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再びノーを突き付けられた菅政権―【横田一】中央から見たフクシマ91

(2021年7号より)

 多数の福島県民が望む「原発ゼロ」の民意を無視する菅政権(首相)が、再び「NO!」を突き付けられた。4月25日投開票のトリプル選全敗に続いて、与野党激突の「静岡県知事選」(6月20日投開票)でも自民推薦候補の岩井茂樹・前参院議員(前国交副大臣)が現職の川勝平太知事(立民・国民・連合静岡などが支援)に大差で敗れたのだ。

 「菅首相では選挙が戦えない」という声が自民党内で広まって〝菅降ろし〟の気運がさらに強くなりかねない選挙結果。福島原発事故がまるでなかったかのように再稼働に突き進む菅政権が退陣に追い込まれる可能性がこれまで以上に高まったともいえるのだ。

 川勝知事の当確が出たのは20日20時。開票を見届ける会場のスクリーンに「当選確実」が映し出されると、駆け付けていた支援者から歓声や拍手が沸き起こった。近くで待機していた川勝氏がすぐに姿を現し、選対関係者らと肘タッチをした後、万歳三唱を繰り返した。

 続いて川勝知事は「水の問題は地球全体の問題であり、そのシンボリックな問題が南アルプスの水を守れるかどうか、自然環境を守れるかどうかを託されていると思う」と挨拶、選挙戦を振り返っていった。最大の争点は、自民党が公約にも掲げるリニア中央新幹線。安倍前政権が財政投融資で3兆円をJR東海に貸し付けたリニアを菅政権は引き続き推し進めているが、これに対して川勝知事は南アルプスを貫くトンネル工事によって環境破壊や下流の大井川の水不足を懸念、「命の水を守る」と訴えながらJR東海の工事着工を認めてこなかったのだ。

 国策推進の障害になっている川勝県政に終止符を打つべく菅政権は、建設業界出身で国交副大臣でもあった岩井氏を“刺客”として送り込んだが、返り討ちにあってしまった。国策ゴリ押しに静岡県民が「NO!」を突き付けたともいえるのだ。

 強大な自民党が相手の県知事選を川勝知事は「怪物対ネズミ」とたとえた。実際、自民党は得意の企業団体選挙を展開。岸田文雄・元政調会長や茂木敏充・外務大臣、林芳正・元農水大臣ら大物政治家が続々と静岡入りをしてマイクを握り、選挙戦最終日には加藤勝信・官房長官が大票田の浜松市で応援演説をするほどの力の入れようだったのだ。

 自民党がトリプル選で最も力を入れた広島再選挙と同じ光景が出現してもいた。岩井氏の街宣場所には、ユニフォーム姿の建設業者らがずらりと並び、「司法書士会」「土地家屋調査士会」などの旗を持った支援団体関係者の姿も目に入った。地元の市町村長や地方議員が勢ぞろいしたのも広島と同じだったが、それでも自民推薦候補は川勝知事に30万票以上の大差をつけられたのだ。

 ちなみに静岡は県内8小選挙区のうち自民系が7つを占める“保守王国”だが、それなのに野党系川勝知事は自民推薦候補の62万票の1・5倍も得票した。与野党の基礎票からは想定できない逆転現象が起きたともいえるのだ。自民党関係者から「衆院選への悪影響は避けられない。総括すべきだ」という声が出たのは当然のことだった。

 今回の静岡県知事選は「民意を無視して国策ゴリ押しをしようとすると、有権者から手痛いしっぺ返しを受ける」ことを物語るものだ。福島県民を勇気づける選挙結果でもある。放射性物質トリチウムを含む汚染水の海洋放出(予定は2年後)を強行しようとする菅政権に対して、次期総選挙で「NO!」を突き付ければ、政権交代で国策強行阻止が可能になるということだ。今後の与野党の攻防が注目される。

フリージャーナリスト 横田一
1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた「漂流者たちの楽園」で1990年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。

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