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101歳のYさん

 この清華苑で多くの方々と出会う事が出来ました。
 その中で勤務して初めて任されたケース担当のYさんついてお話ししたいと思います。

 Yさんは、101歳という高齢な為、普段は、寝て過ごされる事が多い方でしたが、起きておられる時に訪室すると気さくにお話しをしてくださる方でした。

 Yさんは、会いに行くと必ず「はよおとうちゃんとこ行きたい」「はよ会いに来いよ」とおっしゃられ旦那さまの話を嬉しそうにされていました。他にも「私怖そうに見られるけど根は優しいねんで」と笑顔で話されるそんなYさんが大好きになり、出勤すると会いに行くのが楽しみでした。楽しいことが大好き。旦那様が大好き。子どもが大好きでした。

 しかし、子どもには恵まれず、近所の子どもたちを自分の子のように可愛がり、育てたそうです。よく面会に来られた方もその一人とおっしゃられていました。いろんな話をしました。そして、Yさんは私に言いました。
「私は楽しいことが好きやから笑って見送ってなあ…」

 その言葉を聴いたときから、胸に留め覚悟していました。状態が悪く、話もほとんどされなくなったある日、居室から何やらブツブツつぶやく声が聴こえてきました。

 Yさんでした。今までが嘘だったように「よーさん会いに来てくれたからあんたに紹介しようと思とったんや!」「どこ行ってしもたんやろ」亡くなったはずの妹さんや知り合いの方々が来られたと言われました。話された後、急に「抱いて」とおっしゃり両手を高く上げられたので、私はYさんを抱きしめました。

 Yさんの訃報(ふほう)を聞いたのは、それから間もなくの事でした。たまたま非番だった私は、無我夢中でYさんの元へ駆け付けました。その時のお顔は、とても穏やかで微笑んでおられました。

 不思議と涙は出てきませんでした。ああ、大好きな旦那様の所へお迎えに来られた大切な方々の所へ旅立たれたのだなと思いました。

 私もYさんのように亡くなる時は笑顔で見送って欲しい笑顔で生を全うできる人生を送れたらと思いました。

 人は、2度死ぬと聴きました。
 1度目は、肉体が滅んだ時。
 2度目は、その人のことを知る人が誰もいなくなった時。

 今も、私の中でYさんは生き続けておられます。

特別養護老人ホーム 清華苑
瀬戸口有希

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