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【政経東北】浪江町「復興拠点解除」に思う|巻頭言2023.5

 3月31日、浪江町の帰還困難区域に設定された特定復興再生拠点区域の避難指示が解除された。同日10時に町防災無線で避難指示解除を告げるアナウンスが流れた後、室原地区に整備中の防災拠点敷地内で式典が行われた。その関連の取材で気になったことを述べていきたい。

 翌4月1日には富岡町の復興拠点の避難指示が解除されたが、そこには岸田文雄首相が訪れていた。ただ、浪江町の式典には岸田首相は来ず、太田房江政府原子力災害現地対策本部長(経済産業副大臣)のコメントを同副本部長が代読した。つまりは、太田本部長すら来ていないのだ。この違いには違和感を覚えざるを得ない。

 浪江町の東日本大地震・東京電力福島第一原発事故発生時の総人口は2万1542人だったが、今年3月末時点では1万5406人。この12年ほどで約30%減。これはかなり衝撃的な数字と言える。一方で、世帯数は震災発生時7765世帯だったが、今年3月末時点では6650世帯と、約15%減に収まっている。避難指示区域の住民から、よく「いままで3世代で暮らしていた世帯が、老夫婦は地元に近いところで避難生活を送り、若夫婦(とその子ども)は都市部に移る、といった具合に世帯が分かれている」との話を耳にしたが、この数字が住民の証言を裏付けている。

 帰還困難区域の住民は2583人(今年3月末)で町全体の約17%。このうち復興拠点の対象住民は879人で帰還困難区域の約34%。避難指示解除前に特例で戻って生活ができる「準備宿泊」の登録者数は22人で、復興拠点の対象住民の約2%に過ぎない。ここからしても、復興の道のりはかなり険しい。ある対象住民は「帰還困難区域の復興の第一歩を踏み出したという点では歓迎したいが、復興拠点が解除されても、明日からのわれわれの生活に何か変化があるわけではない」と述べた。

 以前のこの稿でも述べたが、帰還困難区域の復興の問題点は大きく2つある。1つは放射線量が高いところに住民を戻すのが正しいのかということ、もう1つは帰還困難区域の除染・環境整備が全額国費で行われていること。それ以外のエリアの除染費用は東電に負担を求めているが、帰還困難区域はそうではないのだ。一般企業が環境汚染をしたとして、その回復のための費用を国が支出することはあり得ない。ところが、東電はそれを許される。国が特定企業に優遇措置を講じることを「レント・シーキング」と言うが、まさにそれだ。(末永)

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