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前首相の公選法違反を断罪せよ―【横田一】中央から見たフクシマ88

(2021年4月号より)

 福島原発事故がまるでなかったかのように原発再稼働に邁進した安倍前首相が3月7日、「下関市長選」(3月14日投開票)の出陣式に現れ、2期目を目指す直系市長・前田晋太郎候補への支持を呼び掛けた。「桜を見る会」疑惑の年内決着を狙った〝クリスマスイブ会見〟と翌日の国会説明以降、表舞台で見かけなかったが、ほとぼりが冷めた頃を見計らって登場。下関駅近くの「海峡ゆめ広場」に集まった約900人に向かって元秘書で安倍派市議から初当選した前田市長の実績(公約達成率が9割弱など)を称える応援演説をしたのだ。

 しかし首相時代に118回の虚偽答弁をした「桜を見る会」や前夜祭についての釈明は全くなし。そこで出陣式を終えて前田候補と共に車に乗り込んだ安倍前首相を直撃、「安倍さん、『桜を見る会』について一言」「桜を見る会は(地元有権者への)買収ではないか。一言お願いします。説明責任を果たしたのか」と声掛け質問をしたが、安倍前首相は一言も発しないまま、走り去って行った。

 福島原発事故を無視して原発推進への舵を切った7年8カ月の安倍政権時代と同様、総理主催「桜を見る会」での地元支援者(有権者)への利益供与がまるでなかったかのように公選法違反の買収選挙を白昼堂々と行ったといえるのだ。

 11月23日付の読売新聞のスクープを機に再燃した「桜を見る会」問題で、東京地検特捜部は政治資金規正法違反(不記載)の罪で公設第一秘書を略式起訴。秘書が前夜祭費用の一部(約700万円)を補填したことが判明し、安倍前首相の虚偽答弁が確定した。しかし本人は「知らないところで秘書が補填した」と関与を否定、東京地検も嫌疑不十分で不起訴処分とした。

 ただし前夜祭費用補填の事実は確定したのだから、実費と会費5000円の差額を参加者に供与したに等しい。安倍前首相の会見翌日の12月25日、国会の議院運営委員会で宮本徹衆院議員(共産党)が「どう見ても利益供与だ」と追及したのはこのためだ。しかし安倍前首相は、こう否定した。

 「私は何か利益を供与して当選しなければならない立場では全くない。自分の選挙のことは全く考えないという状況にならなければ、自民党総裁にはなれない。私も今まで9回選挙を戦ってきたが、毎回地元の皆様に大変頑張っていただいた結果、常に圧倒的な勝利を与えていただいている。利益を供与して票を集めることはつゆも考えていない」

 本人が考えていなくても、「桜を見る会」招待や前夜祭費用補填で利益供与された地元支援者が恩義を感じて、票集めをする可能性は十分にある。公選法が有権者への利益供与を禁じているのは、利益供与合戦になるのを防ぐためだ。圧勝を理由に公選法違反にならないと主張すること自体、法の主旨を全く理解せず、不都合な真実を隠蔽・改竄しようとするものなのだ。

 だが、安倍前首相は東京地検の〝大甘捜査〟で無罪放免になったと開き直り、利益供与をした地元有権者に投票依頼をする買収選挙を今回の下関市長選で再び行ったのだ。

 森友・加計・桜を見る会など疑惑噴出で辞職に追い込まれた安倍前首相だが、菅政権の支持率が急落する中、再々登板を望む声は消え去ってはいない。今回の下関市長選での応援演説は、地元での安倍人気凋落を防ぎ、三度目の首相ポストへのチャレンジに向けた布石に見えるのだ。

 大半の福島県民が望む「原発ゼロ」実現の民意を無視し続けた安倍前首相がゾンビのように復活しないためには、明白な公選法違反の買収選挙を厳しく断罪する必要があるのだ。

フリージャーナリスト 横田一
1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた「漂流者たちの楽園」で1990年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。


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