君の名は(ねりけし、または)
コスメポーチの脇に5mmほどの黒い物体を見つけたのは、化粧道具を手に取ろうとした時だった。幸い、何のごみだろうと頭を巡らすのに十分の時間があった。初めに言っておくがそれは生き物の類ではなかったので安心してほしい。
そっと手に取り、手のひらの上でコロコロと転がす。ほこりではなさそうだ。
大きさ。黒色の具合。
そこで思い出したのは全国の小学生が一度は遊んだであろう、ねりけし。
お前こんなところでまだ生きていたのか。旧友に会った気持ちだ。なめらかな光沢を見るとちょっと遊んでみたくなる。
指でつついた。
.
ぶにゅっ
とした感触があり、指には黒い色がびっしり付いた。
ややっ、君はねりけしではなかったのか。慌ててこすっても全く消えず、黒色が広がった。
悲鳴をあげる一歩手前、
「アイラインを引いた後はぼかしましょう」
と頭の中でこだまする。
そうか、お前は化粧に使う…!
果たしてそれはクリームペンシルアイライナーの芯だった。
使いやすい代わりに、長く出しすぎると折れてしまうのだった。
家を出る時間が来てしまったため、駅に向かった。
今、指に黒色が付いたまま電車に乗っている。
パンケーキがおいしかったです。
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