デブリの法的定義を① ―【尾松亮】廃炉の流儀 連載23

 東京電力は今年(2022年)中に福島第一原発事故で溶け落ちた燃料デブリの取り出しを開始する計画である。しかし、そもそもこの「燃料デブリ」とは何なのか、日本では「法的な位置づけ」が定まっていない。

 原発事故から11年が経過しようとしている現在、福島第一原発1~3号機の原子炉内(或いはさらにその外)に溶け落ちた燃料デブリに関して、「政府の引き受け義務」や「放射性廃棄物としての位置づけ」を定めた法律・規則はまだない。

 資源エネルギー庁の説明によれば、国による地層処分が必要になる「高レベル放射性廃棄物」とは、使用済み核燃料再処理の結果生じる「ガラス固化体」のことであり、それ以外の放射性廃棄物は「低レベル放射性廃棄物」とされ、電気事業者が処分を担当することになる。

 核燃料サイクル政策を維持している日本の制度では「使用済み燃料」それ自体は再処理可能な「リサイクル資源」という位置づけであり、「放射性廃棄物」ではない。それでは、やはり核燃料起源の「溶融燃料(及びその含有物)」はどう位置づけられるのか。リサイクル資源とすることは非現実的だが、廃棄物のどのカテゴリーにも分類されていないのが現状である。

 この法的曖昧さを放置すれば、今後どんな問題が生じ得るのか。

 一つ目の問題として、燃料デブリが「高レベル放射性廃棄物」と規定されないなら、仮に取り出しができたとしても、その後の保管や最終処分について政府が責任を負わないということがあり得る。

 二つ目の問題として、放射性廃棄物として位置づけられていないがために、事故炉内に放置し続けることを積極的に禁止する法的根拠も弱い点が挙げられる。原子力規制委員会が「デブリを取り出さない選択肢」を示唆することができるのも、その選択を違法とする法規則がないからである。

 そもそも政府や東電の資料で「燃料デブリ」というとき、その定義も明確にはなっていない。

 初版「中長期ロードマップ」では、燃料デブリを注記で「燃料と被覆管等が溶融し再固化したもの」と説明しているが、被覆管以外の物質と溶融している場合や溶融燃料を含有するガレキ等については、どこまでを燃料デブリとして扱うかは明確に定義されていない。燃料デブリの今後の定義によっては、溶融燃料を含むガレキの多くが「燃料デブリ以外の固体廃棄物」と選別され、低レベル放射性廃棄物同様の民間処分や、さらには再利用に回される可能性もある。

 東電が計画通り燃料デブリの取り出しを開始できたとしても、溶融燃料の全量取り出しの道筋は見えていない。今後も長期間、「溶融燃料が事故炉内(及びその外)に管理不能な状態で残る」状況は続く。こうした中で燃料デブリの法的定義と位置づけが定まっていないことは、政府と東電に場当たり的・無責任な対応を許すことにつながる。取り出した燃料デブリは原発敷地で保管し、取り出せないものは放置し、溶融燃料を含む大量のガレキは通常の民間処分や再利用に回される、ということが起こり得る。それを違法とする法規則がないのだ。


おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。


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