見出し画像

私はアクター

 グループホーム清華苑で勤務していたときのことです。

 Aさんは加齢による認知症に加え、軽度の知的障害のあるご利用者でした。Aさんは短期記憶障害が顕著で、数分に1度「ここはどこですか。私はここにいてもいいのですか。」「主人はどうして死んでしまったんですか。」といつも不安そうに、繰り返し職員に問いかけました。

 余暇活動として塗り絵や書き物をしている時、職員と一緒に調理をしている時などは不安な気持ちを忘れ、作業に集中されることから日常的に筆記練習を行って頂くことを思いつきました。

 専用のノートを作り、筆記練習をしているとその間は不安な気持ちがよぎることはなくなるようです。私が夜勤をしていると居室から筆記練習ノートを持って詰め所に尋ねてきました。

 「出来ました。」とノートを見せてくれるのですが、筆記練習を促した覚えはありません。なんだろうと思い、ノートをみると「ををなかさん やさしいから すきです」と書いてくれていました。

 感謝の気持ちを文字にして伝えて下さった、純粋なAさんの気持ちを本当に嬉しく思いました。認知症のご利用者の繰り返される訴え。仕事の手を止め、話しを聞くことに苛立ちを感じる事があるかもしれません。しかし、認知症により短期記憶を喪失しているご利用者からすると不安な思いは事実であり、繰り返される訴えは初めて尋ねたことであるのです。

 日常的に認知症者と関わる介護員は上手なアクターにならないといけません。初めて聞いたように受け答えし、安心感を与えることで周辺症状は抑えられます。これからもご利用者に求められる「私」を上手に演じていきたいと思います。

老人保健施設 清華苑養力センター
大中由宣

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?