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続・田村市政の深過ぎる闇

目に余る本田市長の「我田引水」と「偏向人事」


 本誌先月号で、田村市の本田仁一市長(58)と地元業者の仰天親密関係をリポートしたが、市長として肝心な行政手腕はどの程度のものなのか。本誌に聞こえてくる〝本田評〟は「我田引水」「偏向人事」「後は野となれ山となれ」という三つのキーワードだ。

 本誌先月号で、田村市の本田仁一市長(58)と地元業者の仰天親密関係をリポートしたが、市長として肝心な行政手腕はどの程度のものなのか。本誌に聞こえてくる〝本田評〟は「我田引水」「偏向人事」「後は野となれ山となれ」という三つのキーワードだ。

 「ふくしま森林再生事業」という事業をご存じだろうか。

 同事業は、原発事故を受けて汚染状況重点調査地域に指定された40市町村と避難指示解除準備区域を対象に、事前調査や表土流出防止柵などの設置による放射性物質対策、間伐等の森林整備、森林作業道の路網整備を一体的に行うものだ。

 《森林整備が停滞すると、荒廃した森林が増えることが懸念され、水源かん養機能や土砂災害を防止する機能等、森林が有する多面的機能が十分に発揮されず、災害が発生しやすくなるなど、私たちの生活へさまざまな影響が及ぶことが心配されます。

 このため、放射性物質の影響を受けた中・浜通りの森林を中心に、県や市町村等の公的主体が、間伐等の森林整備と表土流出防止対策等の放射性物質対策を一体的に実施し、放射性物質の影響低減、拡散防止を図ることを目的とした「ふくしま森林再生事業」を平成25年度より実施しています》(2015=平成27=年5月1日発行『林業福島』より)

 事業費は全額国庫補助で、放射性物質対策の補助率が100%、森林整備の補助率が72%だが、補助残額は震災復興特別交付税で措置される。

 2013年度から始まった同事業は初年度が19市町村、2014年度が11市町村、2015年度が4町村と、以降、各地で順次取り組まれている。

 ここで注目するのは田村市の取り組み状況だ。

 同市は開始初年度の2013年度から同事業に取り組んでいるが、2019年度までの実績は823・4㌶、投じられた事業費は16億7500万円、県全体に占める同市の割合は9・8%となっている。間もなく終了する2020年度は、いずれも実績見込みで330㌶、4億3300万円、10・9%。さらに2021年度からの10年間では2000㌶、34億円、12・1%を見込んでおり、他市町村に比べ積極的な姿勢が見て取れる。

 この事業に絡んでいるのが「本田市長の会社」だ。

 クライス(田村市船引町船引字臂曲41―1)という会社がある。1999年設立。資本金1000万円。事業内容は石油販売、一般・産業廃棄物の収集運搬、山林立木の売買・植林・伐採・製材・加工・販売。

 役員は代表取締役・菅野誠、取締役・本田譲治、本田龍治、大和田和浩の各氏。

 クライスの旧商号は本田商店で、もともとの本店は田村市常葉町西向字中97―1にあった。当時の社長は本田三八子氏で、2014年にクライスに商号変更後も取締役を務めていたが2018年に辞任。石井三紀子という取締役もいたが、同氏も2020年に辞任した。

 クライスが「本田市長の会社」と言われる所以――それは、本田三八子氏が本田氏の妻で、石井三紀子氏が本田仁一後援会の前会長・石井國仲氏(西向建設工業社長)の妻、取締役の本田譲治氏が本田氏の長男、龍治氏が次男で、本田商店の本店所在地が本田氏の自宅という数々の事実に起因する。

 まだある。クライスの現社長・菅野誠氏の妻・知子氏は政治団体・本田仁一連合後援会の事務担当者、同社の本店が置かれている船引町船引字臂曲41―1は本田氏の個人事務所と同じ住所だ。

 本田氏は本誌先月号で「本田氏が実質オーナーのクライスが東部産業団地の立木伐採工事の下請けに入っている」と質問すると「クライスが私の会社という事実はない」と否定したが、役員に〝本田家〟が勢揃いしているのに無関係を装うのは無理がある。

 そんなクライスとふくしま森林再生事業とのかかわりは、同市(本田氏)から田村森林組合(常葉町)とふくしま中央森林組合(都路町)に同事業の一切が発注され、その下請けに同社が入るというものだ。

 市内の事情通が解説する。

 「田村地方の民間林業業者は、クライスと三春町に個人事業主が一人いるだけ。こうした中で同事業を二つの森林組合で受注しても仕事量が多過ぎてさばき切れないため、下請けのクライスに自然と〝還流〟する構図になっているのです」

 市からクライスに直接仕事を回すのは、流石に露骨すぎる。そこで本田氏は、市と同社の間に森林組合を介在させ「我田引水」をカムフラージュしているわけ。

 面積が違うので単純比較は難しいが、各市町村が国に提出した2021年からの10カ年要望を見ると、同じ田村地方の小野町は事業見込みを150㌶、三春町は295㌶としているのに対し、同市は前述の通り2000㌶と桁違いの見込みを示している。県全体では10カ年で1万6520㌶と見込んでいるので、その12・1%に当たる同市の2000㌶は余計に際立って映る。

 「田村市は林業が盛んな都路町を抱えており、市全体に占める森林面積も広いため、事業見込みが高い数値になるのは仕方ない面もある。ただ、今までの実績が年平均145㌶だったことを踏まえると、今後10年間で同200㌶というのはかなり大規模だ」(同)

 いずれにせよ、クライスにとってはしばらく安泰が続くことになる、と。

 クライスの決算は別表①の通り。本田市長が就任したのは2017年4月だが、時を同じくして2018年3月期(2017年度)決算から売り上げ、当期純利益とも大幅に増やしているのは単なる偶然なのか。

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異様な定年前退職者数

 同市昨年12月定例会で、半谷理孝副議長(5期)が冨塚宥暻前市長の後年3年間と本田市長の就任後3年間の、職員定年前退職数とその理由を質問する場面があった。答弁によると、冨塚前市長時代の2014年度は6人、2015年度は4人、2016年度は7人、計17人で、本田市長が就任後の2017年度は6人、2018年度は18人、2019年度は17人、計41人と冨塚前市長時代の2倍以上に増えていた。退職理由は2018年度の1人が死亡によるほかは全員自己都合だった。

 半谷議員は、本田市政になってから定年前退職者が急増している理由を「人事評価制度と通年人事の影響ではないか」と再質問したが、執行部は「職員それぞれが将来や生活設計に基づいて考えた結果と推察している」と述べるにとどめた。

 実は、2018年度に死亡した職員は足に少し障害があり、それまでは体調を考慮した部署に配属されていた。ところが同年度の人事異動で、この職員の体調では勤務が容易でない部署に配属が決定。職員は辞令交付日に自殺したという。

 遺書はなく、遺族も黙して語らないが、職員の間では「理不尽な人事のせいで自殺したに違いない」とウワサになった。

 それ以外の定年前退職者は、表面上は自己都合かもしれないが、実態は本田氏の圧力に屈し、市役所内で居場所を失って定年前退職に追い込まれていたというのだ。

 象徴的な出来事が、本田市長が就任直後に行った人事だ。当時の課長を部長に昇格させる一方、部長は新しい役職に追いやられた。当時の総務部長は「行財政改革推進監」、教育部長は「債権管理対策監」という具合だ。

 「新しい役職は部長待遇で『〇〇監』という響きはもっともらしく聞こえるが、現実は部下が一人もいない窓際人事だった」(当時を知る市役所関係者)

 本田氏の狙いは、冨塚前市長時代の幹部職員を排除し、自身に近い職員を要職に据えることだった。

 「いくら気に入らない職員でも市長が好き勝手にクビにはできないので、自ら辞めたくなるような人事を繰り返したのです」(同)

 そういう締め付け人事をされたら市長に面と向かって苦言を呈する職員はいなくなり、イエスマンだらけになってしまう。

 「人事評価制度と通年人事は上手に使えば組織が上向くが、本田市長の場合は自分の都合で巧みに使っている」(同)

 本田氏は人事について適材適所を強調しているが、通年人事を盾に職員を頻繁に異動させるため「適材適所ができていれば頻繁に異動させる必要はない。裏を返せば、適材適所の人事ができていない証拠」と揶揄する声も聞かれる。

 人事評価制度が正常に機能し「あの人はふさわしい」という人物が昇進すれば職員も納得するだろう。ところが、本田市政の人事は「本田氏と同級生」とか「ゴマすり上手」とか、能力や経験に関係ない理由で昇進するケースが見られるため、職員の多くがシラけ切っている。

市長側近が暴力事件

 職員のモチベーション低下は市役所に閉塞感を漂わせ、その影響はやがて市民サービスの質低下にもつながっていく。「余計なことをして市長に怒られるのは損だから、言われたことだけやろう」という内向きの職員が増えれば、良い仕事ができるはずもないので、市民サービスの質が上がらないのは必然だ。

 「偏向人事」の悪影響は職員にとどまらず、最後は市民に波及することを知っておくべきだ。

 余談になるが、人事の歪みが表面化する出来事も起きている。

 昨年12月8日夜、田村市大越町の飲食店で暴力事件が発生した。そのとき、店内では数グループが飲食していたが、そこにいたのが〝事件当事者〟でもある同市大越行政局長の鈴木勝利氏だった。

 本誌先月号でも触れたが、鈴木氏は本田氏と同級生で、イエスマン筆頭。同市常葉町で現在工事が進められ、何かと疑惑が囁かれている「田村市東部産業団地」(事業費107億3800万円)では所管の産業部長を差し置いて、なぜか鈴木氏が責任者を務めている。もちろん、登用したのは本田氏だ。

 関係者によると、鈴木氏は客の世間話を自分への悪口と勘違いし、その客をいきなり蹴飛ばしたという。蹴られた方は当然激怒したが、それを見た別の客が「ケンカなら外でやれ」と注意したことでさらにヒートアップし、最終的に鈴木氏と客2人の計3人が店外に出て行った。店内の客には、人が壁に打ち付けられたような音が聞こえるなど、3人がトラブルになっている様子が伝わってきたという。

 これに慌てたのが店内に居合わせた鈴木氏の妻で、妻は電話で知人を呼び、迎えの車に鈴木氏を乗せて帰宅させたという。目の前からケンカ相手が消えた客2人は怒りが収まらず、店内に戻ると別のトラブルに発展。最後は店主が警察に通報する事態となり、パトカー2台に警察官4人が駆け付ける大騒動となった。

 結局、誰も被害届を出さなかったため事件化は免れたが、最初に鈴木氏に蹴られた客は知人を通じて本田氏に抗議し、本田氏が後日謝罪する場面もあったという。

 一方、店外で鈴木氏とやり合った客2人は、当初は怒りが収まらない様子だったのに、現在は鈴木氏とのケンカを否定し、残った傷跡は「自分で転んでケガをしただけ」と釈明しているという。

 暴力事件があった12月8日は、同市12月定例会の会期中だった。幹部職員は会期中の飲酒は控えるのが通例だが、鈴木氏は飲み歩いていただけでなく市民に暴力を振るっており言語道断。公務員(社会人)にあるまじき行為は市議会内からも問題視する声が上がっており、詳細調査の動きも出ている。

後は知ったこっちゃない

 本田氏自身も認めているが、同市の財政は極めて厳しい状況にある。

 県が地方自治法に基づき行った財政診断(結果公表2018年12月)によると経常収支比率(※)は2010年度81・4%だったが、2016年度以降90%を超えて推移する見込み。合併市町村への特例措置(合併特例債)もなくなり、基金残高も落ち込む見通しだ。県から「歳出削減・歳入確保対策が必須」と迫られたことを受け、本田氏は「たむら財政危機」を宣言、「あれもこれも」から「あれかこれか」への転換を図ることを表明した。

 にもかかわらず、同市の財政は本田市長就任後、悪化の一途を辿っている。本誌が注目したのは実質単年度収支だ(別表②参照

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 田村市の発足は2005年3月。従って2005年度以降の実質単年度収支を見ていくと、冨塚前市長時代の12年間の合計は7億8300万円の「黒字」となっているが、本田市長が就任後の3年間の合計は一転11億6200万円の「赤字」に陥っている。

 不思議なのは、2016年度が2億1300万円の「赤字」で、2018年度も10億1100万円の「赤字」なのに、間に挟まれた2017年度が9500万円の「黒字」になっていることだ。

 実はこれにはカラクリがあって、本田氏は2016年度までで8億0300万円積み立てていた土地開発基金に関する条例を廃止し、そのお金を丸々2017年度予算に組み入れたため、本来は赤字になるところを9500万円の「黒字」に転換させたのだ。つまり同基金がなかったら、同年度は7億円の「赤字」だった計算になる。

 冨塚前市長時代と本田市長就任後では経済状況や社会情勢が大きく異なるので、単純な数字の足し算だけで本田市政下の「赤字」を批判することはできないが、少なくとも東部産業団地を筆頭に、今後は市民病院やごみ焼却施設などを新設するというのは〝赤字自治体〟のやることなのだろうか。「財源は補助金や基金なので市の懐は痛まない」という反論もあろうが、ハコモノは恒久的に維持管理費がかかる。国はつくる金の面倒は見るが、維持管理の金は一切見てくれない。

 もちろん、財政が厳しくても市民生活に不可欠な施設であれば、つくることに反対はしない。しかし、その事業を請け負う業者が本田氏の有力支持者だったり前述・クライスのような「自分の会社」では、市民は到底納得しないだろう。

 市民からは、こんな真っ当な意見も聞こえてくる。

 「本田市長は財政が厳しいという理由で市内の各種団体への補助金を減らしたり、今まで継続してきた事業を中止している。一方で、今後は大型事業の連発が予想され、有力支持者の建設会社やクライス、さらに言うと出身地である旧常葉町にせっせと仕事を回している。その姿は、自分が市長でいるうちに〝身内〟に甘い汁を吸わせ、自分が辞めた後は知ったこっちゃないという『後は野となれ山となれ』の行政運営をしているようにしか見えない」

 さて、同市長選は4月11日投票で行われ、再選を目指す本田氏と新人で市議・白石高司氏の一騎打ちが濃厚となっている。現職は2期目の選挙で最も強さを発揮するが、そこを打破すべく、白石氏は連日市政刷新を訴えている。

 投票日まで残り2カ月。有権者の判断は如何に。


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