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田村市政の深過ぎる闇

本田市長と受注業者の親密関係


 田村市の本田仁一市長(58)に複数の疑惑が同時浮上した。疑惑の背景には、本田氏の〝偏った政治手法〟が見え隠れする。この4年間、本田氏はどのような市政運営を行ってきたのか。取材から見えてきた「本田市政の深過ぎる闇」を浮き彫りにする。

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本田仁一市長

 発端は、朝日新聞が昨年10月19日付の社会面に《福島・田村市 18~19年度の除染事業受注16社 1・6億円 市に匿名寄付》という記事を掲載したことだった。

 匿名寄付問題はそれ以前から市議会で質問されてきたが、大きな注目を集めてこなかった。朝日新聞の報道を機に他のマスコミが追随し、多くの市民が知るところとなった。

 匿名寄付とは何か。

 原発事故後、市内では市発注の除染事業が行われてきたが、その中に除染廃棄物を仮置き場から積み込み場まで輸送する「端末輸送」という事業があった。端末輸送は2016年度から20年10月までに96件発注され、事業費は総額70億円に上った。

 この端末輸送を受注した市内の16社が、2018~19年度に少なくとも計1億6800万円を市に匿名寄付していたことが判明した。

 寄付自体は何ら悪いことではないが、問題はその経緯だ。

 別表①は16社の▽端末輸送を落札した金額▽落札率▽寄付金額▽落札金額に対する寄付金額の割合を示したものだ。それを見ると寄付金額は最も低い業者で50万円、最も高い業者で2500万円となっている。落札率が軒並み95%以上という点も目に付く。一方、落札金額に対する寄付金額の割合は10%以上と高い業者もいれば、1%前後と低い業者もおり、二分されている印象だ。

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 16社はなぜ寄付をしたのか。ある建設会社社長はこう証言する。

 「富士工業の社長に言われて来たという業者から突然『落札金額の5%を市に寄付してほしい』と求められた。市の指定金融機関の振込用紙を渡され『ここに振り込んでほしい』って」

 寄付は本来善意で行うもので、他者から強要される筋合いはない。しかし、頭ごなしに5%と言われ、この社長は強く反発したという。

 「落札はしたが、まだお金は入っておらず、決算も終わっていなかったので『いきなり言われても払えない』と最初は断わりました」(同)

 しかし、後になって「もし寄付しなかったら市にランクを下げられるかもしれない」と考えた社長は、親しい建設会社社長と相談して×万円(※編集部注=金額を明記すると会社が特定されてしまうので伏せ字とします)だけ寄付したという。

 「借金をすべて返して、残ったお金から寄付した。だから、寄付を迫られてから実際に寄付するまでには半年以上かかったと思う」(同)

 社長の証言から、寄付は積極的に行ったのではなく、仕方なく応じた様子がうかがえる。

 別の建設会社役員も「本音は払いたくないが、やむを得なかった」と吐露する。

 「富士工業と西向建設工業の圧が凄いからね。もし寄付しなかったら干されるかもしれない。こんな狭い地域で食っていくには、上の言うことに従うしかない」

 前の社長も口にした富士工業(田村市滝根町、1972年設立、猪狩恭典社長)、そして西向建設工業(同市常葉町、1980年設立、石井國仲社長)は、猪狩氏が田村市復興事業組合の組合長を務め、石井氏は本田仁一市長の後援会長(※編集部注=昨年11月に辞めているが、その理由は後述する)という立場にある。

 実は、この取材を通じて必ず名前が挙がっていたのが富士工業と西向建設工業だった。

 再び、前出・社長が証言する。

 「あるとき、市内の業者が集められ、本田市長の市政報告会が開かれたが、その後の懇親会で酒に酔った石井氏から『本田市長を応援するなら市の指名に入れてやる』と言われたんです。その後も『市の仕事でだいぶ儲けてるんだろ』という口ぶりであれこれ言われ、不愉快だった」

 社長は後日、本田氏に会った際に石井氏の言動を強く抗議したが、本田氏は黙って聞いているだけだったという。

 前出・建設会社役員もこんな経験をしていた。

 「4年前の市長選でウチは冨塚宥氏を支持したが、勝ったのは本田氏だった(投票結果は別掲の通り)。すると、本田氏を支持した業者から『冨塚氏をやった業者には仕事を回さない』と言われたんです。そのときは半信半疑だったが、蓋を開けたら本当に干されて……。当時は仕事が少なく、おかげで会社は潰れかけた。その後、少しは仕事を取れるようになったが、そういう苦い経験をしているため、匿名寄付も従わざるを得なかった」

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 本田氏を支持した業者とは、西向建設工業を指す。

 この役員のように、前回の市長選で冨塚氏を支持した業者は軒並み本田氏から干されている。市内の事情通が解説する。

 「社名は伏せますが、冨塚市長時代はかなり市の仕事を取っていた業者たちが、本田市長に代わった途端取れなくなった。そんな状況が1年も続くと、業者たちはとうとうギブアップし、本田氏サイドから要求された『仕事が欲しければ本田後援会に入れ』『自民党に〇人入党させろ』という条件をのんだのです」

 冨塚氏は玄葉光一郎衆院議員と親しい関係にあり、その流れを受けて冨塚氏を支持した業者は野党支持が多かったが、本田氏が市長に就任すると、会社を守るため仕方なく自民党に入党したケースがかなり散見されたという。

市発注工事を仕切る!?


 本誌は2018年8月号に「田村市の公共事業を仕切る!?〝市長派業者〟の評判」という記事を掲載しているが、このとき取り上げたのも富士工業と西向建設工業だった。

 同記事はこう書いている。

 《「応札する業者間で調整しているかどうかは、私は蚊帳の外なので分かりません。ただ、西向―富士から『(A社やB社が受注するのは)本田市長の意向だ』と言われれば、本当に市長の意向かどうかはともかく、それに反して横取りする勇気を持った業者は皆無だと思います」(※編集部注=コメントしているのは市内の老舗業者)

 別の業者もこう証言する。

 「受注できるのは、市長選で本田市長を支援した業者が中心です。また、本田市長が元自民党県議で、野党の玄葉光一郎衆院議員に強い対抗心を抱いていることから『自民党員じゃないと市の仕事をもらえない』という暗黙のルールもあります。私の知人にも、本田市長に要望を聞いてもらうため同党員になろうか迷っている人がいます(苦笑)」》

 同記事では猪狩氏と石井氏にコメントを求めているが、両氏とも疑惑を否定している。

 しかし、某業者は「絶対匿名」を条件に、猪狩氏から露骨なアプローチがあったと暴露する。

 「数百万円の市の入札に参加した際、猪狩氏から突然電話があり『その工事は××社が取ることになっているので、あなたは〇円で応札してくれ』と言われたのです」

 そういう電話を何度か受けているうちに、某業者は「こんなやり方は許せない」と猪狩氏との会話を音声レコーダーに録音。さらに、猪狩氏から渡された名刺も大切に保管していた。名刺には、手書きの数字が書き入れられていた。

 「この数字で札を入れろという直接の指示です」(同)

 某業者は身の安全を守るため、音声レコーダーと名刺をいつでも公表できるよう準備している。言い換えれば、そうした〝防衛策〟を講じなければならないくらい、上からの圧が強いということだ。

 田村市特有と言っていい、こんなエピソードもある。

 年明け早々に各地で開かれる新春交歓会。田村市で開かれている同会も毎年、市幹部、国会議員、市議をはじめ、各種団体の長や商工業者など300人余が出席するが、この中に〝特別枠〟のような形で出席している一団がある。

 「主催者の市が商工業者らに出席を募るのとは別に、石井氏が本田後援会として後援者に出席を呼び掛けているのです」(前出・事情通)

 昨年1月5日に開かれた新春交歓会の名簿を見ると、それとおぼしき出席者が49人も確認できた。

 本誌は毎年、福島市と郡山市の新春交歓会に出席しているが、主催者の市・商工会議所を差し置いて、木幡浩・福島市長と品川萬里・郡山市長の後援会が出席者を募っているという話は聞いたことがない。

富士と西向の受注実績


 なぜ、富士工業と西向建設工業はこれほどの力を持つのか。前出の事情通はこのように話す。

 「本田氏は旧常葉町議―田村市議―県議を経て市長に就いたが、石井氏はずっと本田氏の選挙を支えており、自分が一番の支持者という自負があるので『オレの言葉は本田市長が言っているのと同じ』との態度を改めようとしないんです。ただ、石井氏は裏から差配するタイプで、前面には猪狩氏が立たされている。だから、批判の矛先は猪狩氏に向きがちだが、実際は、猪狩氏の言動には石井氏の意向が反映されている」

 そんな両社が、本田市長が就任して以降、市発注の土木、建築、除染事業をどれくらい受注しているか、市公表の入札結果をもとに調べてみた(別表②

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 市全体の工事件数、落札金額に比して、西向建設工業は件数、落札金額とも高くない。ただ、常葉体育館耐震改修・大規模改修建築主体工事(2017年5月入札、落札金額1億6350万円)、常葉幼稚園改修工事(2020年7月入札、同1億2500万円)など、地元である旧常葉町の大きな物件は同社が軒並み受注する傾向にある。

 一方、富士工業の落札金額は市全体と比してかなり高い。2017年度と2019年度は全体の約2割、2020年度に至っては5割以上を占めている。

 富士工業の受注で目立つのは田村市東部産業団地に絡む工事だ。具体的には地中埋設物撤去工事(2020年2月入札、落札金額3億3000万円)、造成工事(同年8月入札、同41億8000万円=三和工業とのJV)。

 ちなみに同団地に絡む工事は西向建設工業も7工区立木伐採工事(2019年8月入札、同3400万円)、街区2号線道路改良工事(同年11月入札、同2億3670万円=矢部工業とのJV)、1工区調整池設置工事(同年同月入札、同2億4650万円=同)を受注している。

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答弁を避けた本田市長

 そんな両社が主導したとされる今回の匿名寄付問題。朝日新聞の報道を皮切りに多くのマスコミが取り上げたこともあり、昨年12月定例会の代表・一般質問ではこの問題を取り上げる議員が相次いだ。

 「除染事業の予算は国の補助金でまかなわれている。それが受注業者から寄付として市に戻されるのは、国のお金が市に〝還流〟しているのと同じだ」(ある市議)

 ところが、本田氏は議員からの質問に一切答えず、代わって柳田啓子総務部長が

 「業者に寄付を促す行為は、市では関知していない」

 「落札金額の5%についても、市では関知していない」

 「(100万円以上の寄付はその妥当性について)市寄付採納事務取扱規程に基づく審査会での審査を経ており、問題ない」

 と繰り返すのみだった。

 問題ないというなら、市が知り得る情報は公開するのがスジだ。ところが市は、16社の社名と各社の寄付金額を「業者の意向で匿名にしている」として公表しておらず、マスコミが情報公開請求しても「黒塗り」で開示。また、多額の匿名寄付が相次いで寄せられたことに対し、審査会でどのような議論が行われたか市議から質問されても「議事録が存在しない」と明言を避けている。

 「本田市長とつながりの深い富士工業と西向建設工業が関与しているのだから『寄付は誰による要請か』との質問は本田市長が答弁するのがスジ。それを柳田総務部長にすべて答弁させるなんて、不誠実極まりない」(前出・市議)

 ただ、本田氏は12月定例会より前の11月20日に会見を開いており、

 「寄付は業者がそれぞれ判断したと思う」

 「業者間の働き掛けで今回の寄付が行われたという事実は、市では把握していない」

 と自身の関与を否定した。

 富士工業と西向建設工業を擁護する業者も、こんな釈明をする。

 「市内の業者でつくる田村市復興事業組合は、市から除染事業を受注し、それを組合員に下請けさせてきたが、その際、組合員は管理費として受注金額の5%を同組合に収めていた。匿名寄付の5%は、これを根拠にしているのです」

 匿名寄付の理由も、単純に「除染事業で市に世話になった御礼」の意味合いに過ぎないという。

 「市外の除染組合も、大なり小なり地元自治体に寄付していると聞いて『だったら、われわれも寄付しよう』と決めただけなんです。市や本田市長に迷惑をかけるつもりはサラサラなかった」(同)

 しかし、本来は除染事業に使われるべき国の補助金が市に〝還流〟していたとなれば、会計検査院が検査した場合、問題視される可能性は大いにある。

 実は、今回の匿名寄付とは別に未遂に終わった寄付問題がある。舞台は前述・田村市復興事業組合だ。

 昨年8月に開かれた同組合の臨時総会で、事前の通知にはなかった組合の解散と、残余財産を全額市に寄付する議案が突然提出され、24対1の賛成多数で議決された。

 唯一反対したのは、田村市船引町移地区を除染するため地元住民で立ち上げた団体「移再生プロジェクトチーム」だった。同チーム関係者によると、昨年8月時点で同チームが同組合から受け取るべきお金が清算されておらず、未清算で組合を解散することは認められないというのが反対理由だった。

 一方、残余財産の全額寄付にも強く反対した。残余財産は約2800万円あったが、同組合の規約には

 《本組合が解散した場合の残余財産の分配については、第26条の規定(決算の結果、利益を生じた場合には、その利益の1割については組合員に平等に分配し、その余の9割については各組合員の受注額の割合に応じて分配する)を準用する》(第30条)

 とあることから、市への寄付は規約違反に当たると主張したのだ。

 その後、同チームの訴えは一部受け入れられ、規約に基づき残余財産の分配等を決めるための清算人を選出するなど、必要な作業が進められているという。

 「きちんと規約があるのに、それを無視して市への寄付を決めるのは横暴だ」(同チーム関係者)

 前述の通り、同組合長は富士工業の猪狩社長。業者に5%の寄付を迫るだけでなく、同組合の残余財産まで寄付しようとするのは、市(本田氏)に相当の〝借り〟があるのではないかと疑われても仕方あるまい。

本田市長の林業会社

 匿名寄付問題ばかり注目が集まっているが、今後関心を集めそうなのが前述した田村市東部産業団地をめぐる疑惑だという。

 同団地は震災復興のための雇用対策として、県内でも数少ない大規模区画の企業用地を造成するもので、常葉町山根地区の国道288号沿いに整備が進められている。開発面積は42㌶、用地は2区画で計21㌶。事業費107億3800万円は福島再生加速化交付金と震災復興特別交付税から捻出されている。

 現地を訪れると、丘がいくつも連なった場所で、そこに生えていた木を伐採した跡が見て取れる。産業団地として使うには丘を削って整地するなど、かなり労力が要りそうだ。

田村市東部産業団地

旧常葉町で整備が進められる東部産業団地

 正直、他に適地があるのではないかと思ってしまうが、浜通りと県中地区の中間に当たる旧常葉町が最適と判断された。ただ、市内では「本田市長の地元だから選ばれただけ」とうがった見方をする人が少なくない。詳細は割愛するが、背景には本田氏が何かと旧常葉町を優遇するため、滝根・大越・都路・船引の旧4町村民が不満を抱いているという事情がある。

 そんな同団地をめぐっては、富士工業が三和工業とのJVで41億8000万円の造成工事を受注したことは前述したが、それに先立つ2019年8月に発注された立木伐採工事が何やらきな臭いのだ。

 市公表の入札結果によると、立木伐採工事は10工区に分けられ、市内の10社が受注しているが、「わざわざ10工区に分けて発注する必要があったのか」「受注した業者は土木工事が専門で、森林伐採は専門外だ」という疑念から、

 「市は10工区に分けることで、多くの業者が受注できるよう配慮したのではないか」(前出・事情通)

 と囁かれていた。実は、受注業者の裏には本田氏と関係の深い会社が存在する。

 クライス(田村市船引町船引字臂曲41―1)という会社がある。1999年設立。資本金1000万円。事業内容は石油販売、一般・産業廃棄物の収集運搬、山林立木の売買・植林・伐採・製材・加工など。

 役員は、代表取締役・菅野誠、取締役・本田譲治、本田龍治、大和田和浩の各氏。

 同社の旧商号は本田商店で、本店は田村市常葉町西向字97―1に置いていた。当時の社長は本田三八子氏で、2014年にクライスに商号変更後も取締役を務めていたが、2018年に辞任した。石井三紀子という取締役もいたが、同氏も2020年に辞任した。

 勘の良い方はお分かりだろう。本田三八子氏は本田氏の妻、石井三紀子氏は石井國仲氏の妻で西向建設工業取締役。本田譲治氏と龍治氏は本田氏の息子。本田商店の本店所在地は本田氏の自宅だ。

 まだある。クライスの菅野誠社長の妻・知子氏は政治団体「本田仁一連合後援会」の事務担当者。同社の本店が置かれている船引町船引字臂41―1は、本田氏の個人事務所と同じ住所だ。

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 説明が長くなったが、要するにクライスは「本田氏の会社」と言っていい。その同社が、前述した立木伐採工事の下請けに入っているのだ。
 「厳密に言うと、受注した10社が田村森林組合(田村市常葉町)に下請けに出し、そのうちの半分が同組合からクライスに下請けに出されている、と」(前出・事情通)

 10社と田村森林組合を〝隠れ蓑〟に、クライスが市発注の公共工事を(間接的に)受注する構図は、本田氏自らが自分の会社に仕事を回したことと同じではないのか。

 ただ「この問題は林業の厳しい事情と無関係ではない」と冷静な視点で話す人もいる。

 「田村地方に民間の林業事業者はクライスと個人事業主が一人いるだけ。いま、林業は全くもうからない。山に〝投資〟しても損するだけです。それくらい林業で飯を食っていくのは難しいが、逆に競争相手がいないため仕事量は確保できる。そういう意味ではクライスは目のつけ所がいいが、半面、技術力に乏しいので、林業を支えるためには(クライスを)育てていく必要があるのです」(某森林組合関係者)

 他地域では、林業の仕事を土木会社が請け負うケースも見られるが、技術力がないため発注者を満足させる仕事ができずにいるという。一方で、各地域には森林組合があるが、一つの組合でできる仕事量には限界があるため「クライスのような民間企業が育たないと、林業を支え切れない」(同)というのだ。

 「公共事業の森林伐採は土木工事扱いになるため建設業の許可が必要だが、森林組合は(許可を)持っていない。西日本の森林組合は(許可を)持っているところもあるが、東日本の森林組合は職員個人が建設業の資格を持つ程度です」(同)

 だから田村市東部産業団地の立木伐採工事も、建設業許可を持つ10社がいったん受注した後、専門の田村森林組合に下請けに出されたということらしい。

 とはいえ、林業の厳しい現状は理解したとしても、本田氏自らが自分の会社に市の仕事を間接的に回した構図は事実だろう。

複数の後援者にハム贈る

 この立木伐採工事をめぐっては、昨年12月定例会でこんな質問が行われている。

 「立木伐採工事の下請けに入った田村森林組合から元請けの10社に対し、工事終了後、計5000万円が戻されたという話がある。5000万円もの予算が余るのは、市の積算に問題があるのではないか」

 これに対し、市側は「10社がどこに下請けに出したかは民民の問題であり、市では関知していない。5000万円が戻されたという話も分からない」との答弁に終始した。

 田村森林組合に確認すると、担当者は次のように語った。

 「森林組合は県の条例検査や上部団体の監査を受けており、もし5000万円ものお金を元請けに戻していたら(検査・監査に)確実に引っ掛かる」

 キックバックのような行為をすれば即バレるというわけ。ただ、この話が事実とすれば、ここで浮かせた5000万円も市に寄付する狙いがあったのかもしれない。

 余談になるが、田村市東部産業団地の市の責任者は「大越行政局長」の鈴木勝利氏が務めている。なぜ商工業や企業立地を司る「産業部長」ではないのか。あるいは、同団地は旧常葉町に整備するのだから「常葉行政局長」が就いてもよかったのではないか。

 「鈴木氏は本田市長と同級生でイエスマン筆頭のため、使い勝手の良い部下なんです。だから、本田市長肝いりの同団地の責任者も鈴木氏に任せている、と」(前出・事情通)

 同じく吉田英一保健福祉部長も本田氏と同級生で、何かと重用されているとか。

 匿名寄付問題も田村市東部産業団地問題も、本田氏の関与は疑われるものの、直接的な証拠は今のところ浮かんでいない。しかし一方では、完全に「クロ」と判断される事態も起きている。本田氏が有権者にハムを贈っていた問題だ。

 この問題を最初に報じたのも朝日新聞だった。同紙は昨年12月2日付の県版で、本田氏が8月、市内の男性に市の第三セクターで本田氏が社長を務める「ハム工房都路」の詰め合わせセットを贈り、その回数は歳暮と中元で5回以上あると報じた。同紙はハムを受け取った後援者数人から証言を得ていたが、決定的だったのは、本田氏がハムの入った手提げ袋を持って有権者宅を訪れた後、手ぶらで帰る姿を映した監視カメラの画像を掲載していたことだ。

 本誌も、本田氏からハムを贈られたことがあるという後援者に話を聞くことができた。

 「返すのも失礼なので全部食べてしまったが(苦笑)、これって公選法上マズいんじゃないか、とは薄々感じていた」

 この後援者は「計7回もらった」と話し、同じようにハムを贈られた人は相当数いるとのこと。

 「市内には本田市長の後援会が地区ごとに35あります。すなわち35人いる地区後援会長は全員もらっていると思いますよ。後援会長より下の幹部も『もらったことがある』と話す人がおり、一度に100人以上に贈っていた可能性もある」(同)

 歳暮・中元は慣習なので、市長になってから始めたのではなく、議員時代から続けていた可能性も大いにある。

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西向建設が提供したごみ袋

 本田市長が配っていたハム(上)と西向建設工業が提供したごみ袋(どちらも実際に受け取った市民からの提供)

公職選挙法は第199条の2で、政治家による有権者への寄付を禁じている。県選管も「(公選法に)抵触する恐れがある」との認識を示す。

 朝日新聞は12月2~4日にかけての県版で、本田氏を追い詰めるかのごとくヤメ検、大学教授、県警幹部のコメントを紹介している(以下同紙より抜粋)。

 「法律の形式上は違反になる。今後、捜査機関が調べるとすれば、どの程度の範囲にどのくらいの金額の物を贈ったかがポイントだ」(元検事の牛江史彦弁護士)

 「市長自らが個人宅を訪れて品物を渡している。かなり(公職選挙法違反が)疑わしい」(元検事の中村和洋弁護士)

 「政治家であれば最低限のルールは分かってなければならない。『社長(※編集部注=ハム工房都路社長)として配った』という主張は言い訳と見なさざるを得ない」(岩井奉信・日大教授)

 「公職選挙法が定める寄付の禁止は非常に厳格。話の通りなら、一般的に考えて違法で、金額や回数に関係なく立件できる」(県警幹部)

 前出の後援者もこう話す。

 「匿名寄付問題でマスコミを賑わせていたと思ったら、続けてハム問題が出てきた。私は前回の市長選で本田氏を応援したが、正直こんな人とは思っていなかった」

後援会長の絶大サポート

 本田氏は昨年12月2日に会見を開き、次のように釈明した。

「後援会幹部から中元の意味合いで酒やスイカなどが届けられた。ハムはあくまで返礼で、(返礼したことで)利益を受けても与えてもいないので許されると正当化していた」

 「市長として受け取るのは(公選法上)問題があるので(ハム工房都路の)社長として返礼した」

 「あとは司法の判断に委ねたい」

 本田氏の周辺が騒がしくなると、前出・石井國仲氏は昨年11月13日に本田氏の後援会長を辞任した。とはいえ後援会内の要職にはとどまっており、実質的には「会長」として発言力を維持している。

 そんな石井氏が、昨年11月8日に開かれた市長杯ゲートボール大会に〝スポンサー〟として景品を提供していたことが判明したのだ。

 「参加者は200人ほどいたが、一人ひとりに市指定のごみ袋が参加賞として配られた」(大会に参加した高齢男性)

 市長杯ゲートボール大会は毎年開かれているが、今まで景品が出たことはなかったという。

 「表彰式が始まる前、本田市長がテーブルにせっせとごみ袋を並べていたので、ある人が『それは何?』と尋ねたら『西向(建設工業)さんが用意してくれたんだ』と答えたのです」(同)

 市長選を5カ月後に控えた中、今まで一度も景品が出たことがない大会に、本田氏の後援会長が景品を提供するのは〝間接的な買収〟と揶揄されても仕方あるまい。

 本誌は、本田氏に10の質問を送り回答を求めた。昨年12月16日に市経営戦略室秘書広報係を通じて寄せられた返答は次の通り。

   ×  ×  ×  ×
 ――有権者にハムを贈り始めたのはいつからで、毎回何人に贈り、かかった費用はいくらで、どのように捻出していたのか。

 「12月2日の会見の通りです」

 ――ハムを贈った理由は。

 「12月2日の会見の通りです」

 ――公選法に抵触するとは考えなかったのか。

 「12月2日の会見の通りです」

 ――匿名寄付をめぐっては本田市長の有力支持者である富士工業と西向建設工業から受注額の5%を寄付するよう〝命令〟があったという証言を複数の業者から得ている。そうした事実を認識していたか。またその〝命令〟に本田市長は関与していたのか。

 「寄付とは寄付者が自らの意思に基づき金銭・財産を無償で提供するものであり、市が寄付を命令できる性格のものではなく、そのような事実はない。市では常に、ふるさと納税や企業版ふるさと納税を含めた寄付金について広くPRしている」

 ――除染事業の予算は国から来た復興予算が原資だ。そのお金が受注業者に渡り、一部が市に寄付される構図は「復興予算の還流」、悪い言い方をすれば「市に対するキックバック」と同じではないか。

 「除染事業は国の交付金事業であり、県の積算基準に従って執行しており市への還流とは受け止めていない。市では寄付採納事務取扱規程に基づいて寄付採納の可否を判断しており、必要に応じて寄付の受領に関する審査会を開き、審査している」

 ――寄付金は何に使われるのか。

 「寄付者の意向に沿って指定された使途に充てるが、指定のないものはたむら市民病院建設基金に全額を積み立て、2024年の開院を目指す新たむら市民病院建設費に充当する予定だ」

〝身から出た錆〟

 ――田村市東部産業団地の責任者に、大越行政局長で本田市長の同級生である鈴木勝利氏を起用しているのはなぜか。

 「人事に関することなので、明らかにできない」

 ――市内の事業者からは、市発注工事の情報が鈴木氏を経由して富士工業の猪狩社長に流れているのではないか、という話も囁かれている。

 「市が関与している事実はない」

 ――本田市長が実質オーナーのクライスが東部産業団地の立木伐採工事の下請けに入っている。

 「クライスが私の会社であるという事実はない」

 ――前回の市長選で本田市長を支持しなかった有権者から、その後干されたという話を複数聞いた。

 「そのような事実はない」

   ×  ×  ×  ×

 本誌は、富士工業の猪狩社長と西向建設工業の石井社長にも質問状を送ったが、猪狩社長は直接面会したものの「話すことはありません」と一言。石井社長は期日までに返答がなかった。

 本田氏は、4月11日投票の市長選に再選を目指して立候補することを正式に表明。新人で市議の白石高司氏(60)も立候補の意思を固めており、両者による一騎打ちが濃厚となっている。

 市長選を目前に控えた中で複数の疑惑が同時に浮上するのは、本田氏からすると〝意図的〟と思うかもしれないが、市民の多くは〝身から出た錆〟ととらえている。



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