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第14回 植木等、成城の街に降臨!

 今号では、‶我が永遠のヒーロー〟植木等が成城に現れた映画をご紹介します。
 全盛期は東宝映画に出演し続けたことから、植木等には成城ロケの機会も多く訪れました。まずは主演第一作目の『ニッポン無責任時代』(62)。植木さんが生涯に亘って苦しめられることになる‶無責任男〟のキャラが与えられた作品ですが、この映画では植木等扮する平均(たいら  ひとし)がスイスイと潜り込む「太平洋酒」の社長(ハナ肇)の邸宅が、成城五丁目9番の「旧中村邸」でロケされています。社長宅を訪ねた平均は、家の脇道で「やせ我慢節」なるC調ソングを歌い、家の中では若き日の峰岸徹(のちに成城住まい)のギターを奪い取って、「ドント節」を歌ったりします。
 社長の愛人である芸者(団令子)の車に乗り、飲酒運転がバレそうになるのは成城駅前の「石井食料品店」前にて。見れば、のちに高級スーパー「成城石井」に変貌するとはとても思えない、素朴な店構えに驚かされること必至です。

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 次作『ニッポン無責任野郎』では、さらに成城ロケがスケールアップ。渋谷から東横線に乗り、自由が丘駅で無賃下車した主人公・源等(みなもと ひとし)が踏切を渡るや、そこはいきなり成城駅の南口となります。これは監督の古澤憲吾がいい加減なのではなく、それだけ植木等のスケジュールが調整しにくかった証し。続いて、「住友銀行」前で靴磨き中の男(井上大助)から煙草をだまし取り、東宝方面へと歩き出す源等がいきなり主題歌の「無責任一代男」を歌い出すと、何故かそこは北口の「成城パン」横の交差点! ここでは当時の成城駅前商店街の様子が一望できるうえ、「ニイナ薬局」の前にあった広場(当時は駐車場。のちに小田急OXとなる)が見られるのが貴重です。

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 ハナ肇扮するサラリーマンと出くわすのは、洋品店「マルケー」前にて。画面には和菓子店「青柳」のビルも写り込みます。「マルケー」の店先は江利チエミ主演の『サザエさん』(56)や坂本九主演の『アワモリ君乾杯!』(61)、「青柳」の二階にあった喫茶室は『私が棄てた女』(69/浦山桐郎監督)という日活映画でもロケ地となっています。面白いのは、東京駅八重洲口で団令子と入る銀行の内部が、やはり成城の「住友銀行」で撮影されていること。都心の銀行は、まず行内ロケなどさせてくれなかったのでしょう。

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 続く‶日本一〟シリーズでも、成城ロケが実施。夜中の数時間と昼食のための一時(いっとき)しか撮影の時間が取れない植木等には、撮影所から程近い成城の街が格好のロケ地だったのでしょう。『日本一の色男』(63)で光等(ひかる ひとし)が銭湯に入るシーンは、南口富士見通り商店街にあった「成城湯」で撮影されています。これは壁の看板(店名)から判明したものですが、これに気づいた人などまずいなかったはずです。
 第二作目の『日本一のホラ吹き男』(64)では、早稲田キャンパスで歌っていた初等(はじめ ひとし)が本屋に駆け込むのが、石井の隣にあった「吉田書店」、いきなり桜並木で歌い出すのが成城の桜並木(駅前通り/かつては創立者の家があったことから‶沢柳通り〟と呼ばれた)と、さらに成城ロケが続きます。夜間の桜並木シーンは、知人の母親による「昭和39年の桜の季節、夜中にいきなり植木等が家の前にやって来て、馬鹿踊りをして帰っていった」との証言が決め手となりました。会社のマドンナ・浜美枝と結婚して持つ家は、すでにご紹介したとおり四丁目にある「みつ池特別保護区」内にあった住宅内で撮影されたものです。

「みつ池特別保護区」についての記事↓

 シリーズの頂点と言える『日本一のゴマすり男』(65)で植木が演じたのは、父親(中村是好)が果たせなかった出世を果たすため、ゴマをすってすってすりまくるサラリーマン・中等(なか ひとし)。その中等がゴマすりの一環として、釣った魚ならぬ、魚屋で調達した魚(干物まで混じる!)を届けるのは、成城の隣町・砧の高台にある課長(犬塚弘)の家。筆者の住まいからも程近く、植木等本人が終の棲家を構えた町内でこんなロケが行われていたとは、実に感慨深いものがあります。
 隣接する「富士見公園」(今では富士山は見えない)には巨大な滑り台があり、映画でも子供たちが歓声を上げて滑降する姿が確認できます。絵になる公園だけに、ここは「ウルトラマンA」(第39話)、「ウルトラマンタロウ」(第34話)、「ウルトラマンレオ」(第31・36話)といった‶ウルトラ〟シリーズや、「太陽にほえろ!」(第83話他)、「傷だらけの天使」(第17話)、「赤い運命」(第7話)など、数多くのテレビドラマのロケ地となっています。

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 シリーズ末期の『日本一のワルノリ男』(70)では、南口の「高橋工業所」の店先に、小山ルミ扮するモデルの等身大パネル(当時売り出しの水洗トイレの広告宣材)が置かれるシーンがありました。撮影所から近いという理由で、当店がロケ現場に選ばれたことは言うまでもありません。
 東宝映画では他にも、グループ(クレージーキャッツ)全員で出演する‶クレージー作戦〟シリーズというのがあり、この中の一作『くたばれ!無責任』(63)では、現在の「成城ハイム」前にあるX字状の坂道下の家がロケ地になっています。やはりハナ肇の自宅がある設定で、ここでは懐かしい青と黄色のツートンカラー時代の小田急線の車両を見ることができます。宮沢りえが初出演した映画『ぼくらの七日間戦争』(88/菅原比呂志監督)では、舞台が千葉の館山であるにもかかわらず、いきなりこの坂道が出現。実に不思議な気分が味わえます。

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※『砧』821号(2021年9月発行)より転載(写真追加の上、『日本一のゴマすり男』の項を加筆)

【筆者紹介】
高田雅彦(たかだ まさひこ) 日本映画研究家。学校法人成城学園の元職員で、成城の街と日本映画に関する著作を多数執筆。『成城映画散歩』(白桃書房)、『三船敏郎、この10本』(同)、『山の手「成城」の社会史』(共著/青弓社)、『「七人の侍」ロケ地の謎を探る』(アルファベータブックス)の他、近著に『今だから!植木等』(同)がある。