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【横田一】中央から見たフクシマ85-地元民意を切り捨てる菅政権

 福島第一原発にたまり続ける放射性物質トリチウムを含む処理水問題で、菅政権が海洋放出ありきで押し切ろうとしている。12月10日に宮城県と岩手県の被災地を視察した菅首相は、宮古市での囲み取材で「極めて重要なことであり、いつまでも先送りはできない」と語ったのだ。

 9月26日の福島訪問でも、大半の福島県民が望む脱原発への意気込みは一言も語らない一方、処理水については「できるだけ早く政府として責任を持って処分方針を決めたい」と述べるだけ。漁業関係者らの海洋放出反対の声を重く受け止めて、代替案を模索する考えを示すことはなかったのだ。

 福島県相馬市で水産加工品も扱うスーパー「中島商店」代表の中島孝氏は、怒りを露わにしている。

 「海洋放出をしたら福島の水産物の命運が尽きることになると思います。地元の漁師は『トリチウム処理水なんかを流したら、今も魚が売れないのに、さっぱり売れなくなる。福島の漁業なんかは終わりだ』とハッキリ言っています」

 中島氏は福島原発事故の損害賠償などを求める「生業訴訟」の原告団長で、仙台高裁で勝訴判決を勝ち取ったが、原発推進の安倍政治を継承する菅政権(首相)はこの判決を受け止めずに上告、画期的な高裁判決が確定することを阻んだのだ。

 中島氏はこう続けた。

 「政府は、相馬双葉地域から五輪の聖火ランナーをスタートさせることで『原発事故は終わったのだ』と復興を印象づけようとしていますが、原発事故から9年経っても未だに風評被害が続いています。こうした現実を隠蔽して被害を切り捨てた上で、海洋放出でさらなる受忍を福島県民に迫っているのです」

 福島県民の民意を無視する菅政権の独裁的姿勢は、辺野古埋立を強行し続ける沖縄でも露呈しているが、こうした〝暴走〟にブレーキをかける役を野党は買って出ようとしている。11月15日、合流新党発足後に初めて福島を訪問した立憲民主党の枝野幸男代表は「相馬双葉漁協」にも足を運び、処理水海洋放出問題について幹部らと意見交換をしたのだ。

 会合の冒頭で立谷寛治組合長から、政府に慎重な判断を働き掛けるよう求める要請書を受け取った枝野氏は、「国から全く説明がない」「風評被害が検証されておらず、対策も示されていない」といった漁協幹部の訴えに耳を傾けた後、会合後の囲み取材で政府に方針変更を求める考えを明らかにした。

 「(漁業)関係者にさえ、きちんとした説明がなされていない状況では海洋放出を決定することは出来ない」「説明なき唐突な進め方ということを当事者の言葉で聞かせていただいて、こういう進め方は許すわけにはいかない」

 続いて枝野氏は、菅政権のエネルギー政策についても以下のように批判、対決姿勢を鮮明にした。

 「『2050年に二酸化炭素実質排出ゼロを目指す』という方向が示された時には若干の期待感を持ったが、これにかこつけて原発政策を悪い方向に転換しようとしている姿勢が明確になった。脱炭素のために(原発)新増設も否定しない。(原発)新型小型炉の開発を進めるということで、処理水の話もドサクサに紛れてやろうという意向ではないか。福島原発事故についての原因を含めた検証も十分ではない中で決して許されるものではない」

 地元の民意を切り捨てる菅政権と、県民の声に耳を傾ける野党という違いが鮮明になる。多くの福島県民が望む脱原発や海洋放出回避を実現するには、次期衆院選での政権交代が不可欠のようだ。


フリージャーナリスト 横田一
1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた「漂流者たちの楽園」で1990年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。


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