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東海再処理施設―廃液のガラス固化再開は早くても2025年春―【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中㉟

 当連載で東海再処理施設(注1)を取り上げるのは2回目です(注2)。
 東海再処理施設では、約310京ベクレル(注3)の高放射性廃液が、5つの貯槽に貯留保管されています(核種毎の放射能量の推定は、「まとめ1」を参照)。

 この廃液の安定化を進め、外部への漏洩リスクを低減させるには、ガラス固化体(注4)にする必要があります。固化作業は2022年7月中旬に約10ヶ月振りに再開されましたが、9月初旬にガラス溶融炉のメンテナンスが必要と判断され、2ヶ月も経たずに終了しました。

 その後、原研機構が原子力規制委員会に説明・報告したところによると「現在の2号炉は継続使用せず、3号炉へリプレース(更新)する。ガラス固化作業の再開は早くても2025年3月末の見通し」とのことです(注5)。

 約310京ベクレルの廃液が、海抜6㍍に立地している建屋内の貯槽に、今後、数年間は「置きっ放しになる」ことが確実になりました。

 機構は廃液のガラス固化について「2028年度までの完了を目指す」という計画を示していますが(注6)、この目標の達成も不透明です。ガラス固化作業の再開後に、改めて提示されます。

 東海再処理施設での廃液のガラス固化作業は、施設の耐震チェック等で2007年12月から中断していました。原子力規制委員会の特別の許可を得て16年1月に再開したものの、再開後のガラス固化体の製造数は107体です(247→354体)。

 2025年3月に固化作業が再開できたとしても、16年以降のガラス固化体の製造ペースは単純計算で「約9年間で107体=年間12体」でしかありません。まさに亀の歩みです。

 廃液全量をガラス固化体にすると、850体前後になる見込みですから、あと約500体を製造しなくてはいけません。完了まで何年かかるのでしょうか?

 原子力規制委員会は、以前から、機構に対し「(廃液のガラス固化作業は)リスクを低減させる為に早く進めるよう」にせっついています。

 私の見るところ、規制委員会は可能と思われる提案や指導はしていますし(何れも検討の結果、現状の設備には変更を加えないとの結論/「まとめ2」参照)、機構も、様々な制約の中で進めようとしています。機構を弁護するのではありませんが、放射線量の大きさや物理的な制限に振り回されているのだと思われます。

 東海再処理施設の有る核燃料サイクル工学研究所は、原子燃料公社が設置し、動力炉・核燃料開発事業団、核燃料サイクル開発機構を経て、原研機構の所管になりました。設計・認可の段階から「廃止措置を見据える」視点が不足していたのでしょう。日本の原子力政策が利用偏重だった「歪み」が表われている典型例で、現在の責任主体である機構だけを批判するのは不公平です。

 東海再処理施設が大きなリスクを抱えてしまった経緯は、施設の設計段階まで遡って検証されるべきと思います。

 東京電力・福島第一原子力発電所(以後、「フクイチ」と略)のような災害を起こさなかったとしても、核物質・核施設の「片付け」がどれだけ大変なことか、東海再処理施設は、強烈な「実物教育の教材」です。それでも、核技術を動力源・エネルギー源として用い続けようとする、この国の為政者の感覚は度し難いです。

 本稿の最後に、本論から外れることをご容赦下さい。

 岸田政権は、本年1月13日の「第5回 ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議」で、フクイチで発生・保管されている所謂「ALPS処理水」について、海洋放出への具体的なスケジュール等を示しました(注7)。

 私は、環境中への放出には反対です。私の反対理由や代替案は、昨年9月の経産省への申し入れに凝縮されています(注8)。今後も、この立場から情報収集・発信・行動を続けていくことを、改めて表明します。

 注1 茨城県那珂郡東海村村松/所管しているのは「国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構」(原研機構)。正式名称は「核燃料サイクル工学研究所」内の「再処理技術開発センター」。2018年6月以降、廃止措置中

 注2 連載第25回(22年4月号)「見過ごせない、フクイチ以外のリ
スク」

 注3 フクイチ核災害での環境への放出放射能量は推定・約21京ベクレル

 注4 廃液とガラス原料を高温で溶かし、円筒状の固化体にするもの。固化体は自然通風で冷却が可能

 注5 第68回「東海再処理施設安全監視チーム」会合(2022年12月15日)での、機構の資料・説明を春橋にて要約/

 注6 2016年11月末に機構が原子力規制委員会に提出した報告書

 注7 会議の配布資料一覧

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/hairo_osensui/alps_shorisui/dai5/index.html


 注8 連載第31回(22年10月号)「経産省への申し入れと、その回答」



春橋哲史 1976年7月、東京都出身。2005年と10年にSF小説を出版(文芸社)。12年から金曜官邸前行動に参加。13年以降は原子力規制委員会や経産省の会議、原発関連の訴訟等を傍聴。福島第一原発を含む「核施設のリスク」を一市民として追い続けている。


*福島第一原発等の情報は春橋さんのブログ


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