっこいので、バンは何事も無く出発した。
ずっとバンの背後に捕まるのは辛い事だが、彼にとっては虐待よりマシなものだった。
バンはそのまま20分ぐらい路地を走っていたが突然、開けたネオン看板に照らされた通りに出た。
(アレッ?ここは歌舞伎町の繁華街じゃないか!つまりここら辺にアジトがあるんだな!)
バンは、大きなネオン看板の前で止まった。
看板にはでっかく「奇面城」と書かれていた。二十面相の部下らしき者が入り口の横にあるガレージを開けるとバンはガレージの中に入った。
ポケット小僧はバンから物音を立てずに降りると近くの木箱の後ろに滑り込んだ。
木箱には「食料品」と書いてあった。
(これに入ったらアジトのキッチンに忍び込めるな.........。)思うが早いかポケット小僧は、木箱の蓋を外して中の物を取り出すと自分が中に入って蓋を閉めた。
1分経つと足音が聞こえて来た。どんどん近づいて来る。
ポケット小僧の木箱の前で止まるとしばらくそこにいたが、グンと木箱を持ち上げて歩きだした。
「おっそろしく重い箱だなぁ。」部下の声が聞こえた。
ポケット小僧は箱のふし穴から外の様子を見ていた。
部下は木箱を持ったまま、店内を歩いて、空いたカラオケの部屋に入った。
(??何でカラオケ部屋に入るんだ?)
注意深く見ていると、部下は箱を置きカラオケ用のマイクを手に取った。
するとスピーカーから声が聞こえてきた。

「1+1は?」

(簡単だ。2だ。)

「味噌スープ」

その途端、部屋がガクンと揺れポケット小僧の入った箱はガクガク震えた。

しばらくすると揺れは治り、部下は再び木箱を持ち上げて歩き始めた。
ふし穴から見た光景は奇妙な物だった。
ものすごく狭い廊下で、潜水艦の中のようにパイプが至る所に張り巡らされていた。
しばらく歩くと、二十面相の部下は鉄のドアを開けて、木箱を無雑作に床に投げ付けた。
ポケット小僧は悲鳴を上げそうだったが、堪えた。
足音が遠ざかるとポケット小僧は静かに蓋をずらした。
古い蛍光灯がぼんやりてらされた部屋の中には沢山の箱や袋があった。
(ここは倉庫だな。)ポケット小僧は悟った。
(となると、部下はここを頻繁に利用しているぞ。)
すると何処からかニンニクが焼けた匂いがしてきた。そこでポケット小僧はやっとお腹が空いている事に気づいた。
(だけどニンニクの匂いがするなら調理場と繋がっているのか!?)
まるでその答えのようにガチャリと別のドアが開いた。
壁と同じ色に塗られていたのでポケット小僧は全く気付かなかったのだ。
慌ててポケット小僧は、蓋を閉めた。
ふし穴から覗くと白いコック帽を被った人物と、痩せた男が目に入った。

「..ったく、タピオカなんて今時流行っていないよ。」痩せた方がため息混じりに言った。

「カシラは古い物が好きなんだよ。ホラ、強風オールバック的な物とか。」コック帽が答えた。

「だけど沖縄生まれがタピオカなんて作れるか?」

「アタイにとっては、朝飯前だよ。」
この時ポケット小僧はやっとコック帽の人物が女性なのに気付いた。

「ヨッと。タピオカ見つけたぞ。」

「ん?なんか音した?」
そう言うとコック帽は懐からトンファーを取り出した。

「気のせいだよ。ほら、早く行くぞ。」

ポケット小僧の冒険(2)

ドアが閉まるとポケット小僧は、また蓋をずらした。
(あんな部下がいるなんて……..これは、武器を見つけないとヤバいな………。)
暗闇で、箱を手当たり次第に開けていき、9発の弾丸とマカロフ拳銃が手に入った。
(さてと……まずは、内部構造の把握だな。)
ポケット小僧はあらかじめ用意してあった黒タイツを身に付けると倉庫のドアを押し開けた。誰もいない。
廊下を忍び足で歩いているはずなのに、妙に足音が響いた。

ふと1つの部屋のドアの隙間から光が漏れていた。ポケット小僧はマカロフPMを取り出すとソロリとその隙間に近づいた。
覗き込むと部屋の中は豪華な金の装飾がしてあった。
金ピカの部屋の真ん中に、これまた高そうな椅子が二つあり、そこに二人の人物が腰掛けていた。一人は作業服を着て、もう一人は軍服を着用していた。

「アハハハハハハハハ!!!愉快だよん!」
突然、声が聞こえて来た。初音ミクのようなトーンが特徴的だった。

「カシラは16才でだら?酒なんて飲んで良いんだけ?」

「ワタシの年齢は13〜20才だよん!20才の戸籍も持っているからお酒は飲んで良いんだよん!(良い子も悪い子も真似しないでください。)」

「だけど......。」

「なんか文句あるかぁ?」

「...........いえ……..。」

「そういえばトー横と立ちんぼに、弁当を一人三個分買いに行ってよん。あと立ちんぼには、生理用品も。」

「何でですか?」

「アイツらは家庭何らかの事情があるんだよん。ろくにメシなんて食っていないよん。ワタシもそうだったよん。」

しばらく沈黙が続いた。

「………わかりました。」

「それで良いよん♪さっさと行くよん。」

その部下はあたふたと部屋を出て行った。

「あーあ。ホンット、うざいよん。」二十面相は独り言を言った。
ここで二十面相の外見を記しておこう。
身長158.0cm、性別は何と男性だった。イヤ、これも変装かもしれない。とにかく今の性別は男だった。

そう性別。二十面相は今は全く違う人物になっているのだ。

ポケット小僧はドアを開けて中に入ろうと思ったが辞めた。二十面相の近くのテーブルにはジンのグラスとモーゼルピストルが置かれていた。
いくらマカロフ拳銃を持っていても練習を積んだ二十面相に対しては、直ぐに負けてしまうだろう。

しばらくすると二十面相が席を立った。

「さてと、美術室でも行くか〜。」
そう言うと廊下側のドアに向かって来るではないか。ポケット小僧は、素早く暗闇へ隠れた。
二十面相はポケット小僧がいるとは知らずにどんどん廊下を進んでいく。
奇妙な光景だった。
将校のような二十面相の後ろを黒い一寸法師がマカロフ拳銃を構えながらついていくのだ。

二十面相は廊下の左側にあるバカでかい扉を開けた。ポケット小僧は反射的に中に滑り込んだ。
その部屋は高さも幅も尋常じゃないくらい広かった。そんな美術室の中には、あちこちに展示ケースに入った宝石や食器、絵画、銅像、刀が置いてあるのだ。
二十面相は輝いた目で美術品を一つ一つ見て行った。もし展示ケースに汚れが付いていると自分のハンカチで丁寧に拭き取った。
ポケット小僧は部屋の隅のダンボールの影に隠れていた。だが行動がどうもおかしい。
懐から長方形の箱を取り出すとアンテナを広げた。そしてスイッチを入れた。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 

ピッピッピッピッ

アラーム音が鳴ると大木書生はノートパソコンに飛び付いた。
地図を表示するとユミカ達に見せた。
「ポケット小僧にGPSを持しておいたんだ。今直ぐ警察に電話しよう。」
そう言うと大木書生はニヤリと笑った。
「これは今日中に逮捕出来るぜ。」

THE-LAST-ACT

大木書生は実弾をコルトガバメントに込めた。車の外はパトカーや警察車両でいっぱいだ。
合計で20台のパトカーと3台の特型警備車がカラオケ「奇面城」を取り囲んでいた

「本当にここがアジトなのか?」
キリサメが聞いた。竹刀を出していつでも突入可能な雰囲気を出している。

「アア、ポケット小僧が正しければな。」

「もしアイツが裏切っていたら?」
ユミカが聞いた。彼女も木刀を取り出した。

「アイツは裏切らないさ。」

外が突然騒がしくなった。
ジュンダイが車の窓をノックした。窓を下げろと言っている。

「もうすぐ機動隊が突入するぜ。千日達も一緒に来るか?」

「オレは行く。」

「私も。」

「あーしも。」

車から出るとカラオケの前には機動隊が群がっていた。

「千日君!千日君!!」小林氏の声が何処からか聞こえた。振り向くと小林氏がリュックを持って立っていた。
「小林先生!!」

「なんとか自力で出れたよ。そうそう、このリュックを君に渡そうと思ってね。いいかい?このリュックは...........。」
小林氏は何かを大木書生の耳に囁いた。

「........アッはい!...........分かりました。」
大木書生は返事をするとリュックを持ち、機動隊の方に戻って行った。

「なんだったん?」カズヒロが聞いた。

「特に何も。」

ちょうどその時、機動隊の隊員がカラオケのドアを突き破った。

ドンッ!

「それじゃあ、最後の行動するか。」
大木書生は機動隊の先頭に飛び込んだ。

カラオケの中に突入すると人気は全く無かった。と言うか人がいなかった。

「本当にここで........。」
機動隊員が言い終わるか否や、二十面相の部下(ゴロー)が物陰から飛び出して、椅子の陰に転がり込んだ。

「ふせろ!!」突然、叫び声が聞こえた。
次の瞬間、機動隊の頭上を数発の弾丸がものすごい音を立てて飛んでいった。

何とゴローはMG42機関銃を持っていたのだ。
バリバリバリバリ!!!
容赦なく撃ってくる。

バシッ!!!!
急に射撃音が無くなった。
恐る恐る見上げるとユミカが木刀でゴローをめちゃくちゃに殴っているところだった。
「お前なぁ!ぶち殺してやろうかぁ??」

「ヒーー!!命だけは.........。」

「こっちはなぁ、隊員の皆さんと幼なじみを殺されかけたんや!!なんか言う事ちゃいますかぁ?!!」

「ごめんなさい!!!」

「隊員さん、逮捕しといて。」

ユミカの剣幕にゴローはすっかり小さくなっていた。

「そうそう部下さん。」キリサメが聞いた。
「アジトの入り口は何処ですかぁ?」

「それは自分で見つけろ。」

「そういえば、あーしも竹刀を持っているからね。」

「手前から3番目の部屋です!!」

「本当に?」
キリサメは竹刀の先端でゴローの頭をチョンチョン触った。

「本当です!!」

「よーし、んじゃみんな行くよー。」

アジト

途中に二、三人の部下がいたが、ユミカとキリサメのタッグでボコボコにされた。
「ぶっちゃけ機動隊いらないんじゃね?」
カズヒロが囁いた。

しばらく行くと3番目の部屋に着いた。
「お前達は五人で上を頼む。我々は下に行く。」機動隊員が言った。
カラオケはぎゅうぎゅう詰めだった。

「ここがアジトか?」
「だけど何もないよ?」ジュンダイが言った。
突然、部屋が激しく揺れた。
機動隊員も驚いたらしい。みんな叫び声を上げた。
しばらくすると揺れがおさまった。
「君たちは下がってくれ。」そう言うと機動隊は盾をドアの方に向けた。

ガチャ

ドアが開いた。その瞬間、機動隊は雪崩のように外へ出た。
大木書達が出ると四人の部下が鎮圧されている所だった。

「すごいな!」カズヒロは関心したようだ。
「だろ?」手の空いた隊員が自慢げに言った。「俺たちは.........。」

ボカッ!!

何処からか棒が飛んできて隊員の頭にクリーンヒットした。
「あんたたち、何してんだ?」声が聞こえた。女性のようだ。
大木書生は飛んできた棒を拾い上げた。
何とそれはトンファーだった。
次の瞬間、何かがものすごいスピードで隊員に近付き、あっという間に気絶さした。
「なんだ、手応えないな。」
トンファーを拾い上げると大木書生をチラリと見た。
100%敵の目をしていた。すかさず大木書生は、M1911ピストルをぶっ放した。
だが、軽やかに避けた。まるでバレエをするかのようにだ。
「改めて紹介しよう。」着地しながらソイツは言った。「私の名はキナリだ。よろしく。」
また発砲した。だが今度はトンファーを使って弾を、弾き返した。
「君が大木君か....。聞いていたよりイケメンだな.....。まあ良いや、チャオ。」
そう言うとトンファーを振り上げた。なすすべもなく、大木書生は目をグッとつぶった。

ガン!!

木が擦れ合う音がした。そっと目を開けるとユミカが木刀でトンファーを受け止めていた。
「お前.......。」ユミカが言った。
「千日になんかやったかぁ?!!オラァ、なんか言えや!!」
そう叫ぶと木刀を振り下ろした。
しかし、キナリはヒョイッと避けた。

「おもしろい!!久々に手応えがあるぞ!!」キナリの目は狂気じみていた。

「うるせーっ!!テメーなんか、挽肉になった方がマシだ!!」

「黙れ!!胸もないぺったんこ野郎!」

「こっちには心があるわ!巨乳が!!」

そう言いながらユミカとキナリは、戦っていた。大木書生はM1911ピストルを握っていたが、狙いを定めるのが難しい。

「ほんまに、すばしっこいなぁ!!」

「褒めていただき、どうも。」

「じっとしてろやぁ!!オラァ!!」

「ヤダね。」

するとキナリが足を滑らした。
「隙あり!!」
だがキナリは懐に手を入れると、釵を飛び掛かってきたユミカに投げた。
慌ててユミカは避けた。
「あっぶねー!!」
突然何処にいたがわからないが、キリサメがユミカとキナリの間に割り込んだ。
手には大きな棍棒のような物を持っている。
キリサメは、その棍棒を振り上げるとキナリの頭を思いっきり殴った。
いくら強い人だってこれは耐え切れないだろう。キナリは気絶した。
「竹刀は?」ユミカが聞いた。

「あるよ。だけどこっちの方が手直にあったから......。」
そう言うとキリサメは棍棒をトントンと触った。

「.......それって、もしかしてパンツァーファウストじゃね?」大木書生が言った。
「俺こう見えても銃には詳しいから....。」

棍棒の先端の膨らんだ所にはくっきり「Panzerfaust」と書かれていた。

「爆発しなきゃ良いだろ。」

「まあね......。」

「よーし、それじゃあ行こう。」

「了解。」

THE-LAST-ROOM

ピッピッピッ

「発信機はここら辺にあるぞ。」
大木書生達はあの金ピカの美術室に入った。

「すげーな。」キリサメが呟いた。

「ポケット小僧!!何処だ!?」

「ここです、アニキ!!」
部屋の影から黒タイツが飛び出してきた。

「ポケット小僧!よくやった!」

その頃.......

「部下達がボッコボコにやられました!」

「チクショウ、相手はどのくらいだよん?!!」

「大木と5人の機動隊員、大木の仲間3人、後はスケバンとギャルです!!」

「スケバンとギャル?」

「キナリもやられたから、かなりの強敵です!」

「攻撃手段は?銃かよん?」

「いえ、木刀と竹刀です。」

「ああ、大体誰かは分かったよん。カグラとか言うスケバンに剣道を叩き込まれた奴らだよん。」

「だけど、どっちが1番厄介なスケバンか分からないんです。」

「ロン毛で木刀使う奴いるか?」

「いますよ。」

「ソイツがスケバンだよん。」

「あんな天然みたいな性格なのに?!」

「ボブの竹刀使う奴より強いよん。」

「で、弱点は?!」

「無いよん。」

「ええ!!!!!」

「だけど弱点が無いなら、何もしないよりマシだよん。」そう言う二十面相は傍にあったモーゼルピストルを拾った。

その頃.............

「これが二十面相の天守閣か.....。」多四郎が呟いた。

「ただ扉が頑丈すぎるな。」大木書生が答えた。「キリ姉ちゃん。パンツァーファウスト
の出番だよ。」

「あいよ。」

「.............やり方分かる?」

「........分からん。」

「しょうがない。俺がやるよ。」

大木書生はパンツァーファウストを構えると発射グリップを思いっきり押した。

ガチッ!

ボッガーン!!!

頑丈な扉は一瞬で木っ端微塵になった。
するとモウモウと舞う埃の中から人が飛び出して来た。
片手にはモーゼルピストルを持って、もう片方には木刀を持っていた。
呆気に取られている間にソイツは機動隊員を思いっきり木刀で殴った。その威力は隣にいた隊員も一緒に吹き飛ばしてしまった。

「せめて、こんばんわは言おうよ〜。大木くん。」
あの誘惑声だ。

「二十面相!!」
大木書生はコルトガバメントを構えた。

二十面相はバラクラバを被って顔が見えないようにしてあった。また声も曇ったような声だった。

「オット。ワタシの愛銃も今夜は一緒だよん。」そう言うとモーゼルピストルをチラつかせた。

二十面相が得意げに話していると後ろからキリサメが忍び足で近づいた。
不意打ちをしようとしているのだ。
だが、二十面相も馬鹿では無い。
あと一歩の所で二十面相は振り向き、モーゼルピストルを乱射した。

バララララッ!!

咄嗟にキリサメは後ろへ飛び下がったが、腕を弾が深くかすったようだ。悲鳴を上げて、手で腕を押さえながら体勢を崩した。

「さすがシュネールフォイアーだよん。」
二十面相の目は完全に狂人と化していた。

大木書生は改めて人間が追い詰められた時の狂気に恐怖を感じた。

そして二十面相はモーゼルピストルを大木書生の方に向けた。

「それじゃあ.....。」
次の瞬間、ユミカが二十面相の腹を木刀で思いっきり殴った。

バキ!!

あっという間に二十面相の体が壊れた部屋の中に吹っ飛んだ。

「ふざけんなぁ!!!」ユミカが怒鳴った。鼓膜が破れるかと思うほどの怒鳴り声だ。

「お前は、ゴキブリよりも価値もクソも無い奴だ!!!私はね!!そんなクズがほっつき歩いているのが許せねぇんだよ!!!!オメーなんかは人類の恥だ!!」

「........................へー。」二十面相が口を開いた。だが今までの曇った声では無い。ハッキリとした女の子の声だった。

「よく言うよね。ユミカ先輩。」

「何処で私の名前を?!!てかその声は後輩ののクナイだな?」

「クナイではないよん。偽名だよん。」

「クックックッ、そうだよなぁ。千夜さんよ。」
大木書生が一言一言区切るように言った。

「..........................................................フフフ。よく分かったね〜、大木くん。」
二十面相はゆっくり起き上がった。もうバラクラバは付けてなかった。その代わりアザが出来た顔があった。

「だけどブッブー、それも偽名だよん。ワタシの母親が付けた物だよん。」

「オイ、二十面相....じゃねえや。千夜さんよ。今からならやり直せるぜ。」
大木書生が言った。

「へっ、お前らに何が分かる!!地べたを這いずって来たワタシの気持ちを!!!せめて先代の二十面相の夢を叶えようと....。」

「他に縋るものが無いんだな......。俺はその地べたの気持ち、分かるぜ。人間ってのは弱い物でよ。どん底に落ちたら、何とかしたい、何とか出たいっていう気持ちが湧いてくるんだよ。自力で出ようとするんじゃなくてな。
だけどそのどん底を自力で這いずり上がった人もいるんだ。そういう人が1番強いのかもしれないな。だから........。」

黙れ!!親が殺されたのもワタシが子供を産めなくなったのも全部この国のせいだ!!!ハハハハハッ!ワタシは愉快だぞ!!ついに国を敵に回しちまったよん!!
二十面相の感情はぐちゃぐちゃになっていた。

「手を上げろ!!」
また別の方から声がした。見るとSATがMP5を構えながらエレベーターから降りて来た。
「二十面相、もう逃げ場は無いぞ!!」

「へっ、そうかなぁ?」
二十面相は後退りをした。近くの壁に背中をくっつけると....

カタンッ!!

なんと姿が消えたのだ。

「アアッ、しまった!!」
大木書生が二十面相の消えた壁に近づいた。「アイツ、脱出路を作っていたんだ。」

「それじゃあ、追いかけるしか無いな。」

「いや、俺一人でいいよ。二十面相と決着を付けたい。」
そう言うとと大木書生は背中を壁にくっつけて
カタンッと姿を消した。

THE-LAST-MYSTERY

壁の裏には螺旋階段があり、大木書生はそれを駆け足で登った。
向こうからドアが見えて来た。まるで入って下さいという感じに開いている。ドアをくぐると、そこは屋上だった。
その屋上の端に二十面相が、こちら向きに手すりにもたれていた。

「逃げないのか?」

「いやぁ、逃げるつもりだよん。」

「お前にいくつか質問がある。いわゆる種明かしだ。」

「簡単な事だよん。羽柴家からダイヤを盗んだ時は、まず畜光を塗った仮面を付けた部下を使って注目を集中させるんだよん。で、停電を起こして黒タイツで忍び込んで、盗んだよん。木のてっぺんから消えたのは、反対側にあらかじめ付けたワイヤーを伝って消えたんだよん。これはユミカ先輩の家から消えた時も使ったよん。学校の屋上の時は飛び降りたと見せかけて、バンジージャンプ用の縄を使ってすぐ下の教室の窓から滑り込んだよん。あの時は焦ったよん。まさか着替え中に大木くんが飛び込んで来るなんて。」

「ファミレスの時は?」

「従業員は金でまとめたよん。あとは、業者に変装して空調設備に催涙ガスが出るように細工をしたよん。」

「てか、学校の屋上でも聞いたな。支援者は誰なんだ?高一でそんな財産を一人で築けるわけがない。」

「フフフフ、大木くんは鋭いね〜。正解。ワタシはこんな財産を自分では流石に作れないよん。先代の二十面相が残してくれた株券だよん。」

「株券?」

「第二次世界大戦の敗戦後に先代の二十面相は色々な小さな会社の株券をどっさり買ったんだよん。んで、今はその小さな会社が一大企業になっているんよん。だからその株券を売る。そうやって資金を調達しているわけ。まあ日本の銀行に預金するとバレる可能性が上がるから、スイス銀行に預けているよん。あとは外国の株を買ったりしたり、ビットコインを使ったりしているよん。」

「武器は何処製なんだ?」

「武器は大体アメリカ製だよん。金があれば何でもやってくれるからね。」

「トー横キッズは?」

「アイツらにはワタシと同じ道を辿ってほしくないよん。雇っていた奴が犯罪者だと知ったら自立していくと思うよん。そういえば大木くん、何で国宝がニセモノだと分かったの〜?」

「おいおい、美術部長。あれもうちょっと木工用ボンドを乾かした方が良かったぜ。俺は匂いで分かった。」

「へー。さすが大木くん、よく分かったね。
偽物は美術部で作った物だよん。」

「そんぐらい余裕さ。あと俺も最後の謎が残っているんだ。」

「何だよん?」

「お前の名前だ。二十面相。」

二十面相は目を見開いた。

「この.........。」そう言うと今まで手に持っていたモーゼルピストルを大木書生の方に構えた。
だが大木書生はコルトM1911を構えなかった。

「どうした?怖気付いたかよん?」
二十面相が言った。
「撃つぞ!!」

「イヤ、二十面相。お前は俺を撃てない。」

「なにを!!」

「あと、早く名前を言ったほうがいいぜ。そろそろ、話し合いは終わりだ。」

同に物凄い爆音が聞こえた。

バラバラバラバラッ!!

ヘリコプターだ。

「SATだよ。」大木書生が言った。

「クソッ。」二十面相が唸った。
「分かったよん。」

そう言うと二十面相は大木書生の耳に何かを囁いた。

「............なんだ。いい名前じゃないか。」

「ヘッ、ワタシの名前を聞いて褒めてもらったのは初めてだよん。」

次の瞬間、サーチライトがサッと照らされた。SATのヘリコプターからだ。中には一人の隊員がH&K PSG1を構えて、いつでも狙撃できる体制になっていた。

「んじゃ、ワタシはこれで.......。」二十面相が柵にもたれた。

丁度その時、SATの隊員がラペリング降下を始めた。屋上に着地するとMP5を二十面相に向けた。

「またバンジージャンプか?よせよ、下はもう機動隊が制圧したぜ。」

「いや、違うよん。」
二十面相は柵を越えた。もう手を離せば落ちる所だ。

「?」
一同が見守る中、二十面相はパッと手を柵から離した。そして見る間に下へ落ちていった。

「はっ???!!」

だが二十面相はもっとヤバい物を持っていたようだ。
ウィーンと電動の音がしたかと思うと、二十面相が浮き上がって来たのだ。手には植木鉢のような物をはめている。

「どうかなぁ。大木くん!!」二十面相がバカにしたように言った。

「これはイギリスで開発されたジェットスーツだよん!!」

「お高いんだろ?!!」

「グッ.........。まあ大木くんもSATさんもここまでは追いかけて来れないよん。それじゃ、あばよ。」

そう言うと二十面相は飛び去ろうとした。

「そうはさせないぜ!」そう叫ぶと大木書生はあのリュックの紐を引っ張った。

バシッ!!!

リュックの表面が鉄板みたいに吹き飛び、中からはプロペラのような物が展開した。
そのプロペラが回り始めると、大木書生はあっという間に宙に浮いた。そして二十面相の目の前に立ちはだかった。空中でだ。

「それは何だよん!?」二十面相は混乱しているようだ。目を見開いて大木書生を見つめていた。

「クックック、開発者の孫が知らないんじゃ困るな。これはフランス人が第二時世界大戦の前に作って初飛行したバックパックヘリコプターだよ。結局、フランス軍は興味を持たなかったけどね。これは先代の二十面相が作ったカムフラージュ用のヤツだ。」

「クソッ。用意周到にも程があるよん、大木くん。だったら捕まえてみな!!」
二十面相はグーンッと急降下を始めた。

「ヘッ!!馬力はこっちの方がいいぜ!!」
大木書生も後に続いた。

全く奇妙な光景だ。二人の高校生が空中で追いかけっこをしているのだ。
下の警官や野次馬達はポカーンと呆気に取られていた。

「よし、追いついた!!」大木書生が叫んだ。

「そうはさせるか!!」
二十面相はUターンをするとモーゼルを発射した。

だが大木書生は素早く避けた。そして何やら銃を取り出した。コルトM1911ではない別の銃だ。
「そういやあ、お前言っていたな。」
大木書生が言った。
「このモデルガン、俺にくれるとかな。だけど.....。」
そう言うとモデルガンを振り上げた。その手には学校の屋上で受け取ったトカレフが握られていた。
「返すぜ!!!」
次の瞬間、大木書生はトカレフを二十面相の方にぶん投げた。
モデルガンは中をまい、見事にジェットスーツの吸引口に入った。

グガッ!!ギギ!!

変な音がしたかと思うと二十面相が浮くのをやめ、物凄いスピードで落ち始めた。
「ひゃーー!!!」二十面相が叫んだ。

大木書生は二十面相の下へ急降下をすると、二十面相をキャッチした。

だがバックパックヘリコプターも二人の重さには、耐え切れ無かったようだ。
ガクンッと出力が落ちた。

そのまま二人はもつれ合って下へ落ちた。
幸運な事に落ちた先は垣根だった。

バキボキバキ!

「おい、二十面相。」大木書生が言った。
二十面相は隣でぐったりしていた。

「真似してもバレているぞ。」

「フフフフッ、大木くんは見破る能力がすごいよん。」二十面相は微笑んだ。

「へへ、簡単だよ。お前は簡単に挫けないからな。」

「よく分かるじゃん。」

「同じような修羅場を潜り抜けた者同士だから気持ちはわかるぜ。」

「フフフッ。」

「へへへッ。」

そして二人は垣根の上に横になったままボーッと夜空を見つめた。

「月が綺麗だね.......」
大木書生が呟いた。

「そうだね..........」
二十面相もボソリと言った。

ちょうどその時、遠くからパトカーのサイレンが聞こえて来た。

その後

「ありがとうございました。」
大木書生が言った。彼は今はコンビニのバイトに復帰していた。
人がまばらな日だった。
二十面相は施設に入れられ、上手くやっているらしい。

「すいません。コレいくらですか?」
突然何処からか現れたか知らないが、女子高生が弁当を片手に大木書生に声をかけた。

「これは税込で五百円.......。」

話し始めると女子高生は、封筒を渡して来た。

大木書生は封筒を開けて中の紙に目を通した。紙を読んだ途端、大木書生の目は見開いた。
そして視線を戻すと、そこにはもう女子高生の姿も弁当もなく、ただ五百円玉が転がっているだけだった。

「ヘッ、やるじゃねえか。」
大木書生はニヤリと笑った。
「怪人二十面相。」

終わり
モデルになってくれた皆様ありがとうございました!!

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