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国民の声を代弁した島根県知事―【横田一】中央から見たフクシマ87

 福島原発事故がまるでなかったかのように原発再稼働に邁進した〝アベ政治〟継承の菅政権(首相)が、東京五輪の政治的利用でどん底からの再浮揚を狙っている。「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証し」(1月18日の施政方針演説)とアピールしながら五輪を開催、その勢いに乗って総選挙圧勝を果たす〝菅シナリオ〟が見え見えなのだ。

 また菅首相との不仲説が流れる小池知事も、五輪開催強行では足並みをそろえている。1月22日の都知事会見でイギリスの「タイムス」紙に五輪中止報道が出たことを問われると、「中止や延期の話は出て来ていない」「抗議を出すべきではないだろうか」と〝火消し〟に精を出し、五輪ありきの菅政権を援護射撃した。責任のなすりつけ合いでGoToキャンペーン見直しが遅れて、第三波感染爆発を招いた〝A級戦犯コンビ〟の菅首相と小池知事は、自分たちの失敗への反省も謝罪もすることなく、大半が中止・再延期を望む国民世論も無視しながら、五輪開催に突き進もうとしているのだ。

 こうした両トップに異議申し立てをしたのが、丸山達也・島根県知事だ。2月17日に五輪聖火リレー中止検討発言が一斉に報道されたが、すでに1週間前の2月10日に五輪開催反対にまで踏み込む〝過激発言〟をしていた。読売新聞の同日配信記事は次のように紹介していたのだ。

 「(会見で丸山知事は)東京都が新型コロナウイルスの感染経路を調べる『積極的疫学調査』を簡略化しているとして、『五輪を開く資格がない』と批判した。都は疫学調査を病院や高齢者施設などに重点化している。丸山知事はこうした対応について、感染経路の調査が不十分になると懸念を示し、『大都市の感染拡大で、島根も飲食店や宿泊業者が大打撃を受けている。五輪を東京で開いて感染が拡大し、同じことをされたらかなわない』と述べた」

 しかし2日後の12日の小池知事会見で、この丸山知事発言についての質問はゼロ。そこで会見終了直後、「島根県知事は『五輪反対』と言っていますよ。『都に(開催する)資格がない』と言っていますよ」と声掛け質問をしたが、小池知事はこの日も、無言のまま会見場を立ち去った。

 丸山知事が問題視したのは、感染経路を十分に追跡できなくなる「積極的疫学調査の重点化」だけではなかった。知事直系の樋口高顕候補(元都議)が自公推薦候補らを破った「千代田区長選」(1月31日投開票)での小池知事の選挙応援も先の会見で批判していた。

 「最終日19時半からの飯田橋駅前で、大勢の人を集められた中で演説をされているようです。緊急事態宣言の最中、不要不急の外出自粛を強く都民に求められている中で、都知事のお仲間の当選のためにこういう行動をされていることも信じがたい。そして、これが大きな問題になっていないことも二重に信じがたい」「『都に対する社会的チェックが全く効いていない』ことをメディアも含めて反省するべきだと思う」

 丸山知事は五輪開催の景気浮揚効果を認めながらも「感染拡大を招くリスクもあわせて開催の可否を判断するべきだ」という立場であり、現在の都や政府のコロナ対応では再び感染拡大を招く恐れがあるので開催反対と訴えているのだ。

 福島県民を含む大半の国民が望む「原発ゼロ実現」の民意を無視して原発再稼働に邁進した安倍前政権の独裁的姿勢は、五輪中止を望む多数の国民世論を聞き流す菅政権と小池知事に引き継がれたが、それに丸山知事が「待った」をかけたのだ。島根県民だけでなく国民の声も代弁した丸山知事の言動から目が離せない。

フリージャーナリスト 横田一
1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた「漂流者たちの楽園」で1990年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。



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