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食品基準値「1000ベクレル/㎏へ緩和」に異議

(2021年4月号より)

市民団体が公的検査の問題点を警告


 「みんなのデータサイト」は3月9日、会見を開き、食品の放射性物質基準値(1㌔当たり100ベクレル)を今後も維持することを国に強く求めた。背景には、自民党のプロジェクトチームが基準値引き上げに向け動きを加速させていることがある。

 「みんなのデータサイト」は原発事故を契機に発足したネットワーク団体。全国29の市民放射能測定室が加盟し、食品や土壌などの測定結果を集積するデータベース「みんなのデータサイト」を運営している。

 そんな同団体が3月9日に開いた会見は、ネット通販に出回る〝放射能汚染キノコ〟をもとに、公的検査体制の問題点と、食品衛生法の基準値(1㌔当たり100ベクレル)を堅持することを求めたものだ。

 きっかけは同団体に加盟する福島市のNPO法人「ふくしま30年プロジェクト」が昨年春、ネット通販に出品されていたコシアブラ(採取地は岩手、秋田、宮城、山形の4県)を購入しゲルマニウム半導体検出器で測定したところ、基準値を超える放射性物質が複数検出されたことだった(※詳細は本誌昨年7月号)。

 また、昨年秋には同団体に加盟する六つの測定室がネット通販、道の駅、
直売所などからキノコを購入し測定したところ、基準値超えのキノコが複数見つかった。基準値超えが見つかったのは岩手、宮城、山形、茨城、群馬、長野の6県だった(※同昨年11月号)

 こうした事態に厚生労働省は昨年8月、ネット通販事業者に対し野生の農産物を販売する利用者への注意喚起を依頼。ただ、強制力がない状況では汚染キノコ・山菜の出品に歯止めがかかる見通しは薄く、監督官庁としての責任を果たしているとは言えない。

 厚労省は汚染キノコ・山菜を「食品衛生法に違反する食品」と位置付け、同法第6条の2では「有毒、もしくは有害な物質が含まれ、もしくは付着しているものを、販売または販売するために採取・製造・輸入・加工・使用・調理・貯蔵・陳列してはならない」と定めているが、「放射性物質」とは明記されていない。さらに、ネット通販という販売形態に同法の中身が追い付いていない現実もある。

 一方で同法には罰則規定があり、当該食品の廃棄命令、当該事業者の営業許可取り消し、さらに悪質な事例には2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科される。にもかかわらず、汚染キノコについては注意喚起にとどまり、同法の不備と厚労省の対応のチグハグさが浮き彫りになっている。

 そもそも国は、測定器などのハードには予算をつけたが、実際に測定を行う自治体(保健所)ではマンパワーが不足し、汚染が危惧される食品の測定が行われていない。福島県以外では、基準値越えの食品に対する対処方法を認識さえしていない保健所もある。

 自治体任せの測定は、さまざまな歪みも生じさせている。

 例えば測定は各自治体が任意で行っているため、汚染キノコ・山菜・ジビエ(野生獣肉)が見つかっても隣県同士で情報が共有されず、出荷制限地域が都道府県境で飛び地になる現象が起きている。

 また、出荷制限は各自治体からの報告に基づき国が通達を出しているが、見方を変えると現場(保健所)で測定し、基準値越えの食品が発見されない限り通達は行われない、ということになる。

 国は各自治体に任せ切りで、保健所はマンパワー不足の中、ふくしま30年プロジェクトなど各地の測定室が〝代役〟を務めている格好だ。おかげで飛び地は若干解消され、出荷制限地域は拡大したが、このままでは汚染キノコ・コシアブラ(山菜)は今年春以降も市中に出回る可能性が極めて高い。

 こうした中、自民党東日本大震災復興加速化本部に設けられた「食品等の出荷制限の合理的なあり方検討プロジェクトチーム」(座長・根本匠衆院議員=福島2区選出、8期)は3月8日、「1㌔当たり100ベクレル」を引き上げる(緩和する)ための提言を行った。

100ベクレルでは風評招く!?

 提言の骨子は、前段に書かれているこの一文に集約されている。

 《現在の一般食品の基準値は、一律に100ベクレル/㌔に設定されているが、一般的に流通している生産管理が可能な食品は基準値を十分に下回
っている一方で、生産管理が困難な食品(天然もの)については一部で基準値の超過が見られる。しかしながら、例えば、福島県の林産物で見れば、基準値を超過しているものの多くは数十ベクレル/㌔超過している程度であり、かつそうした天然のものは摂取量が極めて少ないものであることから、基準値を一定程度超えていたとしても、通常の摂取量であれば健康に影響するものではない。そうした考え方は、食品安全に関する国際規格・基準その他の勧告をする機関であるCODEX委員会のガイドラインやEUにおいても適用されている。それにもかかわらず、基準値が安全/危険を示すものではないことや、健康影響に関する理解が必ずしも浸透していないがために、消費者に基準値を少しでも超えたら危険なのではないかといった不安を呼び起こし得る状況にある。それが風評や生産地のイメージ悪化につながれば、農産物等や観光等における経済的被害が生じ続けることになる》

 14からなる提言には「新しい基準値は何ベクレルにすべきだ」と具体的な数値は書かれていないが、提言中にCODEX委員会がたびたび登場することから、同委員会の指標値である「1㌔当たり1000ベクレル」への引き上げを目論んでいるとみられる。

 このプロジェクトチームの資料が菅家一郎衆院議員(福島4区選出、3期)のブログに掲載されていたため、3月2日、測定室の関係者が菅家事務所に問い合わせると、応対した秘書が次のように述べたという。

 「すぐに基準を変えることはしないだろうが、ゆくゆくはCODEXの1㌔当たり1000ベクレルを考えていると思う。ただ、国民のコンセンサスを得ない限りは変えられない」

 政府与党の中で、基準値引き上げは既定路線になっているようだ。

 食品の放射性物質基準値は、原発事故前は1㌔当たり370ベクレル(輸入食品暫定限度)だったが、事故直後に同500ベクレルに引き上げられ、2012年4月から現在の同100ベクレルが採用されている。

 その基準値を同プロジェクトチームが引き上げようとしたきっかけは「1㌔当たり100ベクレルではキノコや山菜を出荷できない」「この数値だとかえって風評被害を招く」という声が上がったことだった。

 これに対し同団体は、

 「風評被害を理由に、他の食品の汚染が低減しているからキノコ・山菜を食べても大丈夫という論理展開はおかしい。それなら基準値をさらに引き下げるべきだ」

 と真っ向から反論。3月9日の会見では、この稿で触れた問題点を挙げながら、1㌔当たり100ベクレルを堅持すべきと訴えた。

 飯舘村で野生のキノコ・山菜に含まれる放射性物質を計測し続けている伊藤延由さんは、基準値引き上げの動きをこう牽制する。

 「原発事故前の環境に戻らない・戻せないのに、基準値を引き上げようという論理はおかしい。1㌔当たり100ベクレルから1000ベクレルにしたいのは、キノコや山菜が売れないためという経済優先の考え方が根底にあるからです。しかし、国が重視すべきは経済ではなく、国民の命と健康のはずだ」

 原発事故の被災地だからこそ、CODEX指標にとらわれる必要はないはずだ。基準値見直しは、もっと慎重であるべきだろう。

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