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参院広島再選挙の影響―【横田一】中央から見たフクシマ90

(2021年6月号より)

 福島原発事故がまるでなかったかのように原発再稼働に突き進んだ安倍前政権を継承する菅政権(首相)が4月25日、退陣に追い込まれる可能性が一気に高まった。トリプル選の天王山であった参院広島選挙区再選挙で、実質的な野党統一候補の宮口治子氏(立民・国民・社民推薦)が自民党公認の西田英範氏(公明推薦)を破って初当選したのだ。ここで敗れれば、「菅首相では選挙を戦えない」として〝菅降ろし〟が始まる可能性があると見られていたが、官邸が最も恐れる事態が現実化。投開票日の12日前の4月13日に菅首相は放射性物質トリチウムを含む汚染水の海洋放出を決定したが、実施まで約2年かかることから政権交代によって海洋放出を阻止できる道筋が見えてきたともいえるのだ。

 広島再選挙で、野党系候補の宮口氏の奇跡的勝利が確定したのは、開票作業がスタートして約3時間後の23時前。NHKが「当選確実」を出すと、まず選挙事務所の外に集まっていた支持者から歓声が湧き起こり、続いて事務所内に伝搬したのだ。

 すぐに近くで待機していた宮口氏が事務所に到着し、コロナ禍で入場制限された支援者とグータッチをした後、「結集ひろしま」代表の佐藤公治・立民県連代表(広島6区)や選対本部長の森本真治参院議員らと並んで万歳三唱を繰り返した。

 続く挨拶では、目に涙を浮かべながら「皆様、本当にありがとうございました」と感謝しながら、「小さな声をしっかりと聞いていきたい。この気持ちを忘れず、皆様のお役に立ちたい」と決意表明をしたのだ。

 菅政権には大打撃だ。先月号でも紹介した通り、広島は〝保守王国〟で基礎票では与党が野党を大きく上回り、再選挙のきっかけとなった2019年参院広島選挙区(定数2)では自民二候補の得票率の合計が57・5%に対して、野党系二候補の得票率は39・2%と1・5倍弱の違いがあった。だからこそ自民党は、擁立断念の衆院北海道2区補選と〝弔い合戦〟で敗北必至の参院長野選挙区に比べて勝利が見込める広島再選挙を最も重視、総力戦を展開したのにまさかの敗北を喫したのだ。

 宮口氏を支援した野党は勢いづき、政権交代の可能性は確実に高まった。立憲民主党の枝野幸男代表は3週連続で広島入りをして応援演説。政治とカネの問題に加えて、菅政権のコロナ対策の失敗を厳しく批判した。封じ込めに成功した3カ国(台湾・ニュージーランド・オーストラリア)のゼロコロナ対策を紹介した上で、政権交代で我々に任せれば、感染拡大の収束が実現できると訴えたのだ。

 当確後の囲み取材で、宮口氏に「コロナ対策が一つの追い風になりましたか? (菅)政権のやり方がひどいと枝野代表らが批判していたが」と聞くと、こう答えた。

 「封じ込めに成功している海外の国、台湾を含めてありますから、そういったところでできて、どうして日本で出来ないのかと思います。(菅政権のコロナ対策への批判も)手応えとして感じました」

 広島再選挙での与党敗北は、政権交代の現実味を有権者に印象づける絶好の機会になった。今回の選挙母体となった「結集ひろしま」代表の佐藤衆院議員は、「広島再選挙では、党派を超えた人たちが結集して勝利となった。これを各地に広げて『結集日本』を目指したい。広島から日本の政治を変える」と意気込んだ。 この〝広島モデル〟が次期総選挙までに全国に広がっていけば、多くの福島県民が望む原発ゼロ社会の実現や汚染水の海洋放出阻止が現実味を帯びてくるのだ。今後の与野党の攻防から目が離せない。

フリージャーナリスト 横田一
1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた「漂流者たちの楽園」で1990年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。


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