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海洋放出阻止につながる選挙―【横田一】中央から見たフクシマ89

(2021年5月号より)

 福島原発事故がまるでなかったかのように原発再稼働に邁進した〝アベ政治〟継承の菅政権(首相)が4月13日、福島第一原発にたまり続ける放射性物質トリチウムを含む汚染水の海洋放出を決定した。関係閣僚会議で「処理水の処分は、福島第一原発の廃炉を進めるにあたって避けては通れない課題。風評対策の徹底をすることを前提に、海洋放出が現実的と判断した」と述べたのだ。そして、漁業関係者らが問題視する風評被害については「政府一丸となって懸念を払拭、説明を尽くしていく」と強調したのだ。

 しかし菅首相が全国漁業協同組合連合会の岸宏会長と面談したのはたった6日前の同7日。「反対の声にも耳を傾けた」というアリバイ作りをした上で、結論ありきの海洋放出を発表した形なのだ。

 これに対して立憲民主党の枝野幸男代表は「政府は福島県民、漁民、漁師の皆さんを馬鹿にしているのかという怒りで一杯だ」と批判した。1月号で紹介した通り、枝野代表は昨年11月15日に相馬双葉漁協(相馬市)の幹部と意見交換、「(漁業)関係者にさえ、きちんとした説明がなされていない」「こういう進め方は許すわけにはいかない」と反対論を述べていたが、改めて菅政権の決定を問題視。その上で、「海洋放出について再検討を含めた対応を早急に図るべき」と方針変更を求めたのだ。

 今回、菅政権が海洋放出の決定をしたものの、その準備には2年程度かかり、その間に政権交代が起きれば、海洋放出阻止は可能だ。そして実際に野党は次期衆院選での争点にする方針なのだ。「原発処理水の海洋放出、衆院選争点化へ 『もろに影響』与党動揺」(4月14日の時事通信)と銘打った、次のような記事が配信されたのはこのためだ。

 「野党は衆院選を見据え、『争点になる。風評被害は感情的な影響が大きい』(立憲幹部)とみて批判のトーンを強めている」(同)

 今秋までに行われる次期総選挙は、海洋放出を阻止できるのか否かを決める天下分け目の決戦といえる。その前哨戦が4月25日投開票のトリプル選であり、中でも最も注目されているのが河井案里・前参院議員の失職に伴う参院広島選挙区再選挙なのだ。他は、吉川貴盛・元農水大臣の辞職による衆院北海道2区補選では自民党が候補者擁立を断念。参院長野選挙区補選は故・羽田雄一郎前参院議員の弔い合戦で野党が有利であるためだ。

 「広島の再選挙で敗れてトリプル選全敗なら『菅首相では選挙が戦えない』と菅降ろしが始まる可能性は十分にある」(永田町ウオッチャー)

 つまりトリプル選で一勝一敗一不戦敗を狙う菅政権にとって絶対に落とせないのが広島再選挙なのだが、想定以上の逆風にさらされている。自民公認の元経産官僚の西田英範候補(公明推薦)と野党統一候補のフリーアナウンサーの宮口治子候補が横一線のまま最終盤に突入したのだ。永田町ウオッチャーはこう続けた。

 「広島は〝保守王国〟で基礎票では与党が野党を大きく上回ります。再選挙のきっかけとなった2019年の参院選(定数2)でも、自民2候補の得票率の合計が57・5%に対して、野党系2候補の得票率は39・2%と1・5倍弱の違いがあった。しかし、買収事件の逆風は想定以上で、告示日前後にはほぼ横一線状態となった」

 野党がトリプル選全勝なら次期衆院選に弾みがつき、政権交代の可能性が高まるのは言うまでもない。多くの福島県民が望む原発ゼロ社会の実現や海洋放出を回避するには、原発推進の安倍政権継承の菅政権打倒が不可欠といえるのだ。

フリージャーナリスト 横田一
1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた「漂流者たちの楽園」で1990年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。


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