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【レビュー】 アルバム 『Wonderful world』 に見るASKAの歌詞に関する一考察

昨年末、ASKAの3年ぶりのニューアルバム『Wonderful world』がリリースされた。
この記事では、いちファンとして、メロディーではなく「歌詞」に焦点を当てて考察してみたい。

その前に、昔から振り返ってみよう。

「抱き合う度にほら 欲張りになって行く 君が想うよりも 僕は君が好き」(1989 『LOVE SONG』)
「今からそいつを これからそいつを殴りに行こうか」(1993 『YAH YAH YAH』)

ストレートな表現で「愛」や「勇気」を歌い、CHAGE & ASKAとしてセールス的に頂点を極めた80年代後半から90年代前半は過ぎ、ソロ活動が増えた90年代後半から2000年代初めにかけて発表された曲の歌詞は、芸術的・哲学的でレトリックに富み、ともするとどこか常人が近寄り難い凄みがあった。

「ここの景色じゃ匿名希望の人達が溢れ 時間ばかりが女の肩を 滑り落ちた肌着のように乱れ進んでる」(1997 『ID』)
「僕はここに来ることを知ってた 透明な糸をたぐり すべては過去 すべて未来の跡 戻ってゆく 戻ってゆく」(2005 『birth』)
「僕は僕を僕の歌で感じて いつか歌は遠い遠いところへ あの人は『朝のリレー』だ 僕らは『願いのリレー』だ」(2008 『UNI-VERSE』)

それが、あの事件やCHAGE & ASKAの脱退を経て紡ぎ出されるASKAの歌詞はどうだろう。
では『Wonderful world』を覗いてみよう。

「コーヒー入れて テレビつけて ソファの隅に座る」(『僕のwonderful world』)
「悪戯で眠ったふりをしているうちに 夢の中へ入ってしまう」(『プラネタリウム』)
「エスカレーターを降りるときに タイミング合わせようと 緊張してしまう」(『君』)

もちろんこれらは一つの入口に過ぎず、そこからテーマは深みを増していくのだが、日常生活の中で「あるある」と共感でき、ASKAを近くに感じられる歌詞が増えたように思う。

そして「苦悩」や「弱さ」「心の叫び」が見え隠れする。

「生きるために傷をつけて 傷をつけられて 紙くずのようになった自分をそっと開けてみる」(『だからって』)
「いつか床にうずくまった 言葉じゃない声で」(『それだけさ』)
「ひとつ歩くごとに錆びついた 赤茶けた現実があった」(『誰の空』)

しかし、これらの歌詞には続きがある。

「明日僕は希望を 手放しちゃいないさ 辛い苦しいなんて理由で いまを裏切っちゃいないさ」(『だからって』)
「僕は変わり変わり続ける 自分のままで 恥じることは何もない 僕が生まれたこと」(『それだけさ』)
「孤独さえも磨き上げて 青空を引き受けた 誰の空 自分の空 僕のつま先に届いた空」(『誰の空』)

程度の差はあるにせよ、同じように悩みを抱えながら、それでも前を向いて日々を生きている。
『Wonderful world』の歌詞から、そんな等身大のASKAを感じるのである。

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