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【春橋哲史】フクイチ事故は継続中⑩―ひっそり公開「もう一つの報告書」

ひっそり公開「もう一つの報告書」


 東京電力・福島第一原子力発電所(以後「フクイチ」と略)で増え続ける放射性液体廃棄物(以後「汚染水」と略)の処分方法については、これまで、経産省も東電も「ALPS小委員会」(注1)が2020年2月に提出した報告書を基に検討を進めていると説明してきています。

 一方で、経産省はALPS小委の報告書とは別に、重要な情報が詰ま
った「もう一つの報告書」を入手していることは積極的に公表していません。

 私は、ALPS小委の報告書よりも「平成28年度発電用原子炉等利用環境調査(トリチウム水の処分技術等に関する調査研究)」(2017年3月)が重要であり、広く読まれるべきだと思っています(以後「トリ水処分報告書」と略)。この報告書は、三菱総合研究所が経産省に提出したものです(注2/平成28年度委託調査報告書、管理番号000744)。

https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000744.pdf

 トリ水処分報告書には、原発を利用している主要国のトリチウムの液体での放出濃度基準やモニタリング方法等がまとめられており、私は、多くを学ばせて貰いました(その幾つかを「まとめ1~3」として紹介。何れもトリ水処分報告書に基づいて春橋作成)。

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 トリ水処分報告書の中でも特に圧巻と呼ぶべきは、韓国の月城原発周辺のトリチウムの影響調査(同報告書31~36頁)と、アメリカのスリーマイル島原発事故(注3)で発生したトリチウム水の処分のプロセスを記した部分でしょう(同43~49頁)。スリーマイル事故に関してはヒアリング調査も実施しています。核災害で生じた汚染水を意図的且つ計画的に環境中に放出した、恐らく唯一の事例ですから、重点を置いて調査したものと推測されます(尚、私は、フクイチ事故とスリーマイル事故では、対象となる汚染水の量が圧倒的に異なる為、同列に論ずるのは無理があると思っています)。

 トリ水処分報告書には、「はじめに」と「まとめ」の中で「ALPS小委での今後の検討に資するように必要な調査を行った」旨が書いてあります。

 私は、吉良よし子参議院議員(注4)のレク(2018年9月28日/参議院議員会館の吉良よし子事務所にて)に同席させて貰い、経産省の担当者に、報告書を提示して「この報告書はALPS小委に提出すべきではないか」と質したことがあります。経産省の担当者は「私個人は、この報告書を初めて見たので、どのような扱いになっているのか、今はお答えできない」と回答していました(レクの詳細は私のブログに記載[注5/2018年9月30日付])。

 レクの最後に私は「国民の一人として、三菱総研の報告書をALPS小委に提出することを強く要望する」旨を伝え、吉良議員も「(要望には)確りと応えて欲しい」と言ってくれました。ですが、トリ水処分報告書は、現在に至っても、委託調査報告書の一覧に埋もれるような、形ばかりの公開にとどまっています。

 経産省の態度は不誠実極まりないものと言えるでしょう。

 税金を遣って、核廃棄物の扱いに関する調査を委託しておきながら、その結果を、対象となる委員会に知らせず、国民と共有しようとする意識すら見えません。

 一方で、ALPS小委の報告書は積極的に公表・広報し、数え切れないほど言及・引用しています。「国民に提示する情報」と「手元に留める情報」を区別しているに等しく、「公僕」にあるまじき行為です。

 本稿の読者の皆様には、報告書のダウンロードを強く呼びかけます。「まとめ」で紹介したものはごく一部です。全編に基礎知識とも言うべき情報が詰まっています。

 最後に、「フクイチの汚染水は地上保管を継続すべき」という私の立場は不変であること(理由の詳細は本誌20年4月号の連載第1回を参照)、私は特定の党派・組織に加入していないことをお断りしておきます。

 注1
 「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」の略

 注2
 委託調査報告書の一覧 

 注3
 1979年3月28日にスリーマイル原発2号機で発生した、炉心溶融を伴う事故。同原発はペンシルベニア州・サスケハナ川の中州(スリーマイル島)に立地。

 注4
 1982年9月、高知県出身。2013年7月、参院議員に当選(東京選挙区)。19年7月、再選。2児の母。

 注5


春橋哲史

 1976年7月、東京都出身。2005年と10年にSF小説を出版(文芸社)。12年から金曜官邸前行動に参加。13年以降は原子力規制委員会や経産省の会議、原発関連の訴訟等を傍聴。福島第一原発を含む「核施設のリスク」を一市民として追い続けている。




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