見出し画像

Songs for Freedom:A Juneteenth Playlist/アメリカの祝日となった奴隷解放記念日「ジューンティーンス」

アメリカのジョー・バイデン大統領が2021年6月17日、「奴隷解放記念日=ジューンティーンス」として知られる6月19日を連邦の祝日とする法案に署名し、制定されました。アメリカのブラック・コミュニティにとっての特別なお祝いの日を、女性ピアニスト、ララ・ダウンズさんの選曲によるプレイリスト Songs for Freedom:A Juneteenth Playlist とともに紹介します。
※トップ画像は Jon Batiste  “FREEDOM “ (YouTube)より

――6月19日、通称「ジューンティーンス(Juneteenth)」がアメリカ連邦政府の12番目の祝日に正式に制定されました。

藤田正さん(音楽評論家/以下、藤田) ジューンティーンスは「ジューン・ナインティーンス」(June Nineteenth)の「ナイン」を省略してつなげた造語で、最後の黒人奴隷が解放された1865年6月19日を祝う日です。いくつかの州ではすでに祝日となっていたけど、連邦の祝日として正式に「ジューンティーンス独立記念日」として定められたね。

昨年、2020年はジョージ・フロイドさん殺害事件もあって、人種差別に対する問題意識の高まりから、黒人コミュニティだけでなく多くの人がこの日を祝いました。ビヨンセはサプライズで新曲「Black Parade」を発表。テニス・プレイヤーの大坂なおみさんは、自身のツイッターにフランツ・ファノンの著書『Wretched of the Earth(地に呪われたる者)』をアップしていて、ぼくは感激したな~。

――あれ? でも、エイブラハム・リンカーンが「奴隷解放宣言」を発したのは南北戦争まっただなかの1863年でしたよね?

藤田 そう、1862年9月に予備宣言が出されて、1863年1月1日に本宣言がなされた。でも、そのあとも南部連合(南軍)では、宣言に従わなかったところが多かった。最後まで抵抗したのがテキサスでした。1865年6月19日、約2000人の北軍の部隊を率いたゴードン・グレンジャー将軍がテキサス州ガルベストンで改めて宣言する。「テキサスの人民に告げる。アメリカ合衆国行政府の宣言に基づき、すべての奴隷は自由の身となった」。こうしてテキサスでは翌年から、この解放の日を祝う行事がはじまった。

――解放されてもなお、南部では差別は続きました。新しい奴隷制度ともいわれた人種隔離政策「ジム・クロウ」法が制定されて。

藤田 ただ同然でアフリカ系の人々を酷使して巨万の富を上げてきた南部の支配者層は、ありとあらゆる手を使って「無料の労働力」を身動きできないようにと画策した。アメリカ史とは、つまるところそういうことだった、とも指摘できますね。これはまさに今の、ジョージア州などの法整備にも明確に引き継がれています。だからこそアフリカ系、カラードの民は闘いをやめないわけです。

プレイリストの1曲目にあるのは、1960年代に南部で差別撤廃と公民権運動を率いたマーティン・ルーサー・キング牧師を描くドキュメント映画『MLK/ FBI』(2021)から“Lift Every Voice And Sing”。この曲は、黒人の国歌(Black National Anthem)として、歌い継がれてきたものです。詩はジェイムズ・ウェルドン・ジョンソン(1900年)。ジョンソンは人権団体「NAACP(全米有色人種地位向上協議会)」のリーダーを務めた人物です。

――みなで声を上げうたおう、大地と天が鳴り響くまで。自由のハーモニーを奏でよう(Lift every voice and sing, Till earth and heaven ring, Ring with the harmonies of Liberty)という歌詞ですね。

藤田 たくさんの黒人たちが歌い継いできた大切な歌です。以下に、現代ゴスペルの代表的シンガー、カーク・フランクリン(&合唱団)がうたうバージョンを紹介しておきましょうね。この堂々たる姿勢、明日へ進まんとするパワーは、マジに学びたいですね。『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』にも書きましたが、だからこそ、黒人に対して繰り返し罪深い行為をしてきた白人(の一部)は、目も耳も覆いたくなるんです。絶対に挫けない黒人たちの歌声や姿勢に対してね。

Kirk Franklin "Lift Every Voice And Sing" 

藤田 あ、YouTubeであれば、ブラック・ライヴズ・マター運動の渦中でうたわれたアリシア・キーズのバージョンもご覧になってください。これも素敵な編集がされた動画です。大問題となった(元)NFLのコリン・キャパニックさんの「あのシーン」も挿入されています。

Alicia Keys “Lift Every Voice and Sing“ 

――プレイリストの選者のララ・ダウンズさんはアフリカ系の人ではありませんが、ご両親が公民権運動の活動家だったそうです。

藤田 ララ・ダウンズはサム・クックの「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」をレパートリーにしているピアニストです。クラシックの世界では実績のある女性ですが、黒人音楽の歴史にも非常に理解が深い人だと思います。ここに載せたプレイリストは、米・東海岸のラジオ局WBGOのホームページに発表されたものだけど、「今年のジューンティーンスは、自由のための歌を歌おう。すべての声を上げよう」って、前述の「リフト・エブリ・ボイス…」をイメージさせる言葉から彼女は書き出しています。

リストとしては当然のように、このnoteでも繰り返し触れている「奇妙な果実(Strange Fruit)」や、「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」は、そうだろうな~だけど、ジャズの巨匠、デューク・エリントンが来るべき未来をイメージして作った「ニュー・ワールド・ア・カミン」を筆頭に置いているのが、クラシック系の彼女らしい。

――セミクラシックのような作品ですね。

藤田 そうです。エリントンが意識的に「けがれなき音楽」として作曲&プレイした作品です。この曲は歴史的にクラシック風にアレンジされたりもしました。エリントンであれば、ぼくだったら「ブラック・アンド・タン・ファンタジー」とか「ムーチー」といった、「黒っぽさ」を洗練させた歴史的名作を選ぶんだけど、ララさんの視線は違っていて、そこがとても面白い。黒人音楽と一口に言っても、いろんな切り口、解釈があるんだということを教えてくれます。

――現代のジャズマンとしてウィントン・マーサリスの新しいアルバム『ザ・デモクラシー! スイート』(ジャズ・アット・リンカン・センター・オーケストラ名義)も紹介している。

藤田 何よりアルバムの代表曲である「ビー・プレゼント」。(黒人としての)私がここにいる、といった感じなんだろうけど、このマーサリスの作曲・アレンジ、バンドの演奏能力って、ほんとに素晴らしい。モダン・ジャズ最初期の息吹をちゃんと伝えながら、「現代の正統派のジャズってコレですからね」と、ど~よ&ど~だ、の彼らしいレコーディングです。ララ・ダウンズのようなプレイヤーなら、いい意味で「憎たらしい~」って感じでしょう(笑)。

ララ・ダウンズさんのリストは、ジューンティーンスだからと、典型例のジェイムズ・ブラウンやビヨンセを加えるんじゃなくて、御自身がプレイヤーだからセレクションが異なるんだよね。

で、もう一つ、ララさんがかっちょいいのは、ジョン・バティステの新作『ウィ・アー』からの「フリーダム」を入れてることね。ララさんは「わたくし、御クラシックでございます」の人じゃないんだよね。ニューオーリンズ出身のシンガー&ピアニストのバティステは、現在最注目の一人なんだけど、同郷のマーサリスの後輩として、マーサリスのように「(黒人としての)私がここにいる!」をずっと問いかけてきた人です。このあたりのセンスをララさんはちゃんと嗅ぎ取っているね。

ジョン・バティステもぜひ聞いてみてください。「フリーダム」は、ニューオーリンズ黒人~ネイティブ・アメリカン~カリブ系のすべての要素を含んだ、ブルースです。かっこいい!で終わらせるんじゃなくて、動画をよーくみてください。「ジューンティーンス」って、すべての(ぼくたち)カラードの「自由と独立」を祝う記念日なんだってことがわかりますから。

Jon Batiste  “FREEDOM “


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?