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地元でも信頼失墜の菅首相―【横田一】中央から見たフクシマ93

(2021年9月号より)

 福島原発事故がまるでなかったかのように原発再稼働に突き進んだ安倍政権継承の菅政権が瓦解する気運が高まっている。内閣支持率が30%割れで過去最低を更新。菅首相(神奈川2区=横浜市西区・南区・港南区)のお膝元である「横浜市長選(8月22日投開票)」でも全面支援する盟友の小此木八郎・元国家公安委員長がまさかの敗北を喫したのだ。知名度と政党基礎票で劣る元横浜市立大学教授の山中竹春候補(立民推薦、共産・社民支援)に楽勝して当然の態勢だったのに、菅首相の不人気ぶりが祟ってしまった形なのだ。

 「横浜へのカジノ誘致取り止め」を掲げて出馬表明をした小此木氏は当初、市長選が敗色濃厚で危機的状況だった菅首相を一気に救う役割を果たすかのように見えた。

 出馬表明前は「菅首相直系のカジノ推進候補(自公推薦)」対「野党系のカジノ反対候補」という構図になることが確実視され、世論調査では常にカジノ反対の市民が多いことから野党有利とみられていた。しかし与党候補が敗北した場合、「お膝元の市長選で勝てない菅首相」「選挙の顔として失格」という烙印を押される恐れが十分にあった。

 こうした中、不人気政策のカジノ誘致を取り下げた小此木氏の出馬で、構図は一変。カジノ反対候補との違いをなくす“争点潰し(隠し)”選挙を仕掛けたともいえるのだ。

 市長選の構図激変について畑野君枝・衆院議員(共産党)は7月25日、立憲民主党推薦の山中竹春・元横浜市立大学教授が挨拶した決起集会で次のように説明した。

 「これまでカジノ推進で林文子市長を支えてきた自民党と公明党は、市民の『カジノ誘致反対』『勝手に誘致を決めるな』という大きな声を前に行き詰まり、こっそりと『カジノ誘致撤回』という候補の支援に回るという驚くべき状況が起こっています。何よりもカジノ誘致推進を進めた張本人の菅首相が、『横浜へのIR取り止め』という小此木さんに対して『私は小此木さんのぶれない信念と横浜の未来への責任ある決断を支持します』という推薦状を各団体に送っているのです」

 菅首相は7月29日発行のタウン誌でも小此木氏と対談、「全面的かつ全力で応援する」と明言した。これは、菅首相に救いの手を差し伸べた小此木氏への恩返しに違いない。しかも自民党の横浜市議36名中30名と県議全員が小此木氏を支援、公明党も小此木氏を応援し始めた。首相の号令一下、瞬く間に自公推薦に近い盤石の態勢が築かれたのだ。

 これで一気にトップに抜け出るかとも思えたが、実際は「山中氏、小此木氏、林氏横一線」(8月15日の読売新聞)と三つ巴の戦い。自民党市議のうち林氏支援に回ったのは6名であることから単純計算すれば、市議の8割以上が推す小此木氏が4倍以上の大差がつくはずだが、両候補が拮抗する状態になっていた。自公支持層がほぼ真っ二つに割れた上、不人気を極める菅首相の全面支援が小此木氏への追い風どころか逆風になった結果、山中氏が急浮上したとしか考えられないのだ。

 地元経済界の重鎮、「株式会社キタムラ」(ハンドバックなど小物販売)の北村宏社長は林氏を支援。カジノについて方針変更をした菅首相をペテン師呼ばわりしていた。

 地元でも信頼失墜の菅首相がこのまま選挙の顔として総選挙に突入すれば、自公が惨敗して枝野政権が誕生する可能性は十分にある。菅政権は放射性物質トリチウムなどを含む汚染水の海洋放出を決定したが、実施まで約2年かかるため、枝野政権が海洋放出を撤回する近未来図が見えてきたともいえるのだ。

フリージャーナリスト 横田一
1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた「漂流者たちの楽園」で1990年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。


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