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【義母と娘のブルース】【桜沢鈴】なかなかのイナカ 奥会津移住日記⑧

田舎を「牢獄」に変えたコロナ禍


 新型コロナウイルスの感染状況が悪化の一途をたどっていた時、大都会の緊迫した様子が毎日ニュースで流れてきた。

 東京の友人達のSNSからもピリピリした様子が伺え全員がストレスを抱えて生きていたと思う。

 そんな中、奥会津の小さな集落は都会と比べるとかなり「のほほん」としていたと思う。

 もちろん消毒はきっちり、おしゃべりも距離を保って、自分一人しかいない路上でもマスクを着けるくらいの警戒感を皆さん持っていたが、都会の緊張感とはケタ違いだったと思う。

 ただ唯一怖いのは、まだ感染者が出ていないこの街で最初の感染者になってしまう事だった。

 高齢者の多いこの村でもし他者に感染させてしまったら……そう考えると本当に背筋が凍る。

 夫婦ともにPCにかじりついて仕事をする私たちは普段からあまり外に出ない、人と接しない生活を送っていたので、コロナ渦の中でもあまり変わらない生活を送ることができた。

 そして都会への出張を全て中止し、さらにさらに引きこもる状態になった。

 最初、特に問題なく過ごした。「さすが私たちはプロの引きこもりだ」と余裕を持っていたが、数カ月経つと状況が変わってきた。

 雄大な自然に囲まれて生きているのに、牢獄で生きている気分になってきたのだ。

 畑の作物しか変化の無い毎日。1日3食、2人分の食事を作り続けるのにも飽き飽きしてきた。都会ならばたまにテイクアウトとか、今流行りのウーバーイーツで気分転換できるがそれが出来ない。

 夫は毎日のようにテレカン(遠隔会議)で仲間や取引先とやりとりしている。同じ部屋にいる私は集中出来ないのだが、喫茶店に逃げ込むこともできず行き場がない。

 何より毎日24時間、お互いに顔を突き合わせていると、だんだん相手の細かな嫌な所が気になってくる。大げんかとはならなかったが、家の中の空気が険悪になっていた。

 この場所から飛び出したい! 都会に行きたい! 誰かが作ったものが食べたい!  もう限界だ!

 そんな爆発寸前の2021年、コロナワクチンが完成し全国で接種がスタートした。まだ供給量が足りず医療従事者さえ全員打ち終えていない状況の中、人口が少ない我が自治体はいち早く高齢者がワクチンを打ち終え、若年層にもスピーディーに順番が回ってきたのだ。

 拍子抜けするほど早すぎて、なんだか申し訳ない気持ちになった。だけど打てる人間が打っておく事で他の方にも早く回るだろう。そう思い、かなり早く接種をさせて頂いた。

 2回目の接種時、頭痛と38・5度の熱が2日間ぐらい続いたが、「あ、もうすぐ自由に動けるぞ、友人や家族と会えるぞ」、そう思うだけで精神的にものすごく余裕が持てた。

 調子が良いもので、今では田舎は牢獄ではなく、景色が毎日移ろいゆく素晴らしい場所だと感じている。

 自治体の皆様、医療従事者の皆様、本当にありがとうございました。

 このコロナ禍、私はとても幸運で、もっと大変な思いをした方ばかりかと思います。全ての方にお見舞いを申し上げます。この先も良い状況が続きますように。

さくらざわ・りん 大阪府出身。漫画家。7年前に会津若松市に移住し、現在は奥会津で暮らす。代表作『義母と娘のブルース』はドラマ化されて大ヒットした。



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