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見通しの立たない「ALPSスラリー」の安定化処理―【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中㉞

 東京電力・福島第一原子力発電所(以後、「フクイチ」と略)では、ALPS(多核種除去設備)による汚染水(放射性液体廃棄物)の処理(放射性核種の濃度低減処理)が続けられています。

 今回は、ALPSの稼働に伴って生じている「スラリー」(泥状の廃液/注1)の保管容量・安定化処理を取り上げます。

 「スラリー」については若干、解説が必要でしょう。

 ALPSは、液体中の放射性核種を除去するもので、消滅させるものではありません。液体から除去された放射性核種は、吸着材やスラリーに移行します。使用済み吸着材やスラリーは「水処理二次廃棄物」で、放射性核種が高濃度に圧縮された高線量廃棄物です(注2)。剥き出しでは周囲の放射線量が高くなるので、ポリエチレン製の「HIC(ヒック)」と呼ばれる容器に詰められます。

 HICはコンクリート製の「ボックスカルバート」に収納され、そのボックスはフクイチ構内の「使用済みセシウム吸着塔一時保管施設」に保管されています。

 以上が、ALPSの運転から水処理二次廃棄物の保管までの簡単なフローです(ポンチ絵も参照願います。尚、スラリーには複数の種類が有ります。ALPSには既設・増設・高性能の3種類が有り、高性能ALPSではスラリーは発生しません。本稿では簡略化の為、それらの違いは割愛しています)。

 フクイチでは、HICの保管容量が限界に近づいています。

 東電が原子力規制委員会に提出した資料(注3/2022年8月19日)には「(HICの)保管容量がひっ迫し、水処理設備運転に支障をきたす」可能性が有る旨が記載されています。 




 これは、ALPSの稼動に関わる由々しき問題です。

 HICの保管場所が尽きれば、水処理二次廃棄物を持っていく先が無くなりますから、「ALPSで廃棄物を発生させられない」=「ALPSが運転できなく」なります(HICの保管基数推移と、今後の見通しは「まとめ1・2」を参照/東電の資料に基づき作成)。

 HICの保管容量が逼迫しているのは、スラリーの安定化処理(HICか
らの抜き取り・脱水)が始められていないのが大きな要因です。

 東電は、HIC内のスラリーを抜き取り、空HICを洗浄して再利用する方針です(注4)。ところが、安定化処理設備の設計が大幅に遅延しており、2021年度開始予定が、未だに設備の詳細設計すら固まっていません。現時点では、24年度開始予定の工程が提示されていますが、これは22年度中に見直す見込みです(注5)。

 そもそも「HIC内のスラリーを全量抜き取れるのか」という根本的な疑問が生じています。

 2021年9月から、一部のHICについてスラリーの移し替え(注6)が開始されているのですが、22年11月までに処理した27基全てで、スラリーの固形分の一部がHIC下部に残留しており、「内容物全量の移し替え」はできていません。残留している固形分をHICから掻き出す確たる方法は見出せていません。

 安定化処理設備が稼働しなければ、スラリーを詰めたHICが増え続けます。フクイチの敷地内でHICの保管容量を増やしても、問題の後送りに過ぎませんし、敷地内での保管容量の確保は物理的に限界があります(「処理水」用貯留タンクの増設問題の繰り返しですね)。又、HICを永久に保管し続けることもできません(廃棄物を保管したHICの耐用年数は、放射線による脆化の関係で20年程度と推定されています)。

 状況によっては、安定化を先送りし、スラリーの水分を抜き取って、漏洩リスクの低減を優先することになるかも知れません(原子力規制委員会の検討会での伴信彦委員の発言に基づく/注7)。

 ALPSスラリーの安定化処理は、恐らく、世界初の取り組みでしょう。処理すべきスラリーの総量も不明確で、漏洩や被曝の防止を考慮しつつ、稼働率が低くてもいけません。東電が安定化設備の設計に苦労する事情は理解しますが、結果として「放置」になることは断じてあってはなりません。

 スラリー安定化処理設備の設計・設置の成り行きは、フクイチの今後を大きく左右するでしょう。

 注1:slurry 水と固形物の混合物

 注2:スラリーの主要核種であるストロンチウム90の濃度は高いもので1立方㌢当たり数千万ベクレル

https://irid.or.jp/wp-content/uploads/2018/03/20180329.pdf

 注3:

https://www2.nra.go.jp/data/000402234.pdf

 注4:抜き取り・脱水後のスラリーはパンケーキ状になると想定。HIC数基分の「パンケーキ」を別容器に収納し、敷地内の別の場所に保管(「パンケーキ」の処分方法は別途検討)。スラリーの脱水で生じた廃液や、空HICの洗浄液は、ALPSで処理。
 

https://www.nra.go.jp/data/000277900.pdf

 (2019年7月22日付東電資料より)


 注5:

https://www.nra.go.jp/data/000408201.pdf

 (2022年10月21日付東電資料/21頁より)


 注6:強い放射線に長期間晒され続けた一部のHICが脆化で破損する可能性がある。スラリーの漏洩を防止する為に新たなHICへ移し替え。

https://www.nra.go.jp/data/000354783.pdf

 注7:「第102回 特定原子力施設監視・評価検討会」(2022年9月12日)議事録53~54頁
 

https://www.nra.go.jp/data/000407303.pdf


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