地雷系祓い屋と霊感ホスト 3話
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地雷系祓い屋と霊感ホスト 2話|日部星花(小説家) (note.com)
3話
〇都内 繁華街 表通り
日が暮れ、あたりが暗くなったころ。
出勤前、いつきとあさひがタピオカドリンクを片手にぶらぶらと表通りを歩いている。
あさひ「あああ~まじやばい今月売り上げ20万ないんだけど。ノルマ厳しいかも」
いつき「まじかお前、大丈夫かよ」
あさひ「この時間にお前とぶらぶらしてる時点で察して」
いつき「同伴出勤してくれる姫がいないんか」
あさひ「うっせ~わ。傷ついたァ~あそこでタバコおごって」
いつき「なんでだよ」
ぶつぶつ言いながらコンビニに寄って煙草を買ってきてやるいつき。
うす暗い裏路地で煙草を吸う二人。
いつき「うぁ~ヤニ沁みるわ」
あさひ「……そういやさ~、お前ってなんでホストになったんだっけ」
いつき「あ~? まあ田舎から出たかったのと~、ま俺、実家と縁切れてるから? 夜職就いてもうるさく言うやついねーわけ。あと単純に稼げるかなって思って」
あさひ「稼げてんの実際」
いつき「……やまあ悪かねえけど~まだこれからだし!」
あさひ「ははは、でもそっか~……」
顔に影を落としたあさひの目に光はなく、不気味な笑みを浮かべている。
あさひ「お前って消えても心配するやついないのな」
いつき「え」
あさひの顔を見て、いつきが目を丸くする。
と、同時に、その場に現れるレイヤ。驚愕するいつきと、あまり表情が読めないあさひの様子。
レイヤ「――よ。あさひ、いつき」
いつき「え、あ、レイヤさん!? どうしてこんなとこに」
ゆりあ「(レイヤの後ろから顔を出して)やほやほ~」
いつき「えっゆりあちゃんと同伴中だったんですか? でもこんな暗い裏路地になんで……」
ゆりあ「いつきこっち来て♡」
いつき「え、え?」
ゆりあ「いいから~!」
いつき「ちょ、ちょっと……」
いつきがゆりあに手を引っ張られ、あさひの近くから離される。
レイヤの後ろにいつきを隠れさせるように立たせるゆりあ。
いつき「なになに、なんすかいきなり……」
レイヤ「――あさひ。ちょっと調べたんだけどさ。颯、ユキヤ、リヒトが消える前、最後に一緒にいたのって全部お前だよな」
あさひ「……」
いつき「……え? あの、」
レイヤ「颯は突然出勤してこなくなった前日、あさひとメシに行っていた。ユキヤもお前と最後に飲みに行ったあと行方がわからない。リヒトはいつきに煙草を頼まれたあと、お前と最後に話してる」
レイヤ(――そう。調べた。ゆりあは夜職の店に顔が利くようで、繁華街の監視カメラはすぐに調べられた)
レイヤ(それに……)目を閉じて回想
ゆりあ『ねえ、あんたこの写真の男知らない?』
地縛霊『そいつらなら前にあっちにいるの見かけたよ』
レイヤ(会話できる霊っているんだな……………)遠い目
あさひ「……それが?」
レイヤ「よく考えればお前が来てからだ、失踪者が出始めたのは。颯が店の金に手を付けたうんぬんの噂も辿ってみりゃ出所はお前だった。
……なあお前、三人に何をしたんだ?」
いつき「ちょっと……いきなり何言い出してるんですか……」
不穏な空気を漂わせるあさひとレイヤに、おろおろするいつき。
そんな空気の中でゆりあがレイヤの横に立って、明るく言う。
ゆりあ「消えても誰も騒がなそうなのを狙って食ってたんだよね?」
あさひ「は……?」
ゆりあ「――店にでかい借金があるやつは店が騒ぐから除外。実家が太いやつも除外。皆から慕われてるやつも除外。人望があるかどうかは置いといて人気のホストも店が騒ぐから除外」
あさひ「……!」
ゆりあ「夜職で失踪は別に珍しいことじゃない。警察も動きにくい。
狩場にちょうどいいからここいらはお前らみたいなのがよく湧くんだよ」
ゆりあ「でももっと早く気付くべきだったな。うまく隠れてたよね。臭いを消すのが上手いやつってたまにいるんだ。あたしの失態だ。れいぴがいなかったらいつきは死んでた」
いつき「え……は……!?」
ゆりあ「人に化けてるんだろお前。いい加減観念し――」
レイヤ「! ゆりあ!」
ゆりあの言葉を遮るようなタイミングで、凄まじい勢いで彼女に黒い『ナニカ』が迫る。
ゆりあは表情一つ変えず、何もないところから刀身が黒い刀を取り出すと、目にも止まらぬ勢いでそれを切り捨てる。
切り捨てられ、ボトボトとゆりあの足元に落ちたのは、黒い触手のような、黒い木の枝のようなものの残骸。それを見て尻餅をつくいつき、後ずさるレイヤ。
いつき「ヒィッ」
レイヤ「おい、ゆりあ! だっ……大丈夫なのか!?」
ゆりあ「うん。へいき~」
レイヤ「つうかその刀なんだよ! どっから出した!?」
あさひ「――あ~あ~~~。な~んだレイヤさん視える人だったんですか~。気づかなかったな~」
レイヤ「っ、!」
あさひ「せっかく手に入れた人皮使って化けてたのに……よりによって「同僚」に霊感EXがいるとか運なさすぎ」
バキバキバキ、と、音を立ててあさひの『体』にひびが入っていく。
あさひ「しかも……祓除師に見つかっちゃあ最悪じゃんかあ」
〈人面蜘蛛 妖:A級〉
そして、首から上を残して腕、足が壊れていき、まるで卵のからを割って出てくるかのように、裏路地にはあさひの顔だけを残した巨大な人面蜘蛛が現れた。
いつきは気絶。レイヤも真っ青になって震えて後ずさる。
レイヤ「あ……、あ……」
ゆりあ「うわ、なに、きも~。人皮ってなんだよも~。もしかしてゆりあが感知できなかったのってそれのせい?」
ゆりあ「おかしいと思ったんだよね~。人面蜘蛛ごときが化けたところでゆりあが感知できないなんてあり得ないもん。その飛び道具どっから手に入れたの?」
あさひ「言うと――思うか!?」
人面蜘蛛が尖った足をすごい勢いでのばし、ゆりあに向かって攻撃をしかける。鋭くとがった足の攻撃を受ければ、串刺しにされてしまう、そんな攻撃だ。
ゆりあ「んーん、思わな~い」
ゆりあはなんなくそれを避け、追撃もひょいひょい避ける。
あさひ「……ちょこまかと」
ゆりあ「てかゆりあがさっき斬ったのってもしかしてお前の足? 伸びるの? きも~」
あさひ「黙れ!」
ゆりあ「おっとっとっと」
人面蜘蛛による猛攻を、ゆりあは全て刀で完璧に受け、時に逆に足を切り落として反撃する。青い血が飛び散り、うええ、と吐きそうな顔になるゆりあ。
少し後ずさった人面蜘蛛が、「くそっ」と毒づき、今度はレイヤを狙う。
ゆりあ「ま~弱いのから狙うよね普通! でも無駄だよ!」
レイヤ「!! ゆりあ! 足元だ!」
ゆりあ「!」
レイヤが叫び、彼を庇える位置に来ていたゆりあがその場を飛び退る。
すると、先程までゆりあが立っていた地面から蜘蛛の足の先が勢いよく飛び出してきた。
あさひ「く……余計なことを」
ゆりあ(へー、地面の下を伝って……。ゆりあがれいぴを庇う位置に来るって計算してたわけね。なかなか頭使うじゃん)
ゆりあ(……てか、ほんとにれいぴ、感知能力が鋭いんだな~)
ゆりあ「とはいえあんま時間かけられないし。――ま、もう雑でいいか」
ゆりあが刀を構え直す。
それを見て人面蜘蛛がふたたび攻撃をしかけようとするも、その足ごと、人面蜘蛛本体が縦に真っ二つに割れた。
ゆりあ「――『黒桜一閃』」
レイヤ(……! すげえ……)
刀を下ろし、すたすたと真っ二つになった蜘蛛に近寄っていくゆりあ。それを、レイヤがあっけにとられた様子で見つめている。
顔が残してある方の、人面蜘蛛の右半分に近寄って行ったゆりあは、その体に飛び乗り、刀の切っ先を「あさひの顔」の目の前に突き付けた。
ゆりあ「雑魚君答えて。人皮って何? どこで手に入れた?」
あさひ「言う……わけ……」
ゆりあ「あ、そう? じゃあ、雑魚君がお話したくなるようにゆりあがお手伝いしてあげ――、ッ!!」
言葉の途中で、何かに気がついたように表情をこわばらせたゆりあが、その場を大きく飛び退く。
すると次の瞬間には、どおん! と派手な音を立て、人面蜘蛛が爆発。
レイヤ「うわっ!?」
ゆりあ「……自爆……」
ゆりあ(口封じかな……。
あーあ。な~んか、面倒そうな案件の予感~……)
すると、音に気がついたモブが「なんだなんだ」「なんだよ今の音」「爆発?」「花火じゃね」「こんな街中で?」とわらわらとやってくる。
ゆりあ「やば! 逃げよ、れいぴ!」(さっといつきを肩にかついで走り出す)
レイヤ「え……あ、ちょ、待てって!」
〇ホストクラブ『Ageless』 裏手
レイヤ「はあ、はあ、死ぬかと……思った……」
疲れ果て、クラブの裏手の壁に寄り掛かって座り込むレイヤ。ゆりあはけろっとしている。
ゆりあ「おつかれぴ~♡ いつきここに寝かしといていい?」
レイヤ(いいって言う前に地べたに寝かしてるし)
ゆりあ「今日はありがとねれいぴ。ちゃんと今月いっぱいシャンパン入れたげるからね」
レイヤ「ああうんそれはめっちゃありがたいんだけど……。ゆりあお前って、まじでゴーストバスターだったんだな」
ゆりあ「まーね!」
レイヤ(んで、あんなんといつも戦っていると)
刀を使い、人面蜘蛛を真っ二つにするゆりあを思い出すレイヤ。はあ、とため息。
レイヤ(命がいくつあっても足りなさそーな世界だな。そりゃ月収○○万にもなるわ……)
ゆりあ「でもれいぴすごかったね。ゆりあより先にあの地面からの攻撃に気付いてたし」
レイヤ「ん? あああれ……。でもその言い方だと、ゆりあ自分で避けれたんだろ」
ゆりあ「うん。でも、れいぴ、本当にすごい才能だよ」
レイヤ「はは……」
レイヤ(嬉しくね~~~……。これのせいでどれだけ苦労してきたか)
ゆりあ「でさあ、れいぴ。物は相談なんだけど」
レイヤ「……うん?」
ゆりあ「『人皮』なんていう謎のブツが出てきたからには、ゆりあも調べなきゃなんだけど、何分人手が足りなくて」
ゆりあ「れいぴ、ゆりあの助手やる気ない?」
レイヤ「……………、は?」
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