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知っておきたい肩関節の3つの安定化機構

肩関節の可動域制限や痛みをもつ患者さんへの介入には、肩関節の安定化機構の理解が必須です。

肩関節の可動域制限は筋が原因なっているという論調が一般的です。多くの教科書や論文でその筋に対する介入方法の解説がなされるため、臨床においても、制限がある方向に拮抗する筋にリリースやリラクゼーションを実施されています。

つまり、肩の動きは単純な”ちょうつがい”みたいに扱っており、拮抗筋の伸張性が改善すると肩も動くと理解しているということになります。

しかし、肩の動きはそれほど単純な話ではなりません。

今回は、肩関節が持っている3つの安定機構を解説します。この安定化機構を元に肩関節の動きを考えていくと理解が進みやすいです。

それでは、いきましょう。

♦︎肩の3つの安定化機構の立ち位置

肩関節には3つの安定化機能があります。以降で3つぞれぞれの具体的な中身を見ていきますが、まずはこの3つの大雑把な関係性を見ていきます。そうすることで、のちの各論の理解がスムーズになると思います。

3つの安定化機構のそれぞれの関係は以下の通りです。

・第1の安定化機構:軟部組織に依存しない。もっとも安全
・第2の安定化機構:安全装置
・第3の安定化機構:第1の安定化機構の拡張機能

第1の安定化機構を使えるようにすることが基本です。その第1の安定化機構をより広く使えるようにするに拡張しているのが第3の安定化機構です。そして第1と第3の安定化機構がどうしても使えない時の安定全装置として第2の安定化機構となります。

このような考えると、スッキリしませんか?

この知識をベースに各論を見ていきます。各論を見る上で、わかりやすいように第1→第3→第2の順番で解説します。

♦︎第1の安定化機構

こちらは、肩甲上腕関節におけるもっとも重要な安定化機構です。その理由は軟部組織を全く利用しないことが挙げられます。ポイントは以下の2点です。

・骨構造に由来する安定性
・関節液の非ニュートン粘性を用いた安定性

これは重要なので、それぞれ深掘ります。

骨構造に由来する安定性

肩甲上腕関節は凸面の上腕骨頭と凹面の関節窩で構成されます。物理的に凹面に対してボール状の物体が接した場合、運動のベクトルは中央に収束するように働きます。

肩関節の安定化機構

関節窩の上で骨頭にズレる力がかかったとしても、関節窩が中心に向かって凹構造になっているので骨頭が中央に常に戻る力が働くことで安定するということです。

この中央に収束する力には許容範囲があり、43°と言われています。この43という数字自体は重要ではありませんが、ある程度の許容範囲があということが重要です。関節窩の向きに対して上腕骨が運動した時に骨構造的に一定のズレを予防するシステムが備わっていることになります。

関節液の非ニュートン粘性を用いた安定性

肩甲上腕関節内にはおよそ2ccの関節液があると言われています。その関節液が持つ重要な性質が、非ニュートン粘性と呼ばれるものです。

言葉がわかりにくいで分解して考えます。粘性はよく知られているもので水飴なんかを思い浮かべてもらえればいいでしょう。この粘性にニュートンが付くと、速度の関係が追加されます。プールの中でゆっくり歩くのと速く動くのでは自らの抵抗感が変わりますね。このようにゆっくりだと粘性が小さく、速い粘性が強いのがニュートン粘性です。つまり速度と粘性には比例関係があることになります。

一方で、非ニュートン粘性は、速度と粘性が反比例の関係にあるものです。つまり、速度が速い方が粘性が低く、速度が遅い方が粘性が高いということです。肩の文脈でいう速度とは、角速度のことです。

上腕骨頭が動くときに関節内の角速度を小さく保つことで関節液の粘り気が骨頭にズレが生じることを防いでくれます。

第1の安定化機構とは、凹面を呈する関節窩の上で凸面の上腕骨頭が乗ることで常に中心に位置する力が働き、関節液の粘性がより中央にとどまる力を提供することです。

これは、軟部組織に依存しないため安全がかなり高く、肩関節はいかにこの第1の安定化機構を最大限に利用できるかが重要です。

♦︎第3の安定化機構

肩関節において最も重要なのが、第1の安定化機構であることを学びました。しかし、関節窩に対して40°程度の上腕骨の運動範囲しないと生活が成り立ちませんよね。頭を洗おうと思ったら脱臼してしまいます。

そこで、重要になるのが第3の安定化機構、つまり肩甲骨です。具体的には関節窩が向いている方向を変えることです。関節窩の向きを変えることができれば、向いている方向ごとに第1の安定化機構が使用することが可能になります。つまり、どの方向に腕を動かしても安定した運動が可能になるんです。

これが、第3の安定化機構が第1の安定機構の拡張機能(エクステンション)であると考える所以です。そして、肩への介入において肩甲骨が重要になると言われる所以でもあります。

関節窩の向きを変えるとき、大きく分けて2つの動き方があります。まずは視覚的にイメージできるように👇の図をご覧ください。

これは、上肢下垂位から1秒で挙上して1秒で下ろした時の、肩関節を挙動をグラフ化したものです。各グラフの意味は以下の通りです。

(A)arm angle:肩峰を通る床への垂直線と上腕骨の角度
(G)Gleno humeral angle:関節窩の傾きと上腕骨の角度
(S)Scapula angle:肩峰を通る床への垂直線と関節窩の傾きの角度

ここでは、肩甲骨の話なので(S)に注目してください。全体感としては小さな山形を形成していますが、ミクロで見ると、小さく山と谷を繰り返しています。このように、肩甲骨は1種類の動きだけではなく、2種類の動きを使い分けながら、動いているんです。

次からはこの2種類の動きを深掘りし、その目的や役割を見ていきます。

運動範囲の拡大する目的

まずは、一般的に考えられている肩甲骨の動きからです。一般的に”肩甲骨が大事”だよというものの中身は、運動範囲の拡大という目的を持った肩甲骨の役割になります。

先にほどの43°の話をもう一度思い出してください。仮に安静時の肩甲骨の位置から向きを変えることができなければ、反対側の肩を触る、自分の後ろの人に物を渡すなど、少し大きめの動きになると脱臼してしまいます。

そこで、肩甲骨が前を向いたり(外転)、後ろを向いたり(内転)すると、関節窩面の向く方向が変わります。そうなると、肩甲骨が内転した後に43°が使えるようになるので、肩の水平内転方向に届く範囲が広がるわけです。

また、ショックソブソーバー的な役割もあります。腕を横に上げている時に前から何にぶつけれた場合、肩甲上腕関節は前方脱臼することがあります。この時に肩甲骨を内転させることで局所に加わる力を減じることができるんです。

関節面の調整

2つ目はあまり一般的ではないけれど、とても重要な役割です。それが、関節面の調整機能になります。先ほどの第1の安定化機構の骨構造部分の図をもう一度👇に出します。

肩関節の安定化機構

この図では、骨頭がズレたところから戻るような見た目になっていますが、実際にはズレそうになった時に常に中心に戻り力がかかっているので、ここまでズレることはありません。

しかし、日常生活場面で腕を使っていると、ものも持ったり体重をかけたり不意に動かしたりなど、安定的な環境で使えるわけではなりません。なので、不意なズレが生じた時に、対応する術が必要です。その時に活躍するのが、関節窩の調整能力になります。

肩甲上腕関節に動きが生じるということは関節内に発生するベクトルの方向が変わるということです。小さい変化であれば第1の安定化機構で調整可能ですが、力の変化が増えるとその限りではありません。

👇の図を見てください

骨頭にかかる力の矢印が赤の向きになった時には土台として書いた肩甲骨も赤い方に移動すること、骨頭にかかる力が緑の矢印なれば肩甲骨も緑の方向に移動する。これが肩甲骨の関節窩面の調整能力です。(S)の細かいギザギザの変化はこのような関節窩の調整能力を反映しています。

♦︎第2の安定化機構

あえて、第2の安定化機構を最後に持ってきたのには理由があります。第2の安定化機構は”安全装置”だからです。

完全装置として機能するのは、関節包と腱板です。ここからはそれぞれどのように安全装置として機能するのか見てきます。

安全装置としての関節包

関節包が安全装置として機能するのは周知の事実ですね。骨頭にズレの力が発生した時に関節包の張力が骨頭を関節窩の中心に押し戻してくれるものです。関節包の機能を👇に図示しました。

ここで、特質すべきなのは、骨頭の回旋と並進運動で関節包に発生する張力の方向が異なることです。上記の図では(左)が回旋、(右)が並進運動じの張力の発生をベクトルで示しています。

いずれにしても、ガードレール的な役割をする関節包がその張力をもって骨頭の緊急的な安定化に貢献してくれています。しかし、あくまでも安全装置的な位置付けなので、依存する程度や頻度が増えると破綻してします。これが関節包炎という病態になります。

安全装置としての腱板

運動学では、腱板の作用は「関節窩に対する骨頭の求心性の担保」であると習います。そして、自動運動時に三角筋や大胸筋に対抗する手段として機能すると考えられていることが多いですが、実は、この作用は、安全装置としてみる方が臨床的にはいい場合があります。

👇の図をご覧くださ。

肩関節における動的支持機構についての考察

これは、屈曲90°にある上肢の手掌面から圧迫を加えて、肩甲上腕関節に後方への剪断力を与えた時の棘下筋の反応をみた研究です。この論文の結果から、骨頭に後方へズレる力が発生すると、求心力を強めるために棘下筋が発火していることがわかります。

まさしく、安全装置として機能していると言えるでしょう。ここから言えるのは、臨床的によく”後方が硬い”というワードを聞きますが、後方の固くなっているには、骨頭が後方にズレるのを嫌がっていることが原因なのかもしれません。この意味を無視してリリースを行なってしまうと逆に危険ということになります。

また、腱板には別の作用があり、関節の危険を察知すると腱を固めて動きを止めるという作用もあります。エンドフィールの種類にスプリングブロックというを聞いたことがあるかもしれませんが、この腱板の緊急停止の作用がスプリングブロックということになります。

ガツっと止まるように手応えの場合は、肩甲上腕関節内が不安定な状況に陥っていることを範囲しているので、無理な他動操作は関節への危険因子となります。

この場合は、動きを邪魔している因子を排除する方が安全な形といます。


以上になります。
今回は、肩関節における3つの安定化機構を解説しました。論文を内容を自分なりにアレンジにわかりやすく解説したつもりです。

この考え方がかなり臨床的にも有用なものなので、ぜひ活用してみてください。最後まで読んで頂きありがとうございます。

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