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民意を無視した五輪開催強行―【横田一】中央から見たフクシマ92

(2021年8月号より)

 福島原発事故がまるでなかったかのように原発再稼働に邁進した“アベ政治”継承の菅政権(首相)は、東京都が感染爆発状態(ステージ4)に陥っても五輪中止を全く検討しようとしていない。五輪開催で国内がわき立った勢いで解散総選挙に打って出るという“菅シナリオ”を実行に移しているとしか見えないのだ。

 国民の命よりも自らの政治生命を優先する「自分(選挙)ファースト」を菅首相は徹底しているともいえるが、そんな姿勢が透けて見える場面があった。7月14日にIOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長と官邸で面談をした時のことだが、驚くべきことに菅首相は、バッハ会長の「我々が日本国内にリスクを持ち込むことは絶対にない」という虚偽発言を聞き流すだけで、強く反論することはしなかったのだ。

 五輪開催による感染拡大リスクがあることは、野党国会議員の羽田空港視察でも明らかだった。五輪総点検ヒアリングチームを7月6日に発足させた野党国会議員はすぐに、五輪関係者の来日が本格化していた羽田空港の水際対策をチェック。視察後の会見で長妻昭・元厚労大臣は、安心安全を保証する“バブル方式”(五輪関係者の行動エリアを限定して一般日本人との接触を回避)が破綻していることを暴露したのだ。

 「(五輪関係者と一般日本人が動線で分けられている)入国の手続きの外を出てしまうと、そこで混じってしまう。一番驚いたのは、トイレとかコーヒースタンド。一般の見送りに来ている日本人と、新規入国者がトイレもコーヒースタンドも同じものを使えてしまうのです」

 取材をすると、バブル方式の破綻はすぐに実感できた。長妻氏が問題視したコーヒー店には、英国人報道関係者がいたので「コーヒー店の利用は禁止されていないのか」と声をかけると、「NO!」と回答。「(店内に)日本人がいる。(感染)リスクがある」と指摘しても「知らない。『空港全体がバブル』と日本政府が言っている」と意味不明な反論をするだけだった。

 到着ロビーの1階下には東京2020の青いユニフォームを来た若い女性がハイヤーやバスの乗り場へと誘導する案内役をしていたが、「ワクチンを打ちましたか」との質問に「まだです」と回答。そこで「(来日した五輪関係者に)感染した人が紛れ込んだりしたら危ないですよね」と聞くと、「怖いですね。ワクチン接種券は届いているのですが、7月末から8月頭の予約開始みたいで、それまではできないので」という事情も教えてくれた。“現代版学徒動員”と言いたくなるが、日本人の若者がワクチン未接種のまま、五輪関係者との接触による感染リスクにさらされていたのだ。

 こうした杜撰な現実から目を背けるバッハ会長は首相面談の翌15日、都庁で小池百合子知事との面談に臨んだ。冒頭挨拶までは報道陣に公開されたので、記念撮影が始まったタイミングで私は大声を張り上げた。

 「President Bach! You are aliar! Airport is dangerous! Bubble is broken!(バッハ会長、あなたは嘘つきだ! 空港は危険だ。 バブル方式は破綻した!)」

 すぐに都庁職員に腕をつかまれて強制退場させられたが、平気で嘘をつくバッハ会長に反論すると同時に、五輪開催強行で足並みをそろえる菅首相と小池知事への異議申し立ても兼ねた声掛けであった。福島県民の民意を無視して原発再稼働に邁進する菅政権(首相)は、五輪開催強行でも国民の民意から目を背けている。その根底にあるのは「自分第一・国民二の次」という小池知事と同じ政治姿勢なのだ。

フリージャーナリスト 横田一
1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた「漂流者たちの楽園」で1990年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。

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