見出し画像

すずのきらめき ~ 皮

金属の表面が光り輝くさまがどのようにして作られるかをご紹介するシリーズ、今回は「皮」。

表題に「皮」と付けてはいますが、残念ながら今回皮革の類いは登場しません。金属の肌へ鏡面加工を施すことを通称:英語で「Buffing(ばっふぃんぐ)」と呼んでい、この鏡面加工に使用する布などの繊維系道具を「Buff(ばふ)」と呼びます。日本語で「羽布」と書くこともあります。

この「Buff」、もともとは「シカやウシなどの皮革を揉んで柔かく加工した磨き用の皮製品」のことです。実際ごくまれに、なめし皮を使ってしこしこと磨くこともありますが、これはほんとにごくまれでして、いまは名前だけが残っていると言っても過言ではないでしょう。

Buff(以下、バフとします)

知る限りでは、日本では明治の終わりごろに、布を厚く丸く加工した円盤を足踏み式の機構によって高速回転(とは言っても手作業に比べて効率的、くらいの速度)させる「研磨機:バッファ」が加工現場に登場したと思います。人力からモーターへの進化はありますが、現代の研磨機も理論と構造はそれほど変わりありません。

柔らかい素材を磨くため、うちの工房では木綿の布、ウールのものを使っています。木綿だけをとっても、大きさ、その目の粗さ、硬さが色々あります。

画像1

直径だけを取ってもいくつかの種類を使い分けています。小さなものを研磨するときや大きな力を必要とするときは、直径の小さいものを。広い面を研磨するときはなるべく大きいものを。

画像2

専用のバフ研磨機も市販されていますが、うちでは使用頻度が低いこともあって、どこにでもある卓上グラインダーを流用して使っています。ただし、動力(200V)電源を使っているので、相当なパワーとトルクがあります(いちおうプロの端くれなので、こういうところにはこだわっています 笑)。写真の羽布はウール製。硬さがあり、後ほどご紹介する研磨剤が染み込みやすいものです。この機械に強力な集塵機を併せて使います。

ここでも研磨剤登場

またバフ作業では、布ともう一つ大事なものが、研磨剤。この研磨剤は高速回転による熱に耐えうる粘り気(粘度)を持っていて、荒さ(粒度)にもいろいろな種類があります。ほとんどが油脂系で、バフ布に付着させて荒いものから細かいものへと順に、また対象製品の硬さや形状によっても使い分けて作業します。色分けされていて、性能が一眼で判るようにしてあります。通称、赤棒、青棒などと呼んでいます。(写真は、monotaroより引用)

画像3

高速回転するために、作業時間は大幅に短縮され効率的な反面、強力な力で研磨されるために、低融点の錫素材そのものが部分的に溶解してしまったり、過度に研磨しすぎてしまったり、大きな力で変形してしまったりすることもあります。よって、うちではほぼ広い面の研磨にしか用いていません(細かい部分の研磨は、手でシコシコと磨いた方が早く精密に磨けることの方が多いです)。削りかす、バフかすも飛散するので、防じんマスクと集塵設備が必須です。

また、ちょっとした気の緩みから大きな事故に繋がることも稀にあります。(実際私の先輩は、バフ作業中に身につけていたエプロンを巻き込んでしまい、巻き取られ引き込まれ、アレがソレするくらいに顔面ホニャララな大事故に遭われました)。労災事故は考えただけでもゾッとしますが、こういった失敗の情報共有をすることで二度と同じ事故を防ぐことができます。

■「道具から知る錫師のしごと」マガジンはこちら



手仕事の次世代を担う若者たち、工芸の世界に興味をもつ方々にものづくり現場の空気感をお伝えするとともに、先人たちから受け継がれてきた知恵と工夫を書き残してゆきます。ぜひご支援ください。