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【尾松亮】廃炉の流儀 連載1

 世界の先進地から学ぶ「廃炉の流儀」

 「特に原発廃炉に関わる規制委員会の意思決定に住民の意見を取り入れるよう求めます。『原子力イノベーション・近代化法』に基づき、規制委員会には地域のステークホルダーの意見聴取をし、廃炉原発周辺地域の『市民助言パネル』の取り組みを調査し、議会に報告する義務があります」

 これは昨年9月11日付でビル・キーティング下院議員が米国原子力規制委員会(NRC)にあてた要求書の一文だ。

 キーティング議員は地元マサチューセッツ州プリマス郡に立地するピルグリム原発の廃炉計画をめぐって、地域住民の不安や懸念事項を考慮するようNRCに求めている。マサチューセッツ州議会は2016年に「廃炉市民助言パネル」を設立し、定例会合を通じて廃炉事業者や規制当局に地元住民の意見を伝えてきた。上述の新法「原子力イノベーション・近代化法」(2019年1月発効)は、NRCに各地の「廃炉市民助言パネル」の意見聴取をすることを義務付けた。

 米規制委員会は、施設の安全基準適合審査だけでは許されない。周辺地域住民の意見を取り入れた廃炉規制を行うことが法律で義務付けられている。原発立地州や州選出国会議員たちの地道な努力が、住民による廃炉監視力を着実に強めてきた。

 ところ変わってウクライナ・チェルノブイリ原発では昨年2月、遠隔操作クレーンの試験が行われた。「主要クレーンシステムは『石棺』設備の解体に際して最も重要な手段となる複合設備であり、技術棟から遠隔操作で運転することができる」(チェルノブイリ原発社)という。

 事故を起こした4号炉には、2016年にアーチ型シェルターがかぶせられた。日本では「チェルノブイリは石棺方式でデブリ取り出しをあきらめた」かのように言われるが、これは間違いだ。このアーチ型シェルターは内部の4号炉をクレーンで解体し、100年かけてでも燃料デブリを取り出すための施設である。そのことは「チェルノブイリ廃炉法」(1998年)に規定されている。だから今もシェルター内部でのクレーンの運転試験を続けている。「シェルターをかぶせて放置」では違法なのだ。議会が「廃炉法」に規定した「デブリ取り出しの約束」は今も有効である。

 米国や旧ソ連圏では廃炉に伴って地域社会が直面する問題に対処しながら、廃炉時代特有の制度を作ってきた。技術開発も必要だが、廃炉の影響を受ける住民や地域社会を守ることにおいても「無策」であってはいけない。廃炉にもそれなりの「流儀」(制度、倫理、手続き)がある。

 本連載では、世界の廃炉地域で議会や住民、企業が模索しながらも作り出してきた廃炉時代の知恵、新制度の事例を紹介する。日本でも先手を打った制度作りに向けて議論を起こしていきたい。

 福島県は福島第一原発廃炉という人類的な課題を抱えるとともに、他県に先駆けて「原子力発電時代」を終えた。全原発廃炉を決めた福島県だからこそ、日本が世界に示す「廃炉の流儀」を創り出してほしい。廃炉先進地の制度や取り組みを伝えることで、そのささやかな手伝いになればと願う。連載タイトルにはそんな思いを込めた。


 おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。


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