【桜沢鈴】なかなかのイナカ 奥会津移住日記②
(2021年6月号より)
「IT仙人」との出会い
転居先の会津若松で、寒さと雪と孤独の洗礼を受けた私は、春の美しさに感動した。
借りていた一軒家には小さな庭があって、桜やバラ、ツツジなど色々な花が春を喜ぶ。モノクロの季節が終わり、鮮やかなカラーの世界が広がっていた。厳しい冬を乗り越えたこその感動がそこにあった。
しかし、「もう一度寒い冬を乗り越えるぞ!」と力が湧いたわけではない。会津の冬は心身ともにかなりこたえた。正直すぐ暖かい所に引っ越したかったが、その資金もなく、じっと耐えるほかに方法はなかった。
ネガティブな想いに支配されていたが、その後、もっともっと雪深く寒い奥会津に移住することになった。なんと、結婚したのだ。
相手は知人の紹介で知り合った、大阪出身のビックデータ・サイエンティスト。長身・長髪の独身男性で、奥会津に移住し大きな古民家に1人で住んでいたことから、「IT仙人」と呼ばれていた。
初めて話を聞いた時、漫画家の性なのか、異性としての興味よりキャラクターとしてのワクワクが先に立ったのを覚えている。豪雪地帯・奥会津に単独移住する、私以上の変人(失礼)がいたことにも驚いた。
会って話してみるととても紳士。そして実家がものすごく近所であることが判明した(私も大阪出身)。世代が一回りほど違うので噛み合わない部分もあったが、地元トークで話が盛り上がった。2年ほど友達としてたまに会う程度だったが、交際を始めることになり3カ月でスピード婚。奥会津の夫の元で暮らすことになった。
お互いに一人でやってきて厳しい冬を乗り越える中、色々と考えるものがあったのだろう。彼は「都会に住んでいたら結婚してなかっただろう」と言う。私もそうかもしれない。
都会はお金さえあれば便利で自由で、1人でも生きていけるシステムが構築されていた。しかし、田舎で大自然と1人で対峙するのは大変だ。雪かきは複数人でやる方が圧倒的に早い。一人ひとりの個室を暖めるより、みんなで暖を取った方が効率的だ。人が密接に関わり合うことで世の中が回っていると感じる。
私のように、お金もなく引きこもりで、ご近所付き合いもできないのは最悪中の最悪。都会と田舎、どっちが良いとか悪いとかではなく、循環方法が違う社会なのだ、と結婚・移住を通して気づくことができた。
深く信頼できる人と巡り会えたことで、私の人生は大きく変わっていった。引きこもりの私は、夫を介してご近所さんに知っていただき、今ではとても仲良くさせていだいている。
周りの方に助けてもらうばかりで、お返しできていないことを申し訳なく思っているが、とても幸せな暮らしをさせてもらっている。
決して便利ではなく、都会が恋しくなることもあるが、今は通信販売も充実しており、奥会津でも注文した次の日には品物が届く。意外かもしれないが光回線は整っており、使う人間が少ないので都会よりもインターネットの通信速度が速い(笑)。
万人にはオススメできないが、一度だけでも田舎暮らしを体験してみてはいかがだろうか。180度とはいかなくても、90度ぐらいなら、人生観が変わるかもしれない。
さくらざわ・りん 大阪府出身。漫画家。7年前に会津若松市に移住し、現在は奥会津で暮らす。代表作『義母と娘のブルース』はドラマ化されて大ヒットした。
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