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南日本新聞コラム/第5回

鹿児島の地元紙「南日本新聞」にてコラム欄「南点」で連載を担当することとなりました。2020年7〜12月の半年間、隔週・水曜日に掲載されます。南日本新聞を購読している方はぜひご覧いただければと思いますし、こちらのnoteでも掲載内容全文を転載いたします。

第5回/離島とサイクルツーリズム

世界最大の自転車レース「ツール・ド・フランス」が8月29日に開幕した。新型コロナの影響で2ヶ月延期となった107回目の今大会は、時に険しい山岳を含む走行距離3484キロの過酷なコースを21日間かけて旅をする。例年、沿道には観客が押しかけ、レースの模様は全世界で35億人が観戦するほどで、人気はサッカーやワールドカップや五輪にも匹敵するという。

自転車はポピュラーなスポーツであると同時に、庶民の生活にも根付いた乗り物だ。環境負荷の低減や渋滞の緩和などの効果を期待して、自転車を活用したまちづくりや観光に取り組む事例も多い。ドイツやオランダなどの自転車専用レーンの整備は見習いたいし、国内ではしまなみ街道や琵琶湖がサイクルツーリズムの先進地として人気を集めている。地域活性化にも期待される一方、サイクリストのマナー向上や車や人と共生するルールづくりは官民一体となって取り組むべき課題だろう。

離島でもサイクルツーリズムの可能性は大きい。運動苦手な私が徳之島に住むのをキッカケにロードバイクに乗り始めた。適度な運動になり、集落の細かな道を寄り道しながら島をのんびり巡るのにも、自転車はぴったりだった。吸い込まれるような青さの海やサトウキビ畑を横目に、真っ直ぐな道を風を感じながら疾走するのも、島の醍醐味だ。高校の夏、父の単身赴任先だった沖永良部島へ、ママチャリをフェリーに乗せて友人と遊びに行き、島を駆け抜けた際の暑さや疲労感は体に刻み込まれている。思い返せば、旅の記憶はいつも自転車とともにあった。

奄美群島を自転車で旅する「アイランドホッピング」にもロマンと可能性を感じる。徒歩よりも行動範囲が広がり、車よりもフットワーク軽く自由に島々を移動できる。自らのエネルギーだけで移動する達成感や予想外の景色や人との出会いが、日常や旅を豊かにしてくれるだろう。

(2020年9月2日 南日本新聞掲載)

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