ガールハント　《詩》

「ガールハント」

1964年型のレストアベース
6Vのタイプ1 ビートル

格安で仕入れたと先輩は大喜び

コイツをレストアして
ピカピカに仕上げるのが夢らしい

無理矢理　車検通して公道デビュー

夏の終わり　湘南へ出発

狙うはサーファー姉ちゃん

ガールハント　ガールハント

安物のアロハ羽織って
にわかサーファーの出来上がり

だってサーフィンなんてやった事ないもん　

先輩も僕も


朝早く調布飛行機近くで待ち合わせ

ねぇ先輩
湘南って何処？
行った事無いよ僕

先輩は海の側に決まってるだろう…

ラッキーストライクに火を付けて
そう答える

そのくらい僕でも知ってる

少し頭が悪いんじゃ無いかな、先輩

どのくらい時間かかる？
そう聞いたら　

直ぐだよ…だって

先輩が直ぐって言うなら
直ぐなんだろうね…多分

クーラー無いし暑いし

三角窓全開で風を
ビートルの中へ取り入れる

せっかくセットした
リーゼントも台無し

オーディオなんて無い

ラジカセに電池入れて
チャックベリーのカセットテープ
気分は高まるね


なんだか　嫌な雰囲気
遠くで雷が光るのが見えた

案の定　雨も降り出したよ　

だんだんと雨足は強くなる

オモチャみたいな
小さなワイパーが全開で視界を作る

えっ…マジで
ワイパーは急にスローダウン

空冷四気筒のエンジン
死にかけてるよ

あっと言う間に
ビートルはただの鉄の塊に変わった

先輩はガソリンスタンドまで押そう
そう僕に言った

俺はハンドル操作するから　
押してくれよ…だって

来るんじゃ無かった
心の中でそうつぶやいた

30分以上　雨の中
鉄の塊を押し続けた

やっと見つけたガソリンスタンド

リアのフード開けて
プラグをZippoで焼いて
ワイヤーブラシかけて…

応急処置も虚しくビートルはこの日
息を吹き返さなかった


ねぇ先輩

サーファー姉ちゃんは！
ガールハントは！
ガールハント！

チャックベリーだけか
歌い続けていた

Photo : Free Pic