国民負担は11年間で約18兆円―【春橋哲史】フクイチ事故は継続中⑭
(2021年5月号より)
東京電力・福島第一原子力発電所(以後、「フクイチ」と略)で核災害が起きて以来、オンサイト(フクイチの敷地内)・オフサイト(敷地外)を問わず、事故収束対応や被害者への賠償等で支払いが続いています。
2011~21年度に発生・或いは発生見込みの、フクイチ事故に伴う国民負担の総額は約18兆円です(まとめ参照/注1)。「国民負担」とは、国費・電気料金の合計額を指します(尚、私は「国民負担の低減を目的として、賠償支払いや、現場の資機材購入費・人件費を圧縮してはならない」という立場であることをお断りしておきます)。
この数字は今後も増え続けるでしょうし、現時点で最終的な金額を予想するのは不可能でしょう。確実に言えるのは年間・約1・6兆円、有権者一人当たり月間・約1300円を、これからも負担し続けなければいけないのです。
この金額には、自治体が独自に支出した除染や放射線計測等の予算は含めておらず、「道路改修や区画整備」等、フクイチ事故を起因と見做すかどうか判断に迷うような予算も含めていません。「ほぼ確実にフクイチ事故が原因で支出・或いは支出見込み」の数字を集めたものですから、実際より過少に算出されているでしょう。
何よりも難しいのは、これらの支払いが止められないことです。オンサイトへの支出を止めれば、働く人はいなくなり、必要な資機材は購入できなくなり、敷地内の放射性廃棄物は管理できなくなります。
オフサイトも同様で、賠償や除染は止められませんし、ましてや賠償を値切る・打ち切るのは論外です。
支払い目的や支出に無駄がないかどうかの精査は当然としても、ひとたび核災害が発生すれば、それによる国民負担の桁と規模が常識外れに大きくなることが、この10年間で立証されたと言えます。「無駄な支出・不要な事業」と指摘されている他の支出と比較しても一目瞭然です(リニア中央新幹線の建設費用としてJR東海が借入した金額は約3兆円[注2]、高速増殖原型炉「もんじゅ」に50年間で投じられた予算は約1・3兆円[注3])。
私には「原発には脱炭素等のメリットもある」「原発は安い」と主張する方々の論理が全く理解できません。次の過酷事故が起これば、この国は「核災害二正面作戦」を強いられ、国民負担は単純計算で「1・6兆円/年×2=3・2兆円/年」になります。国民の福利厚生の維持・向上に直結しないことに、このような巨費を投じ続けるリスクを犯す合理的な理由は全く見出せません。
もう一つ指摘したいのは、フクイチ事故後にNDF(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)を新設し、事故の責任事業者である東電に「交付」という名目で巨額の国費を投入するスキーム(枠組み)を認めた国権の最高機関(=国会)の責任です(18兆円の内、NDF絡みの比率が最も大きく、約15兆円に達します)。
これは、発災事業者(東電)を事実上、国費で救済したのと同義で、同時に、賠償・事故収束の責任を東電に巧妙になすり付けたものと言えます。
しかし、フクイチ事故までの間に、原発を推進する為の法律や予算を成立させ、行政に裁量権を認めてきたのは国会ですし、国会にしかできなかったことです。
自らの決定の積み重ねが、国民と国土にどのような結果をもたらしたのか、国権の最高機関として検証もせず、責任も負わず、賠償も事故収束の責任も東電になすり付けた国会の判断は許せません。
個別の党派・議員を批判する紙幅は有りませんが、私は主権者の一人として、NDF設置法案に賛成した国会議員や会派(注4)を、国民の代表とは認めません。
最後に「まとめ」について、お断りです。紙幅の関係でダイジェスト版ですので、より詳細な費目・内訳・出典については、恐縮ですが筆者のブログを閲覧下さい(注5)。
注1
(会計検査院の2018年3月の報告書)
その他、経済産業省・文部科学省・環境省・原子力規制委員会・原子力安全協会・原子力安全技術センター・行政改革推進会議・首相官邸等のWebサイトに基づき春橋作成。四捨五入の関係で数字が合わない場合が有る。
注2
注3
(固定資産税を除く)
注4
2011年8月3日「原子力損害賠償支援機構法案」の参院本会議での投票結果
注5
春橋哲史
1976年7月、東京都出身。2005年と10年にSF小説を出版(文芸社)。12年から金曜官邸前行動に参加。13年以降は原子力規制委員会や経産省の会議、原発関連の訴訟等を傍聴。福島第一原発を含む「核施設のリスク」を一市民として追い続けている。
*福島第一原発等の情報は春橋さんのブログ
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