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ジョーンズ流人材育成術|【生島淳】【スポーツ】東北からの声3

 7月13日、ユアテックスタジアム仙台でラグビーのテストマッチ、日本対ジョージア戦が行われた。

 仙台でラグビー日本代表の試合が開催されたのは2009年のカナダ戦以来15年ぶり。私がこのスタジアムを訪ねたのは初めてのことだったが、素晴らしかった。コンパクトな設計、観客の声援が反響して、自ずと興奮度が高まった。

 町に良いスタジアムがあることは、生活の充実度を高める。またこの場所で代表戦が見られることを楽しみにしている。

 さて、日本代表は敗れたものの、試合内容には評価すべき点も多々あった。

 いま、日本代表は「再構築」をスタートさせたばかりだ。昨年のラグビーワールドカップが終わってから、エディー・ジョーンズ氏がヘッドコーチ(HC)に就いた。ジョーンズHCといえば、15年のW杯で日本代表を率いて南アフリカを破って世界に衝撃を与えたが、それ以来、二度目の就任となる。今回のジョーンズHCの指導ぶりを見ていると、「若手の育成」についていろいろと考えさせられる。

 今年の代表活動期間では選手が大幅に入れ替わった。昨年のW杯まで頑張ってきたベテランが引退、あるいは精神的、肉体的な休養を必要とする選手が少なくないからだ。そこでジョーンズHCは、代表合宿に若手をどんどん招集した。

 「次のW杯は3年後です。そこを見据えてメンバーをプランニングする必要があります」

 今回、注目を集めたのは早稲田大学2年生のフルバック矢崎由高。すべての試合に出場し、しかも存在感を示した。矢崎だけではなく、複数の選手がチャンスをもらった。ジョーンズHCは語る。

 「可能性を秘めている選手を発掘するためには観察が欠かせません。ヘッドコーチへの就任が決まってから、大学、高校の試合をずいぶんと見させてもらい、そこで浮上した選手を今回は呼びました。なぜなら、日本の大学のシステムでは、能力の高い選手たちの育成速度には限界があるからです」

 海外では、高校を卒業するとすぐにプロになる選手もいる。日本のプロ野球を思い浮かべると分かりやすいだろうか。なんでも吸収できる年代に、トップレベルのプレーに触れると成長速度が増す――それがジョーンズHCの育成理論だ。ただし、その時に気をつけなければならないことがあるという。

 「短期間で成果を求めることはせず、中長期的な視点を持って観察する必要があります。若者に失敗はつきものです。ラグビーの場合、大学生のアマチュアがいきなりプロの世界に飛び込んで試合に出場するのですから、必ずエラーをします。重要なのは、エラーを『グッド・レッスン』に変えることなのです。同じエラーを繰り返さないための処方箋をコーチたちが書き、それを練習で落とし込む。そうすれば、二十歳前後の選手たちの成長速度を高められるのです」

 2027年のW杯オーストラリア大会に向け、ジョーンズHCは仙台の地で若手に貴重な体験を積ませた。仙台で蒔かれた種は、きっと実を結ぶはずだ。


 いくしま・じゅん 1967年宮城県気仙沼市生まれ。早稲田大卒。博報堂で勤務しながら執筆を開始し、99年に独立。ラグビーW杯、五輪ともに7度の取材経験を誇る。最新刊に『箱根駅伝に魅せられて』(角川書店)。


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