【原発】【福島】10分で分かる 原発賠償の全容

被害が続く限り賠償せよ!!


 東京電力福島第一原発事故を受け、県内の個人・法人などにはさまざまな形で、東電から賠償金が支払われた。ただ、その実態については誤解されている部分も多いほか、今回の原発賠償の消滅時効は「原賠時効特例法」によって10年に延長されたが、その期限まで2年を切っている。そのため、正しい理解の醸成と、消滅時効が迫る中で請求漏れなどを防ぐ意味で、原発賠償の全体像を整理する。


 別図は原発事故に伴う区分をまとめたもの。

 Aは主に帰還困難区域だが、この区分には双葉・大熊両町にある避難指示解除準備区域・居住制限区域も含まれている。両町の避難指示解除準備区域・居住制限区域は「双葉・大熊両町は生活上の重要なエリアが帰還困難区域に集中しており、避難指示解除準備区域・居住制限区域だけが解除されても住民が戻って生活できる環境にはならない」といった判断から、帰還困難区域と同等の扱いとなっている。

 Bは避難指示解除準備区域と居住制限区域(双葉・大熊両町を除く)。このエリアは2017年春までにすべて避難解除となった。

 Cは緊急時避難準備区域。主にA・B以外の20〜30㌔圏内が指定され、2011年9月末に解除された。

 Dは屋内退避区域と南相馬市の30㌔圏外。屋内退避区域は2011年4月22日に解除された。南相馬市の30㌔圏外は、政府による避難指示等は出されていないが、同市内の大部分が30㌔圏内だったため、事故当初は生活物資などが入ってこず、生活に支障をきたす状況下にあったことから、市独自(当時の桜井勝延市長)の判断で、30㌔圏外の住民にも避難を促した。そのため、屋内退避区域と同等の扱いとされている。

 Eは自主的避難等対象区域。A〜D以外の浜通り、県北地区、県中地区が対象。

 Fは白河市、西白河郡、東白川郡が対象。なお、宮城県丸森町もこれと同等の扱い。

 Gは会津地区。

 このほか、伊達市、南相馬市、川内村の一部には特定避難勧奨地点が設定された。

 これが原発賠償の1つの目安となる区分である。どの区分かによって、各種賠償の対象になるかどうか、あるいは金額の多寡が違ってくる。

 原発賠償は、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会が策定した中間指針・同追補、「福島復興指針」に基づく国の指導に倣って実施されている。表①は賠償項目と対象エリアを整理したもの。表②はそれら賠償の実績額。これまでに9兆円を超える賠償金が支払われている。

 以下、表①で示した項目順に賠償内容を解説していく。

精神的損害賠償の格差

 まずは精神的損害。表③は避難指示区域の精神的損害と、自主的避難の賠償額をまとめたもの。自主的避難賠償は「避難指示区域外に対する精神的損害賠償」といった位置付けのため、避難指示区域の精神的損害賠償と併記した。

 避難指示区域は1人当たり月額10万円の精神的損害賠償が支払われた。

 Aは75カ月分(2011年3月から2016年7月まで、750万円)のほか、「移住を余儀なくされたことによる精神的損害」として700万円が支払われ計1450万円。

 Bは2011年3月から昨年3月までの85カ月分。純粋な対象月数はAよりBの方が長いが、Aは「移住を余儀なくされたことによる精神的損害」があるため600万円多い。

 そのほか、Cは180万円(18カ月分)、Dは70万円(7カ月分)。

 なお、A〜Dの要介護者などには、前記の精神的損害に月額1〜2万円の追加がある。要介護者などは「避難生活等における負担が大きい」との判断に基づくもの。

 EとFは自主的避難賠償として、それぞれ12万円と4万円が支払われた。このほか、妊婦や18才未満の子どもには増額があった。

 Gは対象外。

 なお、現状は精神的損害賠償について追加の検討などはなされていないため、ここに記した金額は「確定値」となり、同賠償はすでに終了していることになる

 2つ目は実費等。A〜Dが対象になり、避難・帰還のための交通費・引っ越し費用、一時帰宅費用、家族が離れて避難した場合の面会交通費、避難先の住居の家賃などを請求できる。

 ちなみに、本誌は避難指示が継続されていた際、各地区の住民懇談会などを取材してきたが、そこで配布された資料の中に「住民懇談会出席証明書」が同封されていたことがあった。遠方から出席した住民が、東電に交通費などを請求する際は、それを証拠書類として提出することになるようだ。

 もっとも、これらは避難解除などに合わせて徐々に打ち切られ、原則的には昨年3月までに終了した。ただ、現在も避難指示が続く区域への一時帰宅費用や、県民健康調査による健康診断、放射線検査を受診した際の移動費用などは昨年4月以降も継続されている。

 3つ目は就労不能損害。A〜Dが対象。避難指示区域内に生活拠点や勤務先があった場合で、原発事故がなければ継続して勤務し、得られたであろう収入分などが賠償されるもの。事故前の収入に基づくため賠償額は個々で異なる。ただ、対象期間の目安は定められており、それをまとめたのが表④。これ以降は「やむを得ない個別事情」がある場合は延長されることもある。

 ただ、本誌がこれまでに取材した事例では「1年間(2016年2月分まで)は延長が認められたが、それ以降は認められなかった。やむなくADRを申し立て、一定程度を増額(期間延長)する和解案が示されたが、東電に和解拒否された」といった証言が得られた。

 なお、この証言はBエリアの住民のもの。そこからすると、延長が認められたとしても1年程度で、それ以降も同賠償が受けられたケースは少ないのではないか。少なくとも、現在はほとんどのケースで打ち切りになっていると考えられる。

 4つ目は生命・身体的損害。A〜Dが対象。避難を余儀なくされたことで病気をしたり、持病が悪化した場合などに支払われる。医療費、入通院の慰謝料(1日4200円)、通院のための交通費、生命・身体的損害を受けたことによる就労不能損害などが支払われる。東電の賠償関連リリースを見ると、これは現在も継続して受け付けており、同賠償は続いていることが分かる。

 5つ目は早期帰還。避難指示解除準備区域と居住制限区域のうち、原発事故から4年以内に避難指示が解除された地域で、解除後1年以内に帰還した人が対象。そのため、表①では「Bの一部」と表記した。賠償内容は「避難解除からしばらくは生活上の不便が伴う」といった判断から、早期帰還者に追加賠償が支払われるもの。「1回払い切り」で金額は1人当たり90万円。

多岐にわたる財物賠償

 6つ目は財物。基本的にはAとBが対象。宅地・建物・借地権、住宅確保費用、田畑、宅地・田畑以外の土地、家財、墓石、償却資産・棚卸資産などがある。

 このうち、宅地は「固定資産税評価額×1・43」で算定され、建物は定額評価、個別評価、現地評価から選択することができる。

 本誌が過去に取材したAエリアの住民の事例では、建物賠償は築約40年、建て床面積約90平方㍍で約1050万円、宅地賠償は宅地364平方㍍で約350万円、計約1400万円だったという。

 これは1つの事例だが、A(帰還困難区域)でこの賠償額だから「これでは生活再建を図るのは難しい」といった不満の声が噴出した。そんな中で、宅地・建物の賠償の追加賠償といった位置付けで「住宅確保費用」の賠償が実施された。これは、自宅の修繕・建て替えや、新たな住宅の取得に要した費用が、宅地・建物の賠償を上回った場合、その超過分が支払われるもの。

 田畑や宅地・田畑以外の土地は、「東電が設定した基準単価×面積」で算定された額が賠償される。

 家財は定額賠償となっており、それを整理したものが表⑤。例えば、帰還困難区域(A)で、大人2人と子ども2人の世帯だった場合、基礎額475万円に、加算額が大人2人で60万円×2=120万円、子ども2人で40万円×2=80万円となり、合計675万円になる。これと同じ家族構成で避難指示解除準備区域・居住制限区域(B)の場合だと495万円になり、前者と180万円の差が生じる。

 そのほか、購入額が30万円以上の家具・家電・衣服など(腕時計や宝飾品は除く)は「高額家財の賠償」として、原則1回に限り別途請求することができる。

 墓石は、修理費の20%(最大30万円)と祭祀費用2万円、あるいは移転による墓石購入・墓地工事の実費(最大150万円)と祭祀費用10万円が賠償される。

 償却資産・棚卸資産はA・Bの個人事業主・中小法人が対象。事業用の設備、機械、車両などの償却資産、商品、製品などの棚卸資産に対する賠償で、前者は「帳簿価格×価値減少率または実際の減価償却費から算出した割合」、後者は「帳簿価格」で算定される。

 ちなみに、東電の賠償リリースなどを見ていると、時折「個人事業主・中小法人に限る」というようなフレーズが出てくる。言い換えると、大企業は賠償対象にならない、と。大企業は原発事故の被害がある地域以外で事業展開することにより、利益を回復できるといった観点から、個人事業主・中小法人より賠償範囲が狭められているようだ。なお、ここで言う「中小法人」は「資本金、出資金が1億円以下の法人」を指す。

 このほか、財物賠償の中には自動車の賠償もある。対象エリアはAとBの一部(旧警戒区域=20㌔圏内)。避難による管理不能で故障した自動車や、放射線量が基準値を超えたため避難指示区域外への持ち出しができない自動車に対して賠償される。金額は、中古車市場での同種同等の自動車を取得する場合の費用を元に算定される。

 さらに財物の中には、立木の賠償もあり、これは避難指示区域だけでなく区域外も一部対象に含まれる。避難指示区域内は人工林が1平方㍍当たり100円、天然林が同30円。また、避難指示区域外であっても、しいたけ原木として出荷予定の立木は同賠償が受けられる。

 7つ目は自宅の補修・清掃費。対象はCとD。A・Bの建物賠償、家財賠償の代わりのような位置付け。避難に伴う管理不能によって生じた住宅の補修・清掃費用として、30万円が支払われる。そのほか、実際にかかった費用のうち、東電が合理的と認める範囲の金額で賠償される。

実質終了の営業損害賠償

 8つ目は休業・営業損害。避難指示によって休業を余儀なくされた場合の休業賠償、事業再開後の営業損害賠償、事業継続・再開に伴い余計にかかった費用の賠償(追加的費用の賠償)などのA〜Dが対象のもののほか、農林水産業などの出荷制限に伴う休業・営業賠償、県内全域が対象のいわゆる風評被害の賠償、間接被害の賠償、放射性物質の検査費用などがある。

 商工業の休業・営業損害賠償は、2015年まではおおむね3カ月単位での請求となっていたが、同年から将来分を一括で支払う「一括賠償」が適用された。それに当たり、東電は「直近1年間の減収率に基づき、年間逸失利益の2倍相当額を一括で支払う」としていた。これに基づき、避難指示区域では合意に至ったすべてが「2倍」の賠償を受けられた。

 一方、避難指示区域外では、東電から「2倍」ではなく、「1倍」を提示されるケースが相次いだ。いわゆる「1倍問題」といわれるもので、この間、県賠償協議会や商工団体などが東電に対応を見直すよう要請してきたが、改まることなくここまできた。中には「一括賠償」に至る前の段階で賠償を打ち切られたところもあるという。

 そのほか、一括賠償後の対応(いわゆる追加賠償)については、「やむを得ない特段の事情がある場合は、個別事情を聞き適正に対応する」とされていた。ところが、追加賠償を受けられたのはわずかしかない。

 それらをまとめたのが表⑥。事実上、商工業の休業・営業損害賠償はこれで打ち切りになっている。

 一方、農林水産業に関しては、ルールの変更等はあるものの、いまも賠償が継続されている。

 最後に自主的除染。C〜Gの個人・法人などが対象。C〜Gの除染は市町村が実施主体となったが、そこで生活し続けている中でも、除染の実施までには「順番待ち」の期間があったことから、小さな子どもがいる家庭や、取引先などへの説明材料のために、市町村の除染を待たず、自主的に除染を実施するところもあった。そうしたケースで、除染ガイドラインに従い、業者に委託した場合が賠償対象になる。

消滅時効まで2年弱以上が原発賠償の全容である。

 当然のことだが、A、B、C、D……の順に対象項目、金額が多くなっている。県外の人の中には、福島県全域でA・B並みの賠償がなされていると勘違いしている人もいるようだが、実態はそうではない。

 一方で、原子力損害賠償紛争審査会が策定した中間指針や各追補は合計100頁以上に上り、国の「福島復興指針」に基づく賠償、それらに倣った東電のプレスリリースが200件以上(といっても、その多くは「原子力損害賠償・廃炉等支援機構からの資金交付のお知らせ」だが)と、その数は膨大。そのため、本来は賠償が受けられるのに、見落としている人もいるかもしれない。

 避難指示区域の自治体の賠償支援担当者は以前の本誌取材に次のように話していた。

 「東電の賠償は五月雨式になっていることもあり、項目によっては、未請求であったり、賠償が継続されているにもかかわらず、どこかの時点で漏れてしまったり……ということが起こり得ます。実際、相談・支援業務の中で、住民の方から『これはまだ続いているんだっけ』、『これはどんな内容だったか』、『こんな項目があるのは知らなかった』といった声が寄せられることもあり、住民の方が整理しきれていないと感じることがあります」

 こうして聞いても、項目によっては請求漏れが起きている可能性がありそうだ。消滅時効まで2年を切ったこのタイミングで、あらためて各項目を確認してはどうか。

 原発賠償の主たるものとして、精神的損害と休業・営業損害が挙げられるが、それらを含め、現在はほとんどの項目が打ち切りになっている。ただ、いまの県内状況で原発被害が完全に収束したとは到底思えない。東電には、被害が続く限りは賠償する、といった加害者として当然の対応が求められる。


月刊『政経東北』のホームページをリニューアルしました↓

facebook

https://www.facebook.com/seikeitohoku

Twitter

https://twitter.com/seikeitohoku

よろしければサポートお願いします!!