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COVID-19罹患体験と急性期漢方の実際【漢方医放浪記】

 満を持して我が家に襲来したウイルスにより一家4人全員が発症したCOVID-19の体験記をまとめてみようと思います。

 診断と治療は私自身が担当し、必要薬剤は私或いは友人医師の処方によります。保険適応を超越する部分につきましては、勿論自由診療の範疇として実施しております。本記事の内容は参考にとどめ、或いはエンターテイメント性の高い創作物と仮定し、医薬品は用法用量を守って正しく安全にご使用くださいませ。

 なお、エキス製剤の番号はメーカー問わず国内共通のため、既出の処方名を番号で表現する場合がございます。症例は発症日の順番に提示いたします。それぞれの発症日をday0と表現し、(x)日目をday(x)と表記します。


①息子(3歳)の場合
 園の迎えの時には元気だった息子。家に着くと身体が熱く、体温計は39.2℃を示しました。脈は浮数大渋で軽い咳のほかは無症状。コイツは怪しいと抗原キットで検査をすると、10分待たずに15秒ほどで陽性判定が出ました。
 太陽病位合少陽病位虚実間証と考え、清肺排毒湯の変法を試みます。桂枝湯(45)+越婢加朮湯(28)+小柴胡湯(09)から始めましょう。内服4時間後にまだ解熱していないことを確認し、追加で28+升麻葛根湯(101)を与えます。夜はぐっすり眠り、翌朝day2には37℃台に落ち着いてきました。咳が増えたため五虎湯(95)+09に切り替えて、夜に再度内服。day3朝に元気だからと油断して95のみにしたところ、夕方に「身体が熱い!」と咳が増えて40℃の発熱。しまった、まだ柴胡剤が必要だったのかと反省しながら28+09+桂枝茯苓丸(25)に変更します。微小循環障害は必発ですから、駆瘀血剤を併用しましょう。流石に高熱なのでアセトアミノフェンも飲ませようと思いましたが、まさかの息子が拒否。おまい、いつから自然派になったんだ。ぐっと堪えて寝る前に追加で28+09+25を作ります。day4には38℃になって身体も楽になってきた様子。ここからは28+09+25を続けて、day5には完全に解熱して咳が僅かに出る程度に軽快しました。
 三歳児には成人用量の1/3が推奨されていますが、今回は1/2から2/3量くらいが必要でした。勿論、生薬毎にグラム数を計算して微細な調整をしています。
 

②私の場合
 息子の発症した翌日に私も発症しました。潜伏感染期にもらったのでしょう。その朝、頭痛と悪寒があって脈が浮数弦やや渋でしたから、微熱程度でしたが発症早期と考えて治療を開始しました。28+45+101を内服して3時間後に45を追加内服して解熱。喉の痛みが残りましたので、day1に101+桔梗湯(138)に切り替えて夜までに3回内服しました。day2から咳が出始めて、脈は浮数大緩。これは太陽病位虚実間証に水毒が強いと判断し、95+101+138+五苓散(17)を内服し、その6時間後から95+101に切り替えます。翌day3には全ての症状が治りました。


③娘(1歳)の場合
 私の発症した翌日に娘が発症しました。37℃台の微熱でしたが、脈は浮数大渋で腹痛の訴えがあります。大脈も虚の脈でしたから、これを太陽病位虚証の水滞型と診断し、桂枝湯(45)+五苓散(17)を開始しました。成人の1/3量を内服してすぐに解表しましたが、day2まで鼻汁が残り45+葛根湯加川芎辛夷(02)に変更。day3には治癒しました。
 ところがday8の朝、悪寒と右頚部痛を訴えながら39.8℃の発熱です。脈はやや浮、数緊ですが渋ではありません。半表半裏の熱がありそうで、腹をみますと1歳児ながら相当の胸脇苦満があるではありませんか。口の中をみますと扁桃が右側だけ赤く腫れていて、同側の顎下リンパ節も触れ、圧痛があります。右側を押すと娘は「いたぁい」と言い、左側を押すと「ばんばんぶー(大丈夫)」と応えます。急性扁桃炎に違いありません。
 戦略を変更して、眠前に95+09+138を與えます。石膏と甘草の作用に期待して、五虎湯(95)と桔梗湯(138)は挑戦的な成人1回量です。小柴胡湯(09)は副作用が怖いので大人しく1/3量にしておきましょう。はたして娘は翌day9には38℃になり、もう一度内服して概ね元気になりました。
 しかしながら、咳と微熱が残ります。さて治療の仕上げをどうしようかと悩んでいたところ、

娘、覚醒。

 娘の行動により、柴陥湯さいかんとう(73)に決まりました。
 これは小柴胡湯しょうさいことう小陥胸湯しょうかんきょうとうの合剤で、生薬としては小柴胡湯に「黄連おうれん」と「栝楼仁かろにん」を足したものです。どちらも清熱作用(抗炎症作用)の強い生薬ですが、栝楼仁が潤し(化痰)、黄連が乾かす(燥湿)ことで絶妙な反応が生まれます。かなり苦味の強いことが難点で、大人でも飲みにくく感じる人の多い処方です。
 驚くべきことに、内服して4時間ほどで一気に解熱し、咳が激減しました。翌朝には完全回復し、念の為にともう1回内服しましたが、これで治療は終了です。
 

④妻の場合
 最も症状が重かったのは、最後に発症した妻でした。他疾患の治療中であったことも影響したのかもしれません。その日の夜に「寒い」と訴える彼女の脈をみると、浮数細渋でした。半日前には沈遅微弦の真武湯証でしたが、これは発症すると考えたほうがよいでしょう。真武湯(30)の二倍量に升麻葛根湯(101)を加えます。
 翌朝(day1)、体温は正常ですが悪寒の訴えは続き、脈は浮数細渋で変わりません。太陰病位合少陰病位の治療中にCOVID-19を発症すると、極めて厄介なことになります。もう一度30+101を内服し様子をみていると、4時間後に悪寒の消失に続いて39℃の発熱と腹部症状が出現しました。気分が悪いというので診察すると、血圧85/54mmHg、心拍数117bpmとショックバイタルです。室内気でSpO2 97%と酸素化は保たれていますが、危険な状態です。脈は浮数大緩渋・結滞。太陽病合太陰病位虚証から数時間で厥陰病位に入りました。やはりこれは普通の感染症ではない。傷寒だとしても、かなりタチの悪いものだと私は確信します。
 ただちに越婢加朮湯(28)+小柴胡湯(09)+真武湯(30)を用意して内服してもらいます。真武湯を止めてはいけません。2倍量いきましょう。すなわち、本来は1日3回のところを、4時間毎に内服して1日6回にするのです。2回目の内服時には血圧が回復し始め、3回目の内服後に解熱の兆候がありました。ここで駆瘀血作用の強化を期待して、さらに桂枝茯苓丸(25)を加えます。翌日までに腹部症状は軽快しました。
 day2以降は微熱が残り咽頭痛と激しい咳が主症状に変化したため、五虎湯(95)+桔梗湯(138)を試しましたが、気持ち悪くなってしまうので断念。麻黄や石膏が厳しいのでしょう。そこで桔梗湯を頓服しながら、6〜8時間毎に28+30、09+45、73+30、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)を使い分けました。
 day5に漸く元気になって、安心することができました。
 …と思ったら再び心臓の調子が悪くなって、アレコレ調整してどうにか安定するに至りました。今の処方は秘密ですが、元気に生活できるようになりました。命のあることに感謝。現代医学で治せないなら、私がどうにかします。


 ダーッと書いて随分と長くなってしまいましたが、以上を我が家の罹患体験のご報告とさせていただきます。
 このように漢方治療は急性期診療にこそ役に立つものです。慢性疾患の治療は応用編ですから、古典に立ち返って本来の漢方医学から修める人が増えたらいいなぁと思います。

 世の中には色々な病があります。原因が分からないものや、治療方法の確立されていない病が数え切れないほどあります。

 「おれが万能薬になるんだ」なんてセリフは漫画の中のことだけれど、わりと本気で思ってます。誰かの夢を笑う人に、夢を叶えることはできません。

 だから私は今日も祈ります。
 自分の為に、誰かの為に。


 拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、生命の輝きが理不尽に消えることのない社会の実現を。



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