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日韓問題とフランス革命


現在の日韓問題について、フランス革命をヒントとして参照しながら、考えてみたい。


・革命と外交

2019年の(そして未だに続く)日韓関係の悪化の起源を、短期のタイムスパンで検討するなら、
2017年5月に政権に就いた韓国の文大統領が、
2015年のオバマ米大統領の仲介による慰安婦問題の日韓合意に対して、
「心情的に合意を受け入れられない」と、これを覆す意思を表明したことが、発端であったと言える。

もちろん、韓国は「ろうそく革命」という「革命」を起こしたのだから、新しい革命政権は古い体制が結んだ合意を破っても、おかしくはない、という主張は妥当性がないわけではない。

確かに歴史を振り返れば、
革命政権が旧体制の外交政策を覆す事例は多々ある。フランス革命は、国民主権と民族自立の原理から、国境線のあり方を抜本的に再考した。またロシア革命は、ロマノフ王朝の秘密外交を暴露し、新外交を提唱した。
しかし革命政権が旧体制の外交を遵守する事例も多々ある。中華人民共和国は、清朝が結んだ条約に従って、香港がイギリスから返還されるのを待った。


・原理的に考える―外交において道徳と貿易と軍事は不可分だということ

それにしても、そもそもあるべき外交とはどのようなものなのだろう。

これに関して、フランス革命期の共和派は「道徳(例えば人権の尊重)」と「貿易」と「軍事」を不可分だと考えた。
つまり彼らは、道徳面で同じ価値観を共有できる外国とのみ、自由貿易を実施したいと考えた。またそのような国とのみ、軍事同盟を結びたいと考えた。


考えてみれば当然の話である。
貿易、つまり商売とは、交換である。
交換によって、相手が幸福になることを望んで、ひとは交換=商売をする。

ところで相手の幸福を望むとは、相手の価値観や道徳意識をリスペクトすることである。
それゆえリスペクトできない相手との商売はしない。
(だからまっとうな商人は反社会勢力と商売をしない。)

同様のことは軍事協力に関しても言える。
軍事的に協力しあえるのは、相互にリスペクトして、相互の幸福を望む国である。


それゆえもしも韓国が日本を、弱者に優しくない非道徳的な国であると判断するならば、韓国は日本との交易・軍事協力を断つべきである。
またもしも日本が韓国を、約束を守ることができない非道徳的な国であると判断するならば、日本は韓国との交易・軍事協力を断つべきである。

国民国家の枠組みにおいて、原理的に考えれば、以上のように言える。

しかし現実問題として、日韓が断交した場合、リスクは大きい。
とりわけ双方とも、防衛戦略を抜本的に見直して、莫大な防衛費をかけて、新しい安全保障体制を築かなければならなくなる。

また当然のことながら、日本(あるいは韓国)が、この道徳=貿易=軍事を不可分とする外交原理を、韓国(あるいは日本)にだけ適用して、中国に適用しないというのは非合理的である。
もしも日本(あるいは韓国)が中国と貿易をするのであれば、中国の道徳観(ウイグルや香港に対する政策)を肯定しなければならない、となる。

かくして道徳=貿易=軍事を不可分とする原理を大事にしすぎると、様々な混乱と難問に対峙することになる。


・現実的に考える―政治とは何か

そこでまたフランス革命に問う。
そもそも政治とは何なのか。

庶民派の弁護士であったロベスピエールは、「政治とは正義というものの実現だ」と考えた。
この発想が恐怖政治を生む一因となった。

しかしまた革命期の幾人もの政治家は、「政治とは諸正義・諸利害の調整だ」ということを知っていた。
ロベスピエール失墜後の共和派は、オランダやイタリアなど、周辺諸国との調整に奔走した。
そして革命が提唱した人権宣言を大切な原理と信じながらも、自分たちの信念を周辺諸国に押し付けるのではなく、まずはちゃんと説明して、諸国に理解してもらって、そのうえで、適宜に、柔軟に、諸国の実情に合わせてカスタマイズして、人権宣言を「輸出」しようとした。


このような調整と妥協の革命史に、もっと目を向けるべきではなかろうか。
調整とは、赤と白からピンクを生み出すクリエイティブな「わざ」である。

調整を模索することなく、道徳的原理主義をおしすすめるなら、日韓の争いは終わらない。
争いが終わらずに、物質的もしくは精神的に「得」をするのは、どなた?


既に争点は出そろっている。
過去に対する日韓の認識の相違は、明らかである。
革命韓国の中国寄りの未来志向は、はっきりした。
あとは、和解に向けた、日韓の調整である。
将来、日韓間で核戦争が勃発しないための布石を、いまのうちに打っておきましょうよ。
ちょっとSFぽいけど、それくらいの心持ちの方がよいのではないかしらん。


付記
植民地問題については、別の機会にじっくり考えたいと思っています。
そのときはまた読者の皆さんも、是非一緒に考えてみて下さいね。






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