【プレイリスト】ファック・ダ・ポリス!/『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』はじめに&第1章 「奇妙な果実」――ブラック・ライヴズ・マター前史
書籍『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』に登場する曲や関連する歌をまとめたSpotifyのプレイリストを公開しました。まずは、はじめに&第1章に掲載分をラインナップ。第2章以降も順次公開していきます!
著者の藤田正さんには、note用に特別の解説をいただきながら、ご紹介していきます。
藤田 題名どおり『歌と映像で読み解く……』だから、本を読みながらSpotifyで関連する歌を実際に耳にしてもらう。第1回目は「はじめに」と「第1章」に登場する歌を12曲リストアップ。映画のサウンドトラックなんかも含めて、これから紹介していくのでお楽しみに。
――まず1曲目は「I Can't Breathe」。この言葉は、本書でも最初に出てきます。
藤田 H.E.R.という若いシンガーの怒りと告発の歌も、末期の言葉をそのまま使っている。彼女の名前は「ハー(her)」と発音します。「すべてをさらけ出して」という意味だそう。彼女、2019年のグラミー賞ではアルバム『H.E.R.』が「最優秀R&Bアルバム賞」ほか二つの賞を受けてる。
「I Can't Breathe」は今年(2020年)に出されたBLM運動に直接関連する代表的1曲。5月にジョージ・フロイドさんが警官に殺され、彼女はそのすぐあとにネットから発信しました。ぼくもさっそく月刊『部落解放』(大阪・解放出版)の連載に2020年8月号と9月号にわたって紹介しています。
――第1章の冒頭は、ビリー・ホリデイの「奇妙な果実」。これは黒人が受けてきたリンチをテーマにして有名ですが……。
藤田 その「Strange Fruit(奇妙な果実)」と、アメリカの国歌のように扱われてきた「ゴッド・ブレス・アメリカ」を、同じテーブルの上でぼくは語っている。黒人の人権問題は、当たり前のことだけど白人社会の問題でもあって、相互は強く影響しあっている。「黒人は差別に怒っている!」といった一方向だけの論説が多いけど、それって実は(いわゆる)白人が仕切っているメインストリームの深刻な問題を隠すことにも繋がっている。ビリー・ホリデイと「ゴッド・ブレス・アメリカ」を広めた差別主義者としてのケイト・スミスは、対として語るべきなんですよ。何より2曲が広まった時代も同じだし。アメリカ文化の両極をまざまざと示しています。
――続くは、ラップのパブリック・エネミーやグランドマスター・フラッシュです。
藤田 N.W.Aもね。リストにはN.W.Aのリーダーだったイージー・Eがリードをとるラップもある。ラップ・カルチャーは今のBLM運動の原動力の一つです。ただラップは御立派な道徳教育なんかじゃなくて、あくまで貧民・被差別民のエネルギーから生まれたストリート・カルチャーです。ろくでもない奴らも中にはいる。イージー・Eもその一人だったけど、大衆運動の渦の多様性を知るにはN.W.Aやパブリック・エネミーらに接するべきだと思うね。
――ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの曲のセレクトは、不思議に思う人も多いのでは?
藤田 そうだね、アメリカン・ブラックじゃないのにナゼ?と思うかも知れません。ボブ・マーリーはジャマイカのレゲエのスターだった人物……として捉えてはいけません。それは音楽業界の商売上の「区分」であって、世界の貧困地帯でのボブ・マーリーの影響力は計り知れないほど大きい。簡単に言えば死後も彼は、苦難を生きる人々に歌と言葉で希望を与え続ける、文字どおりの偉人ですよ。アメリカン・ブラックだってそんなことは充分にわかっている。だって、レゲエってラップの親みたいな存在なんだよ。その頂点にいるのがボブ・マーリーなんだから。こういうことすら日本では一般に知らされていない。
――「はじめに」で取り上げた、ポール・マッカートニーとスティヴィー・ワンダーの「エボニー&アイボリー」は?
藤田 1982年の世界的な大ヒットです。黒人と白人の関係を2色の鍵盤にたとえて「完璧な調和」をうたっている。マジにいい歌です。でもこの歌、歴史的に何の役割を果たしたんですかね……。
(第2章へつづきます)
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