Seiichiの宴

Seiichiの宴

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なかにし礼のイリュージョン 袖山誠一

 思わず涙があふれる好きになった曲がある。その曲は石狩挽歌といい、作詞なかにし礼の曲なのだが。最初はその曲にはあまり惹かれるほどではなく聞き流していたのだ。それがある時突然、その曲に心を奪われてしまい。聞いていて崩れるように心に響いて襲ってきたのだ。この曲はヒット曲なので当時街中には何処からも聞こえてきた曲だ。しかし歌謡曲や流行歌には無関心で冷ややかな目で見ていた。それなのに、こうも簡単に夢中なったのか、その変わりようが理解できない。  クラリネットでその曲を吹いて、その曲

    • ヨハンシュトラウスと二宮堰 袖山誠一

       ニューイヤーコンサートをテレビで見て、釘付けになった。  元旦やることがないので、一人ふて腐れている時に偶然スイッチをつけたら、この華麗な新年パーティーの番組だ。  楽しくて思わずテレビを下(かか)えて僕もステップしちゃった。だって紳士淑女の軽快な動きのダンス、豪華な舞踏会だ。さっき一人で乾杯したワインがかなり効いてきたな僕も乗っている。テレビの中からは破れんばかりの拍手が聞こえるし、相変わらずの軽快なリズム音楽の波、そして着飾った紳士淑女の軽快なダンスの波波。しかも指揮者

      • 紫式部日誌を読む 袖山誠一

        「忙しいのよ」小さな声の…紫式部  十月下旬まで夏季の暑さが去らずで、うんざり。でも今朝突然の冷気が身に纏わりつくぐらい。少し寒いくらいで、長袖のシャツを羽織ってほっとする。  さて夜勤上がりの朝食だ。たまらなく待ち遠しい。今日は秋の爽やかさの中での更に美味しそう。この予感が予感を呼び嬉しい。 注文したての温かいコーヒー。ゴクリと飲み「うまい」。 この時の喜びはたまらない。一番嬉しいのだが。 さてと、突然に向かい合わせの席にいそいそと中年の女性が座りながら 「ごめん、

        • 夏の一夜、足利の庄 袖山誠一

           昭和二十三年と言えばだいぶ昔の話で、敗戦復興の最中であった。僕の住んでいた町、足利は機織(はたおり)の町で、朝から一斉に町中で、はたおり機械が動き出しその喧騒の渦の中に飲み込まれたようだ。足利銘仙といえば大変人気のある反物で。関西方面からの取引が多く、活況を呈していた。一言でいえば、町中が織物産業で沸騰していた。  町の中心にある鑁阿寺(ばんなじ)の夏の夜祭が、ここの人たちの待ち遠しい毎年の楽しみなのだが、今日から始まり、とばりが降りる頃になると、そちらの空が明るい。祭り

          舞い降りてきた女 袖山誠一

          髪の長い女 腰まで届く髪が  小さなボクの手に触れる 風に揺れてくすぐったい 二人は歩いてる 夕日の中 日が翳げりかけようとする まどろみの時 夕日に背を向けての帰り道 細長い畑のあぜみちが うねうねと曲がる 二人の影が 道路に 映り 面白い 思いっきり飛び跳ねる ボクの小さな影 女の影が風に吹かれてる スカートのかたちが ふわふわと浮いて軽い 飛んでいきそう 二つの影が絡み合あって 心がウキウキする 影を見て ボクはさらに思いっきり飛び跳ねた でもその長い髪 切ってしまう

          舞い降りてきた女 袖山誠一

          バイバイ僕の軽トラ 袖山誠一

           もう夜空の上まで来たぞ。ここからはあんなに小さく豆こい家なんだ。オイラの家は、主人Seiichiと二人で暮らしてたのさ。  だってオイラは軽トラなんだ、でもう走れないのさ、廃車になって、そう死んでしまったのだ、だから別れる前にご主人様に挨拶してるんだ、振りかえってバックランプを力一杯踏み赤いランプの点滅を送っているのだ。見えるかい? 「見えるよ、よく見えるさKei!」  僕は君をKeiと名づけ家族のように親しめを込めて呼んでいた。  でもビックリだな、あんなに頑張り屋

          バイバイ僕の軽トラ 袖山誠一

          片目のフクロウ 袖山誠一

          僕はおじいちゃんと寝るのが好きだ。だっていつもお話が聞けるしさ。「ねえ、今日はどんな話なのかなー」なんて甘えてしまう。  「う〜ん、今日は寝ようか」なんて意地悪は「やだよやだよ」泣いちゃうよー。 「そうだな、それじゃーこの家に棲みついていたフクロウの話にしよう」 僕もそのフクロウは知ってるんだ。少しの沈黙が流れる。すると突然おじいちゃんの声「ホー、ホー、ホロホロ、ホー」とフクロウの鳴き声、しかも低くて図太いそりゃーフクロウそっくりだ。こわいったりゃありゃしない、思わずおじいち

          片目のフクロウ 袖山誠一