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なんだか気になるダークヒーローたち


獅子神皓

『いぬやしき』の獅子神皓ちゃんは、子供らしい正義感と、子供らしい残酷さをあわせもつ、いまどきの高校生だ。

ふとしたことで、彼は超能力を手に入れるが、その力をどのように使えばよいのか、まったくわからない。そして善いことも悪いこともいろいろやる。殺人まで犯す。

自分で自分を律することもできず、自己中心的で、視野が狭く、世界との関係性を築けていない。

いまどきの若者をうまく戯画化していると思った。
実際、いまどきの若者はSNSのような凄い能力を持っている。
けれどもそれは自らの苦労と失敗と試行錯誤の末に自分の力で手に入れたものではない。
大人から、ポイっと投げわたされるかのように、もらったものである。
だから使い方が分からない。


志々雄真実

『るろうに剣心』の志々雄さまは古いタイプの悪者だ。
彼は政府への個人的怨嗟を、政府を倒して新世界を築くという大きな目標へと昇華させた。
但し彼が望む新世界は、なによりも実力が尊ばれる弱肉強食の競争社会である。
それは主人公の緋村剣心の価値観、即ち小市民のための平和な社会の構築と対立する。

志々雄さまは野心にあふれて若々しい。血沸き肉躍る新世界を夢見る志々雄さまを前にすると、主人公の緋村剣心が妙に悟った老人に見えてくる。
実際、剣心の口癖は、もはや自分のような剣術使いの時代は終わった、である。

そう言えば、獅子神皓ちゃんを倒した正義の味方は、犬屋敷壱郎さんというご老人だった。
いまどきの日本で、正義の味方は老人なのだろう。


夜神月

『デス・ノート』の夜神月(やがみライト)くんも、新世界をつくろうとする。
けれどもライトくんが望む新世界は、志々雄さまが望んだような弱肉強食の世界ではなく、弱者や小市民のための世界である。

ライトくんは真面目で正義感の強い優秀な大学生だ。
犯罪を憎み、法律が裁けない悪人をテロによって殺していく。
悪人をこの社会から排除すれば、弱者が泣き寝入りすることのない、理想の新世界が生まれるはず、彼はそう信じて疑わない。

しかしライトくんには二つの問題点がある。
一つが、人間を善人と悪人に区別すること。
そもそもひとりの人間が100%善であったり、100%悪であったりすることはない。どんな人間にも善いところと悪いところはあるし、一つの行為が善と悪の両方の面を持つこともある。また今日の悪人が、明日には善人になることもある。
だから人間を善人と悪人に区別することこそが、短絡的なのだ。
大切なのは、複雑な生き物である人間というものを、複雑なままに理解することである。
そのことをライトくんは分かっていない。

もう一つが、社会に対する考察の欠如である。
犯罪は社会的背景を持つ。
例えば窃盗は、犯人の経済的困窮が原因であったりする。そして貧困は社会的なものである。
それゆえ犯罪をなくしたければ、犯罪者を殺すだけではなく、犯罪を生みだしている社会的要因を何とかしなければならないはずである。
ライトくんの思考はそこに到達していない。


槙島聖護

『サイコパス』の槙島聖護は勉強家だ。
たくさん本を読んで、人間とは何か、生きるとは何かについて、よくよく考えている。

『サイコパス』の舞台は、システムが人間を監視し支配する近未来。
そこでは、ひとの未来(例えば就職先)を決めるのは、システムである。
ひとは、人生を選択する苦悩や責任から解放されている。

またこのシステムは、たとえ罪を犯していなくても罪を犯す潜在的可能性のある人間を隔離することによって、小市民のための平和で犯罪のない社会をつくっている。

そこに実存主義者の槙島聖護が現れ、システムに対する反逆を開始する。

但し槙島聖護は革命家ではない。
彼は現行のシステムに反抗するが、現行のシステムに代わって、どのようなシステムを新たに構築すべきかについて語らない。
それは理想のシステムがどのようなものなのか、槙島聖護にはわからないからである。
槙島聖護と敵対する主人公の常守朱にも、それはわからない。
だから常守朱は漸次的改良主義者にとどまる。


トマ・ロベール・ビュジョー

ビュジョーは、現在、僕が研究している、実在の人物である。

19世紀前半、スペインやアルジェリアで、フランスの支配に抵抗した民衆を虐殺したフランスの将軍である。女も子供も老人も殺した。

とはいえ、たとえ相手がアラブ人であったとしても、優れた能力の持ち主には敬意を表した。

彼は徹底した現実主義者であった。
軍事力だけでは植民地支配は不可能なことも、ちゃんとわかっていた。

きれいごとばかり言うマスコミや国会議員を軽蔑し、現場の兵士たちをまるで自分の子供のように大切にした。
この点、『ガンダム』のランバラルや、『戦争のはらわた』のシュタイナーにちょっと似ている。渋いオヤジである。

また秩序と勤勉と農村を愛し、社会主義かぶれの都市労働者を憎んだ。


ぜんぜん僕とは違うのに、何故か、魅かれる。


参考文献

西願広望「フランス七月王政期のアルジェリア植民地戦争をめぐる言説―内戦と植民地戦争の親和性」『軍事史学』第56巻第2号(2020年)。

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