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【ジャーナル】職場風土と労働者の援助希求行動/山内・島崎・須賀(2023)

本日のジャーナルは、職場風土の醸成を考える中で出会った

『職場風土と労働者の援助希求行動』山内貴史・島崎崇史・須賀万智

産業医学ジャーナル 46巻(2023)3号 pp.77-81

をまとめます。

援助希求行動とは?

援助希求行動(help-seeking behavior)とは、「自分の置かれた困難な状況や問題を改善・解決するために他者からの援助を求める行動」と定義されています。
つまり、『助けて!』と他者にSOSを出すことですね。
でも実際は、なかなか人に頼れなかったり、『助けて!』と言えない人も多いのではないでしょうか。
援助希求行動を促進するためには、『助けて!』と言えない人を変えようとするより、援助希求をしやすい(サポート資源にアクセスしやすい)環境を整える方が効果的であるとされているそうです。
今回のジャーナルでは、援助希求行動を促進しうる要因として、職場の「協働的風土」に着目し、「治療と仕事の両立支援」の申出との関連について、中小企業の労働者を対象とした一連の研究を行っています。
その結果、協働的風土などの職場環境要因が、産業保健スタッフの有無など、他の職場関連要因とは独立して両立支援の申出に強く影響する可能性が示唆されました
職場風土は多義的な概念であり、協働性意外にも、経営層や管理職のリーダーシップのあり方、企業全体としての価値観、多様性への寛大さといった様々な要素が包含されるとジャーナルにも記載はありますが、
今回のジャーナルを読むことによって、援助希求行動を促進する職場風土づくりが、「治療」だけでなく「育児」や「介護」などと仕事の両立への応用に活用できることが期待できます。

業種・職種別にみた職場風土と援助希求行動

医療従事者

Zamanらによって行われた医師を中心とする医療専門職におけるフォーマルな援助希求行動としてメンタルヘルス間れの受領行動の阻害要因および促進要因について明らかにするため、既報文献のシステマティックレビュー並びに英国国民保健サービス(British National Health Service, NHS)の医師に対する面接調査では、秘密保持に関する懸念、多忙による時間のなさ、精神疾患に対する偏見・スティグマ、自身へのキャリアへの悪影響など9つの援助希求行動の阻害要因とともに、促進要因の一つに職場風土(workplace culture)について指摘しています。
そこでは開放的な組織風土(open culture)の重要性が浮かび上がり、メンタルヘルスに関してのオープンな会話や、上司や先輩医師との頻繁なコミュニケーション、上職からの助言を得やすい環境などが含まれたそう。
ここからわかることは、オープンな組織風土が援助希求行動が促進され、そこにはサポーティブな上司や先輩の存在が重要であるということです。
管理職、上司、先輩などの在り方が組織風土に大きく影響をしていることが感じられますね。(上司のあなた、この結果に”ドキっ!”としますね。)

教員

Hashimotoらによって行われた、日本の小学校〜高校の教員を対象とした同僚の教員間の平等で協働的な職場風土(collegial organizational climate)および教員個人の援助希求志向性(help-seeking preference)と燃え尽き症候群との関連に関する調査では、援助希求志向性が高い者および職場に協調的な職場風土があると報告した者において燃え尽き症候群が有意に少なかったことがわかりました。さらに、援助希求志向性と協調的な職場風土との間に交互作用傾向が認められたそうです。
職員間の良好で協調的な職場風土を醸成することは生徒・教員の双方にとってメリットがあるのみならず、教員個人の援助希求行動を促進しうると考察しています。
一方で、著者らは集団主義(collectivism)の傾向が強い日本での職場で平等で協調的な職場風土を醸成するための具体的な方法を提言することの難しさも指摘しています。
この研究から、客室乗務員に変えて理解してみると、フラットな職場で良好な職場の人間関係であれば、チームメンバーにもお客様にもメリットがあって(燃え尽き症候群になりにくい)、「助けて」を言いやすい職場になるけれど、
縦割りの役割や役職がある中で、チームや組織でフラットに関係を築くための施策の提案は、浸透も難しいし、反発も起きそうな気もします・・・(この意見が言えない感じすら、もはやフラットではないのでしょう。笑)

警察官

Richardらによって行われた、刑務官・矯正官、税関、国境警備などに従事するものを除いたカナダおよび米国の警察官がメンタルヘルス関連の救助希求(心理療法や専門的サポートの利用など)を行ううえで障壁となっている要因を探索するためのスコーピングレビューでは、警察特有の男性的な職場風土(masculinity culture)(「強くあらねばならない」など)は援助希求行動を抑制する方向に作用するが、インクルーシブでサポーティブな風土や、弱さを許容しメンタルヘルス関連の問題について遠慮なく率直な対話ができる風土はメンタルヘルス関連の援助希求行動に対する同僚警察官からの偏見のみならず、本人のセルフスティグマや専門的治療に対するネガティブな信念をも軽減させることがわかりました。
Richardらは、組織としてメンタスヘルス関連のサポート体制を有しているだけでは、警察官の援助希求行動の促進にはつながらず、援助希求をしやすいようなサポーティブな風土が警察官のサービス利用の意思決定を促すことを指摘しています。
ということは・・・
ただ支援体制を作ったとて、「助けて!」は言えないわけですね。
「助けて!」と言いやすい職場風土とセットでなければ、意味がない。
これは組織開発をする上で重要なポイントと言えそうです。

感想

私は肝心なところで「助けて!」が言えないタイプなんですけれど(突然の自己開示。笑)、
「助けて!」が言える環境を自ら作る、言える環境に自ら行く、
ということも大事になってくるのかなと思いました。
反対に、自分が誰かの援助希求を引き出せる存在になることもできるのだとも感じます。
世の中、「助けて!」が言い出せない人の方が多いと思いますし(みんな責任感強いしね!すごい!えらい!)、
そんな環境を作る視点を一人一人が持つと、組織も大きく変わるかもしれません。
環境って大事ですね。

今日はこの辺で^^

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