e-saka YSK

編集者です。

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Ready or Not? 第1話 

<あらすじ>母親が倒れたとの連絡で15年ぶりに帰省した未央は、車窓から見えた鎮守の森の風景に酷く胸騒ぎを感じた。かつての同級生で、未央の兄と結婚し、嫁いできた蘭に森についての話を聞くが、彼女は多くを語らなかった。偶さかの邂逅により明らかになる、幼き子供たちが遭遇した忘れられた悲劇。そして、所在不明の兄と双子の子ども。鎮守の森でいったい何が起こったのか? 真相が明らかになるとき、深淵の扉が開かれ、「やって来る」。      * 「もういいかい?」  まぁだだよ、とアキくん

    • Ready or Not? 第3話

       次の日。未央は「急に仕事の連絡が入った」と言って帰り支度をはじめた。といっても、急遽の帰省でそれほど荷物は持ってきていなかったので、小さな肩掛けのボストンバッグに化粧品などを詰めるだけだった。着替えは持ってきていない。まだ、彼女の衣装箪笥が一棹残っていて、そこに畳まれた洋服がきれいに収められていた。 「なんなのぉ。もう少しのんびりしていけばいいのに」  道子は残念そうに引き留めたが、未央は首を振って、 「無理して会社出てきちゃってるし。お母さん、元気だってわかったから。もし

      • Ready or Not? 第2話

         翌日、未央はカーディガンを羽織ってあぜ道を歩くことにした。  赤とんぼの茜色は日差しに照らされ鈍い金属の輝きを放っていた。あぜ道の脇には田へと水を引く細い水路が通っている。かつてはそこを飛び越えるのも怖かったほどだが、今となっては一跨ぎできるほどの狭さだった。あれほどたくさん見つけられたザリガニやメダカ、水生の昆虫たちはどこへ行ってしまったのだろうか。かろうじてタニシが動いているのを見かけたくらいで、水の流れとは対照的に生命感を感じることができなかった。  田に目をやると、

        • 講座【編集の編集】、開催します。

          ――編集には100の顔がある。 編集と名がつけど、100人いれば100通りの仕事(内容、やり方、スタイル)があるのが「編集」。 編集者は現場で何を思い、どう動いているのか。 大事なのは感覚か、それともテクニックか……。 やったことのない人にはそもそもよくわからない、また一度仕事に就いてしまうと学ぶ機会がほとんどない「編集」に関するあれこれについて、こだまさん『夫のちんぽが入らない』、爪切男さん『死にたい夜にかぎって』、まんきつさん『湯遊ワンダーランド』等々、数々の話題作を

        Ready or Not? 第1話 

          厄介なこと――金川晋吾『father』(青幻社)を読んで

          ▼ここ数年、父親とはあまりまともに会話をしていない。きっかけは、ごくくだらないことだった。2年前の年末に年賀状の製作過程でもめたことだった。 双方とも良かれと思ってやっていたことが、うまく噛み合わず、互いにイライラして、自分の方が怒ってご破算にしてしまった。 父からは、怒りのメールがきていたのだが、流し見て、すぐに削除した。あまりきちんと読みたくなかった。 それからは嫌な思いを引きずっていて、実家に帰るときも彼が不在のときに立ち寄ったり、長時間滞在しないようにしてい

          厄介なこと――金川晋吾『father』(青幻社)を読んで

          切通理作 著『情緒論』をよみなおす。

          ▼1 中学の頃、部室で友人が亡くなった。自殺だった。  僕らが声を張り上げて部活をしているなか、彼は静かにこの世を去った。 夏だったか、春だったか、それとも秋だったか。季節はめぐり当時のディティールも薄ぼんやりとしてきたが、冬でなかったことだけは覚えている。ワイシャツの白さだけが鮮明だった。初夏だったかもしれない。 僕は、部室に入る前に最後にあった人物の一人だった。そのため、当然のごとく警官に事情聴取を受けた。 「何か変わったことはなかったか?」「気になることはない

          切通理作 著『情緒論』をよみなおす。