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肩甲骨面挙上のハンドリング〜上腕の扱い方〜

肩関節の中間位での他動的な肩甲骨面挙上は、肩甲上腕関節の状態を把握する手段として非常に有効です。また、痛みや運動制限がある患者さん、特に手術後の急性期にある患者さんに対しても、肩甲骨面挙上は身体的・心理的負担を軽減しつつ、負担を最小限にして動かすことが可能です。このように、肩甲骨面挙上は多くの場面で有用なスキルです。

しかし、肢位の設定や動かす方向が適切であっても、セラピストの上腕の扱い方やハンドリングが不適切であれば、この技術の恩恵を十分に活かすことはできません。

そこで今回は、肩甲骨面挙上のハンドリングの基本として、上腕の扱い方について解説します。


♦︎物体の運動を力学的に分解する

中間位のハンドリングを理解するためには、物体がどのように動くかという概念を把握することが重要です。物体の動きは、移動と回転という二つの要素に分解することができます。この概念を理解することは臨床上非常に重要ですので、まずはこれらについて詳しく解説します。

質量中心点の移動

物体の移動時に発生するベクトルのイメージ

移動とは、物体の質量中心点が移動することを指します。質量中心点が動くということは、物体の両端も同じ方向に動くことを意味します。

つまり、物体が動いているということは、力が働いており、それに伴ってベクトルが発生していることを意味します。移動の際には、物体の両端に同じ方向のベクトルが生じるということです。

質量中心点周りの回転運動

物体の回転運動時のベクトルのイメージ

回転についても考えてみましょう。回転とは、物体の質量中心点を中心にした回転運動のことを指します。この回転運動では、物体は質量中心点の周りを回転します。そのため、回転運動の際には、物体の両端に反対方向のベクトルが生じます。

移動と回転が同時に起こる

移動と回転で発生するベクトルが合成・釣り合う様子

物体の遠位端(骨の遠い側)では、移動と回転に関連するベクトルが同じ方向を向いています。これに対して、近位端(骨の近い側)では、移動と回転のベクトルが反対方向に向いています。

この状態は、力が互いに打ち消し合っている状態、すなわち力の釣り合いが取れている状態を示しています。力が釣り合っている状態は、新たな力が発生していないことを意味します。その結果、角速度が発生せず、骨頭は安定した状態に保たれるのです。

♦︎肩甲骨面挙上時のハンドリングの実際

次に、移動と回転の考え方を使ったハンドリング方法を解説します。これを理解するために、以下の2つのステップに分けて説明します。

1️⃣ 中間位で上肢を把持する
2️⃣ 上肢の操作方法

具体的な解説に移ります。

1️⃣ 中間位で上肢を把持する

中間位で上肢を支持するポイント

中間位のポジションについては別の記事で詳しく解説されていますが、中間位をとった際の上肢の持ち方が非常に重要です。上腕の持ち方には以下の要点が重要です。

上腕は3つのポイントで支持されます。最初に、上腕の質量中心点を中指で支えます。その遠位側を環指や小指でサポートし、その近位点に示指を伸ばします。前腕に関しては、その中心点をセラピストの前腕の中心に配置します。

また、セラピスト自身も上腕に対して正対し、姿勢を正しく保つことが重要です。セラピストの姿勢や他の要因については、後述の記事で詳しく説明されているでしょう。

2️⃣ 上肢の操作方法

胸骨の向きを意識したハンドリングの様子

上腕骨のハンドリングにおいて注意すべきポイントは、手先だけでの操作を避けることです。セラピストの姿勢や胸骨の向きを調整し、これを通じて上腕骨をコントロールすることが重要です。

手先で操作を行うと、上腕骨の動きを正確に感知する感覚が低下してしまいます。その代わり、姿勢や胸骨の向きの調整を動力源として、手や上肢を患者さんの上腕の動きを感じるために利用します。

これにより、より効果的なハンドリングが実現可能になります。

♦︎身体でわかるハンドリングのポイント

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