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2023年 9月「短い季節」


 夏なのか秋なのか、よく分からない9月だった。コロナ禍という言葉を聞かなくなって久しい。今年は、あの頃止まっていた出来事が堰を切ったように押し寄せているような気がする。凄まじい量と速度で人と出会い、情報が巡るひと月だった。






『more than words』/羊文学
 "きっと間違いだらけのストーリー溺れそうな夜も一人じゃないから"

 羊文学の曲にしては儚いと感じたのが最初の感想だ。おれの見立てでは塩塚モエカはサブカルチャーに対して深い理解があり、少女のような感性でそれを曲にしているのだろうと思う。呪術廻戦という作品では善や悪という価値観が流動的だと感じているけど、きっとこの曲は多様化する価値観や善悪の基準の中でも、自分や誰かを信じていいよと支えるような、そしてそれをすることが同時に自分を救うまじないになるような曲ではないかと感じた。呪術廻戦という作品がこの観念を引き出したとするならすごく素敵なことだなと感じる。



『真夜中遊園地』『風吹けば恋』『染まるよ』 /チャットモンチー
『メロンソーダ』『ブームに乗って』『おもてなし』/tricot
『オトナブルー』/新しい学校のリーダーズ
『リライト』『君という花』/ASIAN KUNG-FU GENERATION
『海と花束』『Telepathy/Overdrive』/きのこ帝国
『チェリー』/スピッツ
『江ノ島電鉄』/Cody・Lee(李)

 4年ぶりにサークルの合宿が行われた。3泊4日遊び尽くしたけど、常に音楽があって、あそびだけじゃないのがよかった。中でもサークルの幹部が声を枯らしながら必死にやっていたスピッツのチェリーが良かった。観客もみんななんか胸が熱くなって歌っていた。人を思い合えるならこのサークルはこの先も大丈夫だろうと思った。この時のチェリーを始めとして、夜中にライブ会場を使ってセッションをしたりした時の曲や運営の代の子達が必死にPAや照明をこなしながらそれでも幕間に選んでかけたBGMたちがこれからも最後の合宿を思い出させると思う。



『OOPARTS』/羊文学
 "誰か聞いて、ただ、生きたいだけ"
『祈り』/羊文学
 "夜の中で君が一人泣くことはどんな訳があるとしても許されているから"
『夜を越えて』/羊文学
 "わかる 君の言うことがなんでも"

 唸るファズと、ギラついたベース、ドライなスネア、それらを優しく包みながら体を震わせる声。今年に入ってから羊文学を観る機会に恵まれている。ライブを観ていて、好きなアーティストには共通点があることに気づいた。それは、歌詞とメロディがそれぞれ独立じゃないなということ。意味も音もするりと入ってきて体に馴染むような感動がある。カッコイイバンドだなと思った。グッズ紹介をするMCが文化祭の学生みたいで可愛かった。



『ショートショート(ウ山あまねRemix)』/幽体コミュニケーションズ 
 "とてもショートショートな日々に花をさして飾れたらいいと思ったんです"

 月毎のプレイリストと、140字以内で書く日記を続けている。サラサラと流れる時間に振り返る契機を設けることで、噛みしめながら日々を過ごすはずだった。だけど現実は甘くなくて、たとえ記録していたって滑るように忘れていくようなことは多い。頭で覚えていても、体が忘れてしまっている、みたいな。最近はむしろ「日々」というものは不連続なものなのかもしれなくて、こうして記録することが無理やり「連続した日々」という体裁を整えているのかなとすら考えてしまう。でも、忘れたくない感傷や体験を日々に花をさすみたいに飾って覚えておきたいという祈りみたいな気持ちの方がが勝ってしまう。きっとまだこの記録は続くけど、虚飾なく続けたい。



はじめ

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