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【レビュー】 映画 『石だん』 (翻訳)

ベルギーの映画評論家が書いた『石だん』のレビューを翻訳してみました。

https://psychocinematography.com/2022/07/01/stone-steps-2022-review-jffh-2022/


【前書き】
クラウドファンディングでプロジェクトを実現するのは、多くの場合リスクを伴う。
しかし、リスクを避けていては何事もなし得ない。

普段美容師をしている桑田浩一監督は、そんなリスクを背負いながら、2年間、休みの月曜日を愛する地元、児島を舞台にした映画制作に費やした。


【レビュー】
ある日、不良仲間と浜辺を歩いていた木村なつき(福井柑奈)は、児島八十八ヶ所巡りをしていた男性、片山勤(大滝明利)に怪我を負わせる。
その後、なつきは祖母の家でまさにその男性と再会し、驚くのであった。
男性の怪我の手当てをしていたなつきの祖母は、男性が本場四国ではなく、児島でお遍路をしていると知り、喜ぶ。
そして、お遣いついでに次の寺まで男性を案内するよう、なつきに言うのだった。

『石だん』は、日本の多くの地方都市が抱える人口減少問題に触れながら、夢を持ち、その実現に向かって歩みを進めていくことの大切さを訴える。

桑田監督は、岡山の他の地域と比べても、児島の人口減少が顕著であると言う。
背景には、地域の就職先の減少と高齢化の問題がある。
若者にとって、都会の方が夢を見つけやすく、実現しやすい場所に映るのだろう。

『石だん』は、なつきと世代の異なる二人との関係を軸に展開する。
つまり、なつきと勤、なつきと母親の関係だ。

前者の交流を通して、普段気づかない地元の素晴らしさに触れる。
愛らしい仏像や忘れ去られた遺跡、美しい風景。
それらを見つけた時の勤のはしゃぎ様は、なつきには新鮮に映る。
若者が地元の素晴らしさに気づかない理由の一つは、『石だん』が示しているように、都会の可能性に目をくらませているからだ。

しかし、なつきの場合、後者の関係、つまり親子の諍いが周りに心を閉ざす原因となっている。
なつきは歌手になりたいという夢を持っていたが、木村家の一人娘として、なつきに将来家の病院を継いでほしい母親は、断固反対する。
自分の将来を自分で描きたいというなつきの願望は、伝統的な価値観によって妨げられる。
なつきが古い価値観に反発し、不良仲間と付き合うのは、他者から強制されることへの拒絶、そして自己の葛藤を表していると捉えらるのではないだろうか。

結局なつきは、勤とお遍路を共にすることになる。
なぜ彼女は勤と巡礼をすることにしたのか。
亡くなった父親の面影に似ていたからなのか、それとも勤に自己を重ね合わせたからなのか。
なつきの心境に変化はあるのか。
自分を変えるきっかけになるのだろうか。
そもそも、勤がお遍路をする理由は何なのか。
彼の夢は何なのか。
その夢は成し遂げられるのだろうか。

『石だん』は、「静と動」がバランスよく構成されている。
児島の風景シーンでは、普段気づかない美しさや工業化の面影、瀬戸大橋のような人工物が自然に溶け込んでいる様子が伺える。
また、登場する数々の仏閣は、宗教的、建築的、芸術的優雅さを湛えている。
やや不自然なカットも見受けられるが、幸い全体の流れやに影響を及ぼすものではない。

明るい挿入歌も効果的で、重くなりがちなテーマを扱っているにも関わらず、映画を明るくポジティブなものにしている。
くすっとするシーンがあるのも、観客を和ませるだけでなく、「自分の夢に向かって前向きに進んでいこう」という桑田監督のメッセージを伝える上で効果的である。

『石だん』は、観る者に児島の美しさを伝え、夢に向かって進む背中を後押しをしてくれる素晴らしい映画である。

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