【原発賠償詐欺】で逮捕された 須賀川市議の実弟

市内で聞かれた「非難」と「同情」 


 原発事故で売り上げが落ち込んだと虚偽の申請をし、東京電力から賠償金をだまし取ったとして、韓国籍の金孝尚容疑者と、村田博志容疑者が1月31日に福島県警に逮捕された。その後、関連の事件で芋づる式に逮捕者が出たが、その逮捕者の中には須賀川市内で注目を集めた会社経営者もいた。 


 新聞報道などによると、金容疑者は郡山市内で「東洋健康センター」(2017年に閉店)を経営しており、2012年2月に原発賠償のベースとなる事故前の売り上げなどを水増しした請求書を作成、これを基に東電に賠償請求し、同年3月に賠償金約2億3800万円をだまし取ったほか、2015年までに計約7億円の賠償金を受け取ったという。金容疑者は今年8月までに関連の容疑で計10回逮捕され、いくつかの事件では起訴されている。

 さらに、関連報道によると、金容疑者らは「原発賠償コンサル」のような形で、知人の経営者などに請求事務代行を持ちかけ、同様の手口で賠償金を受け取り、手数料をもらっていたという。この件に関しては朝日新聞が詳報している。以下は同紙6月26日付(社会面)より。

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 原発事故による賠償金を東京電力からだまし取ったとして、男女5人が逮捕される事件があり、これまでに立件された詐取額は8億4200万円に上る。このグループは金に困った会社を見つけて賠償金の請求を持ちかけ、手数料を受け取る「賠償金ビジネス」を繰り広げており、福島県警は少なくとも30社が不正請求した疑いがあるとみて調べている。

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 続いて、同記事では具体的な事例も紹介している。

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 「知り合いに原発事故の損害を分析して東電に申請できる公認会計士がいる」。原発事故から1年余り過ぎた2012年4月、福島県内で運輸事業を手掛けていた男性は、面識があった旅館の元女将、黒田裕子容疑者(60)=今月(6月)5日に詐欺容疑で逮捕=から声を掛けられた。

 09~11年度の決算書の写しを手渡すと、10月初旬、黒田容疑者から「賠償金が出る決定を受けた。金額は約5000万円」と連絡があり、間もなく東電から約5000万円が振り込まれた。黒田容疑者はその日のうちに会社を訪れ、男性が手数料として約1500万円を手渡すと、紙袋に入れて帰って行った。その後も黒田容疑者を通じて3回にわたり、賠償金を請求。子会社も含め、計1億8000万円を受け取った。支払った手数料は計5400万円に上ったという。

 だが、17年12月、事態は急転。「ご回答のお願い」という質問状が東電側の弁護士から届いた。「重大な疑義が生じた」といい、「本件は刑事事件となる見込みが極めて高い」との記載もあった。東電に提出した決算書を会社の顧問税理士が調べると、震災前の売り上げが水増しされていた。東電に賠償金を返還する意向を伝えているが、拒否されているという。

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 同記事を読むと、金容疑者らは自らが経営する会社の売り上げなどを水増しした請求書で東電から多額の賠償金を受け取り、「これは使える」とばかりに「原発賠償コンサル」のような形で、金に困っていそうな知り合いの経営者などに声をかけ、同様の手口で賠償請求し、手数料を受け取っていた――という実態が浮かび上がる。

 同記事によると、少なくとも30社が関与とあり、実際、その後も金容疑者らに賠償請求を依頼したと思われる会社経営者などが芋づる式に逮捕されている。

須賀川市民の衝撃

 それら逮捕者の中には、須賀川市内でちょっと名の知れた人物もいた。6月26日に逮捕された同市のコンビニエンスストア経営者の大寺晃由容疑者である。

 新聞報道などによると、大寺容疑者は金容疑者らのグループから賠償請求の話を持ちかけられ、計約6000万円の賠償金をだまし取った疑いという。

 同日、大寺容疑者と金容疑者のほか、須賀川市内の建設会社元社長の吉田浩二容疑者も逮捕された。大寺容疑者が金容疑者と面識があったかは分からないが、少なくとも吉田容疑者とは親しい関係にあったようで、吉田容疑者から話を持ちかけられ、金容疑者に関連資料などがわたり、改ざんのうえ不正請求された可能性が高いようだ。

 その大寺容疑者が須賀川市内で注目されたのにはこんな事情がある。ある市民の話。

 「大寺容疑者の実兄は須賀川市議会議員なのです。ですから、『市内の経営者が逮捕された』という事件そのものの衝撃に加え、身内でそういう事件があった中、議員としてふさわしくないといった声が出ているのです。そういったことも含め、市内では話題になっています。もっとも、大寺容疑者の実兄が議員をしていることは、私も最初は知りませんでした。ある人から教えられ、『新聞・ニュースになった大寺容疑者の兄は議員だったのか』ということを知りました。案外、そういう市民も少なくないと思います」

 本誌が同市内で大寺容疑者とその兄・大寺正晃議員に関して聞き込みをしたところ、「確かにそういう(議員にふさわしくないといった)声があるのは間違いない」と、非難の声があることが分かったが、一方で同情的な見方もあった。

 「新聞報道などを見た中での印象ですが、大寺晃由容疑者は詐欺とは知らなかったのではないか。すなわち、『賠償請求の代行』といった形で話を持ちかけられ、金容疑者、吉田容疑者に決算書などの関連書類を渡したら、それが水増し・改ざんされ、不正請求されたのではないか、と。彼(大寺晃由容疑者)のことを知る私からすると、そんな気がしてなりません」(ある市民)

 大寺晃由容疑者が経営するコンビニはかなりの優良店だったようだ。そのため、「金に困っていたとは思えないから、言われるがままに決算書などの関連書類を渡したところ、こんなことになってしまったのではないか」というのが、この市民の見立てだ。

 さらには、こんな声も。

 「大寺正晃議員の議会での評判は悪くない。そもそも、今回の事件に大寺正晃議員の弟が関与していたのは事実でしょうが、大寺正晃議員自身は関係ありませんからね。それでも、『身内がそういう事件を起こし、議員としてふさわしくない』といった声が出てきてしまうのも事実です。ただ、幸か不幸か、須賀川市では近く市議選(8月4日告示、11日投開票)があります。そこで大寺正晃議員が票を減らすのか、変わらず当選するのかを見れば、(同事件への)市民の捉え方がハッキリすると思います」(ある議員)

 本誌がこうした話を聞いたのは大寺晃由容疑者の逮捕直後のことで、この議員が語ったように、同市では8月4日告示、11日投開票の日程で市議選が行われることになっていた。当時は、定数24に25人が立候補すると見られており、大寺正晃議員も立候補の意向を示していたが、その結果を見れば、弟の事件の影響が推し量れるのではないか、というのが前出の議員の見解だったわけ。別の見方をすると、市議選が近いため、余計に同事件が話題になっていた側面もあったかもしれない。

 ただ、同市議選は直前で立候補予定者1人が断念したため、無投票となった。結果、同事件を市民がどう捉えているのか、実弟が事件を起こした大寺正晃議員への市民の審判を見定めることはできなくなった。

大寺正晃議員に聞く

 市議選からしばらくした後、大寺正晃議員に会って話を聞いた。最初に、大寺晃由容疑者が経営する会社との関係について尋ねたところ、次のように明かした。

 「もともとは、私の父親がやっていた会社で、それを弟が引き継ぎました。私は別の会社を立ち上げ、後に市議選に立候補して議員になりました。弟の会社では、ひょっとしたらいまも役員に名前は残っているかもしれませんが、一切タッチしていませんし、給料などをもらっているわけでもありません」

 後に、大寺晃由容疑者が経営する㈱大寺の法人登記簿を確認したところ、役員の欄には大寺正晃議員の名前が残っていた。なお、同社の登記事項は次の通り。

 1969年10月設立。資本金1000万円。事業目的は、①酒類及び食料品の販売、②陶器、漆器、その他記念品の販売、③衣料及び日用雑貨品の販売、④インターネットによる通信販売、⑤コンビニエンスストアの経営、⑥古物商の経営、⑦飲食店及び喫茶店の経営、⑧ホテル及び旅館の経営、⑨学習塾の経営、⑩不動産の賃貸業、⑪貸金業など。役員は代表取締役・大寺晃由(※原発賠償詐欺事件で逮捕)、取締役・大寺一郎、大寺正晃(※議員)、大寺晃司の各氏。

 法人登記簿の役員欄には、大寺正晃議員の名前が出ていたが、当人は「一切タッチしていない」、「給料などをもらっているわけではない」とのことだった。

 ちなみに、当選が決まった際、地元紙に当選者のプロフィールなどが掲載されたが、大寺正晃議員は「会社役員」となっていた。それは、㈱大寺ではなく、自身が立ち上げた会社のことを指しているようだ。もっとも、議員当選後はその会社も実質休止状態という。

 さらに、大寺正晃議員は同事件について知っていることを明かしてくれた。大寺晃由容疑者は、まだ勾留されているため、「直接は話していない」(大寺正晃議員)とのことだったが、「弁護士とは何度か話をした」(同)という。

 大寺正晃議員によると、大寺晃由容疑者は同じく逮捕された同市内の建設会社元社長の吉田容疑者から話を持ちかけられ、賠償請求に必要な決算資料などを渡したようだ。それが、金容疑者らによって水増し・改ざんのうえ、東電に賠償請求され、賠償金が支払われた。総額は約6000万円という。

 ただ後に、大寺晃由容疑者も「おかしい」と感じたようだ。すなわち、自身の会社の決算状況で、それだけの賠償金が受けられるはずがない、と。そこで、弁護士に相談して返還することを考えていた。しかも、それは数年前のこと。そうして、この間、弁護士に相談しながら東電に返還する旨を伝えてきたが、東電はそれに応じない姿勢だったという。

 前段で紹介した朝日新聞の記事で、県内で運輸事業を手掛けていた男性の事例が紹介されていたが、その中でも、《東電に賠償金を返還する意向を伝えているが、拒否されているという》といった記述があった。東電では手口が悪質と捉え、返還には応じず、捜査機関に任せたということだろう。

 朝日新聞(6月27日付、県版)は大寺晃由容疑者が逮捕された際、逮捕前の大寺晃由容疑者のコメントも掲載している。

「公人の実兄」に責任が及ぶか

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 大寺容疑者は逮捕前、複数回にわたり朝日新聞の電話取材に応じた。「知らなかった」と詐欺の認識を否定しつつ、手数料の割合などを明らかにした。主なやり取りは次の通り。

 ――吉田さん(容疑者)に手数料をどれくらい渡したんですか。

 (受け取った賠償金の)2割くらいでしょうか。そのほか、その委託先にお世話になったというのが、4割近くまではいかないですけれども。

 ――半分以上を(手数料で)払っていたんですか。

 7割くらいはたぶん。みんなそうなのかなと思って。私は「どうせ(賠償金を)もらえないですよ」と言ってたんですけれども、いろいろな手法があって、腕利きの会計士さんと弁護士さんがやるからということだったので。そのお礼として、そういう対価なのかなと。

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 同記事からは、大寺晃由容疑者は「詐欺とは知らなかった」、「どうせ私はもらえない」といった認識だったことがうかがえる。加えて、弁護士に相談しながら東電に返還する意向だったというから、そこからしてもそういう認識だったのだろう。

 そもそも、コンビニ経営と原発被害はあまり結びつかない。(中略)震災・原発事故直後に売り上げが大きく落ち込んだ様子もうかがえない。当期純利益もここ数年は1500万円前後を計上している。

 大寺正晃議員は「弟(㈱大寺)は金に困っていたわけではないと思います。世話になっている人から頼まれ、応じたのだろう」と明かした一方で、「とはいえ、弟も甘かったのは間違いありません」と語った。

 というのは、大寺晃由容疑者は白紙に署名・押印をして、前出・吉田容疑者に渡したのだという。その白紙書類がどんなものだったのかは不明だが、賠償金の不正請求に使われたのは間違いないだろう。結果、こうした事態を招いてしまったわけだから、確かに「甘かった」と言えよう。

 一方、大寺正晃議員は自身のことについては次のように述べた。

 「お会いした方には、『弟が世間を騒がせてしまい、また不快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした』ということをお伝えしています。そんな中で、私自身、市議選に出るかどうか、出ていいのかどうかは正直迷いましたが、周囲の人に相談して、正直に市民の方々の審判を受けようと思い、引き続き立候補することにしました」

 前段で述べたように、本誌としても、市議選の結果(得票数)を見れば、大寺晃由容疑者の事件が大寺正晃議員の得票にどう影響したかが分かるのではないか、と考えていた。ただ、無投票となったため、同事件を踏まえての大寺正晃議員への市民の審判を推し量ることはできなくなった。

 市内では「身内でそういう事件があった中、議員としてふさわしくない」といった声があり、大寺正晃議員と大寺晃由容疑者が実の兄弟であるのは間違いないが、いまはそれぞれ独立しており、公職に就くにはふさわしくないというほどの責任があるとまでは言えまい。それでも、公職に就くことへの批判があるとするならば、それは大寺正晃議員が自身の活動で納得させるしかない。

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