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有効数字で考える天麩羅10年の道

 見て学ぶ10年で賛否を集めた天麩羅修行の報道は記憶に新しく、およそ職人と呼ばれる業種の「修行」はブラックボックスです。

 10年という期間は様々な場面に現れます。例えば弓道では「手の内10年」という格言があり、奥義のひとつたる弓の持ち方(手の内)の習得に10年かかると云われています。医者も10年くらいすると大抵のことができるようになって、いわゆる中堅、一人前と表現されることが多いものです。

 しかしながら、自分が医者10年目だった頃を振り返りますと、果たして本当に一人前だったのか疑問が生じます。もちろん医術も道ですから、それで完成ということはありませんが、この10年目という節目には落とし穴があります。

 それは自分が一人前だという誤認です。

 大抵のことができるようになると、人間には「慣れ」と「慢心」が生まれます。偶然何回も大丈夫だったことを「絶対に大丈夫だ」と誤認しうる時期が10年目ではなかろうかと、私は思うのです。

 研修医時代に教わった恩師の言葉に「医者10年目は最も信用ならない」というものがあります。当時は想像もつかない年次で、研修医の視点から見える10年目の医師は何でも出来てカッコいい印象でしたから、あまりピンときませんでした。ところが、自分の学年が上がっていくにしたがって、その言葉の真意が分かりました。正常化バイアスが働いてミスが増える時期なのだと、振り返るとわかります。慢心はミスを招きます。道を極めようとするなら、常に真摯でなければならない。恩師はそう教えてくれました。


 ところで、10年目という現象が訪れる時期には個人差があります。

 このことは有効数字の観点から明らかです。


 有効数字という言葉を聞くのは久しぶりだ…或いは聞いたことなどないという方が多いかもしれません。有効数字は実測した数値の精度を示す表現であって、日常生活の至るところに見られます。

 例えば「有効数字2桁」の場合、1.2とか98のように、確実に正しいと言える数値が2桁まで表記されます。「有効数字2桁の世界」では、1.2410489593も1.2です。数字の丸め方には色々ありますが、四捨五入か切り捨てが多いでしょう。
 1200の場合、有効数字が何桁なのか判然としません。2桁かもしれませんし、4桁かもしれません。ゼロの部分が厄介なのです。そこで明確に表現する場合、「1.2×10の3乗」のように記載します。×以下は大きさの調整であり、有効数字は2桁であることが分かります。

 さて、天麩羅10年目を考えます。

 有効数字は1桁でしょうか、2桁でしょうか。
 私は有効数字1桁と考えます。何故なら修行の年数について「9年の修行が必要」とか「習得に11年かかる」という表現を聞いたことがないからです。10年というのが目安であって、1年や20年ではない、10年くらいだということが推定されます。

 有効数字1桁の世界では、5から14までが10です。
 切捨ての場合には10から19までが10です。

 したがって、天麩羅10年は5年から19年まで幅のある期間であることが分かります。いずれにしても長いですね。私は家で天麩羅を食べることにします。


 医者の一人前は何年目か、というのは非常に難しいことで、診療科によっても異なりますし、修行の積み方によっても個人の適性によっても変わります。ですから断定することはできませんが、ひとつの目安を提示いたしましょう。

 医者は20年で一人前です。

 有効数字は1桁、端数は四捨五入と考えます。
 もちろんこれは平均的な話ですから、遥かに短い年数の名医もいれば、年数を重ねただけの藪医者もいます。人の生死に関わる業界はシビアでなければなりません。自分の判断ひとつが誰かの人生を変える仕事です。


 拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、貴方のご家庭で天麩羅を揚げるときに、油があまり跳ねませんように。




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