見出し画像

地域を知り自分を見つめる、そして地域活性へ繋がる

1,はじめに

 自分のルーツが何なのか、知りたくなる。わたしは早坂悠芽という人間で、社会の一員として生きていて、生きている限りそうあらざるを得ない。わたしが今、ここで息をしているためにつながってきた「これまで」を突き詰めていくと、そこにはいったい何があるのか。それを探すための具体的なアプローチを、まちづくりとしてみる。

 まちづくり。その地域のことを知ろうとすること、特徴を見つけること、魅了されること、課題と向き合うこと、改善のために実践すること。そして地域をアップデートすること。

「自分のルーツを地域から考えてみる」

 そんな思いをもって、埼玉県小川町に赴いた。

 今回わたしは日本青年館が主催する「全国まちづくり若者サミット2023」で登壇した「小川町若者未来会議」を取材した。町は埼玉県のやや西側に位置し、その歴史や街並みから「武蔵の小京都」と呼ばれている。この地で伝承されている「細川紙」は国の重要無形文化財に指定されており、和紙の町としても全国に名を馳せる。
 「小川町若者未来会議」とは、正式には「小川町まち・ひと・しごと創生総合戦略若者未来会議」といい、小川町に関わりを持つ若者が、地域での身近な課題を考え、解決に向けた取り組みを行なっていく組織。若者未来会議のメンバーは小川町に縁のある高校生・大学生・社会人などの若者世代から、町外出身者も含め構成されている。
 若者未来会議では町の探索や施設の訪問、見学先の講師から話を伺う研修会を通して小川町の課題を出し合い、目標を話し合って、地域活性化に繋がる取り組みを企画・実行する。今期は町民も巻き込む謎解きとまちあるきイベントの開催に向け、鋭意準備中だ。

第3期若者未来会議メンバー
 飯島 愛花さん 高校2年生 小川高校グローカルメディア研究部員
 鎌田虎太郎さん 大学4年生 地理専攻:町家の分布研究
 宮岡 良駄さん 25歳社会人 小川町出身
 宮川  韻さん 大学3年生 観光学部:都市計画
 茂木 彩花さん 大学3年生 卒論:環境思想
 吉田瀬里菜さん 大学3年生 研究:まちづくり 小川町出身
事務局の方
 木谷 海斗さん 第2期若者未来会議メンバー、現在は地域おこし協力隊として、若者未来会議の運営、「小川町情報スモリバ」の編集・運営。KIWI architectsとしても活動中
 高野 旨央さん 小川町役場 政策推進課
 森下 文乃さん 小川町役場 政策推進課
(それぞれ五十音順)
聞き手 
 早坂悠芽 日本青年館学生記者

まちを歩く まちを知る

2,まちづくりに志は必要か

 若者たちはどのようなきっかけで「若者未来会議」に参加しているのだろうか。吉田さんは小川町出身だが、自身は町のことをあまり知らないと思っていたそうだ。吉田さんは、そんな状態でもいいか不安のあるなか、参加へと踏み切った。
 同じく小川町出身の宮岡さんは、やりたいことが具体的にあった訳ではなく、漠然と何かやってみたくて参加したそうだ。わたしは「まちづくりに関わる=具体的な目的がある」と思い込んでいたので驚いた。他メンバーも同様に漠然とではあるが、何かをやってみたい気持ちで応募していた。高校の部活顧問から紹介された飯島さん、大学のゼミでのフィールドが小川町だった宮川さん、自分の興味関心である有機農業から辿り着いた茂木さん、それぞれである。
 鎌田さんは、小川町が好きで好きでこの会議に参加していた。若者未来会議の募集が終わっていてもインスタグラムで連絡を取り、活動に参加するほどで、言葉ひとつひとつが小川町への愛に溢れていた。素晴らしい自然、武蔵の小京都とも呼ばれる町家の景観、豊かな食文化、いつ来ても温かいひと、そんな魅力に憑りつかれ、いつか小川町に住みたいと考えているそうだ。
 全員に共通していたのは小川町をもっと知りたい、関わりたいという感情。何かしらの強い志ではなく、偶然のきっかけで居た。そこに、まちづくりへの穏やかな姿勢を見た。

旧下里分校近く

3,「変化」を通じて自分を見つめる

 若者未来会議のメンバーは、住む場所も年齢も異なる。もちろん興味関心や思考も違う。コロナ禍でリモートワークが一気に進み、見知らぬ土地で暮らすハードルは以前よりも低くなった。これまでは想像もしなかった、縁もゆかりもないひとびとと関わる機会が増えることで、自分はどのように「在る」のだろうか。そして若者未来会議の皆さんは、活動を通して何か「変化」したのだろうか。
 
吉田さん「地元の飲食店でバイトしていて、お客様と話すことが多く、小川町って面白いのかもしれないと思いました。それをきっかけに参加し、若者未来会議のメンバーや見学先の方など話す機会が増えたんです。以前は話すのが苦手で、ひととあまり関わっていなかったように思います。でも、ひとと話すのが好きなのかもしれないなって。 

宮川さん「好きなことや知りたいことに関して積極的になれることに気づきました。小川町で言えば、住んでいるひとや景観。町のひとと関わったり、電車の来る時間まで散歩したりしました。」
飯島さん「何かやるのが好き、それは変わらないなと思います。大変だと感じながらも、ひとのためになったら良いなと思ってやってきました。そうしていたら、得意なこと、不得意なことが見えてきました。わたしの持ち味は行動力です」

茂木さん「変わらないこと……。何かやりたいと思ったら、自分のなかで考えて考えて、慎重に動きます。それは変わりません。でも行動に移すスピードは速くなったかも。やりたいと思ったことはやろう、そんな意識を持つようになりました」
 
 見知らぬ「ヒト」「モノ」「コト」との出会い、自身の新たな一面や変わらない自分に気づく。若者未来会議の皆さんは、新たに自覚した自分と、やはり変わらない自分に向き合っている。大なり小なり、変化は起こる。変化だらけの世界でそれを自覚するか、そして変わらない自分の要素を見出せるか。その過程にあるのは、ひととの対話なのかもしれない。

活動中の様子

4,対話で地域を知り、自分を受容する

 若者未来会議では、どのような対話が行われているのだろうか。
宮岡さん「ひとと集まって話をして何かを決める。そういうプロセスというか、経験に意義があると思いました」
宮岡さんは続ける。
「いろんなひとの話を聞いて、小川町を良くするために何を考えるか、目的を成し遂げるにはどうするか。こういうことを考えます。様々な意見はありますが、最適なものは何か、いろんなアイデアをいかに削ぎ落さず組み込むか。みんなの考えが反映されるよう心がけています」 
 今期の若者未来会議が向き合う課題は、「町民が町についてよく知らないこと」。目指すことは、「町民が町をもっと知って好きになること」。そうした団体として共有した目的を達成するために対話が行われている。
 大学の同じ学部には似た考えのひとが集まる傾向にあるが、若者未来会議はそうではないと茂木さんは語っている。そんなメンバーの考えをどうにか汲み取ろうとする宮岡さんの姿勢から、ひとりひとりの気持ちや感情を尊重していることを感じる。
 団体活動における対話は気持ちを汲み取るだけでは不十分だ。鎌田さんはこう語る。
「活動を進めるうえで、自分のアイデアだけでは足りません。ひとつのことを企画していく中で、自分だけでなく他のメンバーのアイデアを聞きます。そしてまた考えていきます。その繰り返しで、企画をブラッシュアップしています」
 対話から新たなヒントやアイデアを拾う。具体的な企画につながっていくことは結束力や達成感につながっていくことだろう。
 共有する目的のために、誰かと一緒に展開を広げようとする対話によって、さらに町への理解を深める。活動したての頃の吉田さんは、意見を発言しなければと緊張していたそうだが、最近は気負わず意見などを言えるようになったようだ。そう語る姿を見て、きっと嬉しい収穫なのだと思う。自分が慎重派なのは変わらないと言った茂木さんは、そのことを受け容れているように見えた。自ら動かないと得ることは少ないと体感していた宮川さんは、多忙に思えて疲れる日もあるかもしれないが、好奇心を原動力に乗り越えるに違いない。
  自分の性質を知るとは、自分の選択肢、装備が増えることではないか。つまりこの環境で自分ができること・ひとの力になること、できないこと・ひとを頼ること、或いはそれらに分類できないあいまいなこと、これらを淡々と素直に受け容れることだ。
 
「育った環境のせいか、ひとと話すのが好きです。反面、頭で考えるような難しいことが苦手なので、それはひとに任せます。わたしは、周りを見て自分の強みを生かす」
 若者未来会議では考えることが多く難しいと口にした飯島さんだが、自身で得意・不得意な分野を見極め、長所を生かすといった気概を感じた。

栃本親水公園近く、槻川の橋上

5,思いもよらぬことがまちづくりに繋がる

 鎌田さんの地域との関わり方を参考にする。
「お店に行ったら話しかける、フリーマーケットに古着を出品するなど、地域と関わることをどんどんやっているかもしれません。でも、特別何かを意識しているわけではない。向上心でもないですね。やりたいと思ってやっている、自分が楽しいからやっている」
 
 鎌田さんは、町のひととの関わりを向上心抜きで純粋に楽しんでいる。何てことない会話さえ、まちづくりや地域の活性化に繋がるのだろう。
 
 初めに戻る。まちづくりという手段で、地域から自分のルーツを辿る。地域を知ろうとする過程で、歴史的・地理的・文化的側面から地域を視ることができる。また地域のために他者との対話が生まれて自己理解へつながる。もしかすると自分の出生地でもない、住んだこともない、何故か偶然に繋がった地域だとしても、自分のルーツを辿れるのかもしれない。
 
 若者未来会議では、対話の場を生むことを通して、まちづくりに取り組んでいる。それは、メンバー同士の気遣い、普段の会話を蔑ろにしない態度、事務局の方たちの働きかけによる賜物であるとわたしは思う。小川町の風景と出会えたこと、新しい視点をもって関われたことをうれしく思う。
  
記事関連URL
小川町HP/若者未来会議
https://www.town.ogawa.saitama.jp/0000004738.html

若者未来会議Instagram
https://www.instagram.com/wakamono_mirai_kaigi/

この記事を書いた人:
早坂 悠芽(はやさか ゆめ):山形県天童市出身、東京都在住。好きなことはしゃぼん玉。地域との関わり方を考え中。将来は多拠点で生活したいと思っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?