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股肱之臣

 平成30年9月4日、台風の影響を受けて朝から激しい雨風の荒れた空模様でした。

 正午過ぎに雨風の勢いが弱まったとき、私は大久保苑の管理者(当時)にご利用者の送迎を指示しました。上長の私に対して「もう少し様子を見てから・・・」と遠慮気味に話す管理者の意見を聞き入れずに。

 間もなく、私の携帯電話に管理者からの着信が入りました。雑音交じりで聞き取り難い状況でしたが、「Mさんのマンション付近で送迎車から降りようとしたら、車のドアが・・・」という助けを求めている内容であることはわかりました。

 連絡を受けて現場に到着した私は、目の前にある光景に言葉を失いました。送迎車の運転席ドアが剥がれかけボルト数本で何とか持ち堪えている状況だったのです。

 2次災害を起こすまいという責任感から激しい雨風を全身に浴びながら力の限りを尽くしドアが剥がれ落ちないように耐えている管理者。防風に吹き飛ばされそうになりながらも送迎車にたどり着き、何とか危機的状況を脱することが出来ましたが、涙目の管理者は「とんでもないことをしてしまった」と言って落ち込んでいました。

 私の判断と指示のミスであると伝えても、気の優しい管理者は首を横に振り「私が軽率だったんです」と、暫くは塞ぎがちな気持ちで日々を過ごしていました。

 あれから3年の月日がながれ、管理者であった彼は、地域のふくし相談センターへ異動となり、部下の育成という役割を担いながら自らも地域福祉の推進に向けて最前線で頑張っています。

 気の優しさに変わりはありませんが、今では自分の考えや意見をきちんと発言し、会議の場では意見をぶつけ合うことさえあります。そんな彼を見て、全身ずぶ濡れになりながらドアにしがみ付いていた姿が懐かしくもあると同時に、今日までの成長ぶりに心がホッコリする今日この頃です。

在宅支援部
田路哲也

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