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廃棄物関係の情報の幾つか・その後|【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中㊷

 今回は、当連載でお伝えした事のフォローアップとして、東京電力・福島第一原子力発電所(「フクイチ」と略)に関する放射性廃棄物の情報を複数取り上げます。

 1、減容処理設備の竣工は、早くても2024年1月

 減容処理設備は、連載36回・40回で取り上げました(注1・2)。

 建屋内の一部で、設計通りに気圧を負圧(外側よりも気圧が低い状態)に保てないことが確認され、竣工時期が未定になっていました。

 東電が6月29日に公表したところによると、原因が特定されたので、設計を見直すそうです。竣工時期は2024年1月、運用開始は同年2月を想定しており、28年度を目標としている「瓦礫類の屋外保管の解消」に影響を及ぼさないよう、2交代勤務での運用等を検討するとのことです(注3)。

 減容処理設備は元々、2023年3月の竣工予定でしたが、同年5月へ、更に24年1月へと、2回・計10カ月も後ろ倒しされました。

 建屋内の気圧の問題は、大熊分析・研究センター第一棟に続いて2回目です(この際も、建屋内を負圧に保てない事象が確認され、竣工が2021年6月から22年10月へと、約1年4カ月遅延しました)。

 好い加減にして欲しいですね。

 2、既設・増設焼却炉の運用状況

 雑固体廃棄物焼却設備(以後「既設焼却炉」)・増設雑固体廃棄物焼却設備(以後「増設焼却炉」)は、連載40回で取り上げました(注2)。

 使用済み保護衣を焼却している既設焼却炉は、A・Bの2系統とも、今年1月末前後から年次点検に入っており、腐食・減肉に関する対応を取った後、7月中に運転再開の予定でした。

 ところが、7月13日に冷却水循環ポンプの故障が確認されました(注4)。交換に半年程度を要するとのことです。

 しかも東電は、ポンプ交換に要する期間を自ら公表していません。7月24日に原子力規制委員会で開催された「第108回 特定原子力施設監視・評価検討会」で、原子力規制庁・福島第一原子力規制事務所の小林隆輔所長が説明して、初めて明らかになりました。

 更にこの会議で、東電の金濱秀昭部長(福島第一原子力発電所 廃棄物対策プログラム部)が「一時的に使用済み保護衣の屋外保管量が増えること」を認めました(注5)。

 東電が策定した計画(注6)では、使用済み保護衣の屋外保管解消時期は「2023年度頃」とされています。

 既設焼却炉が1年近く停止し、屋外保管量も増えることが確実な状況で、目標が達成できるのでしょうか?(使用済み保護衣の屋外保管量は2023年1月末に1万3900立方㍍まで減少した後に増加に転じ、6月末で1万8900立方㍍)

 ポンプ等の予備品もどうして確保しておかなかったのか。設備の保守・保全計画の妥当性も疑われます。

 尚、増設焼却炉は6月に運転を再開し、伐採木を焼却しています。

 3、ALPSスラリーのHICからの抜き出し

 ALPS(多核種除去設備)で生じるスラリーの安定化処理(HIC[ヒック]からの抜き出し・脱水)については、連載34回で取り上げました(注7)。

 東電は、安定化処理を2026年度に開始する目標で設備の詳細設計を進めていますが(注8)、そもそも「HICからのスラリーの全量抜き出し」すら、明確な見通しが立っていません。

 一部のHICについては、2021年8月以降、別のHICへのスラリーの移し替えが行われています(23年7月下旬までに58基終了)。その過程で判明したことを含め、23年7月までに、東電から原子力規制委員会へ、以下のことが報告されました(注9)。

 ①スラリーを抜き出したHICの底部に、粘度の高い固形物が残留(=全量が抜き出せていない)。

 ②残留物を水流で攪拌すれば流動性が高まる(2基のHICで確認)。

 ③今年9月までに、模擬スラリーに水流を添加しての抜き出しのモックアップ試験を実施し、24年度に実スラリーを用いた試験を実施。
 モックアップ試験の結果を含め、この設備設計の進捗は特に注視すべきでしょう。

 本稿の最後に、所謂「ALPS処理水」の海洋への希釈放出開始について触れない訳にはいきません。

 政府は、8月22日に2つの関係閣僚等会議を合同開催し、海洋放出を最短で8月24日に開始する事を決定しました(注10)。

 同日には、東京電力もリリースを出しました(注11)。

 今回の決定は「原子力複合体」(注12)のゴリ押しの結果なのでしょうけども、私は、「原子力複合体の勝利」と言うより、「(この国の)主権者の不戦敗」と見ています。主権者が「公的チャネルで意思を表明しない」「プロセスを監視しない」ことの積み重ねの結果でしょう(「不戦敗」の詳細は連載39回(注13)を参照)。

 注1/36回・23年3月号

 注2/40回・23年7月号

 注3/減容処理設備空調バランスの不具合に伴う竣工遅延について

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/osensuitaisakuteam/2023/06/06/3-4-3.pdf

 注4/東電のリリース。「パフォーマンス向上会議情報(23年7月19日)」

https://www.tepco.co.jp/decommission/data/deviation/archive/pdf/2023/230719-j.pdf

 注5/会議の動画。(小林所長の指摘と金濱部長の発言は2時間9~12分)

 注6/福島第一原子力発電所の固体廃棄物の保管管理計画23年2月版

https://www.nra.go.jp/data/000420893.pdf

 注7/34回・23年1月号

 注8/ALPSスラリー安定化処理設備の建設工程(23年3月20日、東電資料)

https://www.nra.go.jp/data/000423967.pdf

 注9/HIC内スラリー抜出装置の検討状況(23年7月24日、東電資料)

https://www.nra.go.jp/data/000441949.pdf

 注10/「第6回廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議」「第6回ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議」資料

 注11/多核種除去設備等処理水の海洋放出にあたって

https://www.tepco.co.jp/press/release/2023/pdf3/230822j0101.pdf?fbclid=IwAR2Jo1bjHVmcMjM84_tiECsz4YtFEDPGjOfSVl5eLODN1UBInyTieAAxRmY

 注12/「軍産複合体」になぞらえた、筆者の造語

 注13/39回・23年6月号


春橋哲史 1976年7月、東京都出身。2005年と10年にSF小説を出版(文芸社)。12年から金曜官邸前行動に参加。13年以降は原子力規制委員会や経産省の会議、原発関連の訴訟等を傍聴。福島第一原発を含む「核施設のリスク」を一市民として追い続けている。


*福島第一原発等の情報は春橋さんのブログ


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